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好きだから。  作者: ぽんこつ


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37/38

あれ?

週明けの月曜日。

今日は少し蒸し暑い。

それもそのはず、雲がどんより空模様。

でも、私のこころの中はずっとデートの余韻に包まれている。

だからウキウキ晴れ模様。

そう。

幸せ過ぎて。

だってさ、キスしちゃったから。

二回も。

それに。

結衣……

て。名前で呼んでくれて。

かわいいって言ってくれて。

唇の感触も。

つないだ手のぬくもりも。

匂いも鼓動も声も。

私の中に蓮くんが増殖していく。

思い浮かべただけでほっぺが痛い。

へへ。


そう、お漬物やパスタが好きな蓮くん。

さりげなく好きな食べ物をメッセージ交換している時に聞いてみたの。

とりあえず教えてくれたのが。

出汁巻き玉子。

アジの干物。

鶏大根。

それを聞いたら料理したくなって。

昨日はお父さんとお母さんにパンケーキを作ってあげた。

美味しいって喜んでくれたけど、それだけじゃ満足できなくて。

お母さんと夕食を作ったの。

というより、初めて一人で鶏大根。

だって、そのうち蓮くんに何か作ってあげたいなって。

「まあ、どういう風の吹き回し」

って、お母さんはおかしそうに笑っていたけど。

「彼が好きなんだ」

って。

バレてるの。

お母さんの教えのもと、頑張ったよ。

そんなに難しくなくて。

煮る前に、大根と鶏肉をごま油でさっと炒めて。

お鍋で煮はじめて。

灰汁を取ったら、お酢、薄切りにした生姜をたっぷり入れて。

灰汁が出ないのを確認して、お砂糖を入れて。

そのあとに、醤油とオイスターソース。

弱火〜中火で20分〜30分。

大根に箸が通ったら。

みりんとはちみつを回し入れて、1〜2分強火で煮詰めて完成!

調味料を入れる順番を間違えそうって言ったら、

「すさしおみーはー」

で覚えたらいいってお母さんが言ってた。

初めての鶏大根。

お父さんもお母さんも、美味しいって喜んでくれた。

「本当に?」

って、聞き返したら。

お世辞抜きで美味しいって。

だから、少しずつ練習して作ってあげられたらいいなって。

考えてるの。

――蓮くん、びっくりしてくれるかな。

喜んでくれるかな。


廊下の突き当たり。

私たちの教室に入ると――

蓮くんはもういた。

ちょこちょこと近寄って。

「蓮くん、おはよう」

「おはよう」

ちょっと眠そうな声。

「寝れてないの? 眠そう」

「ん?」

「早寝じゃないの?」

「ん?」

眉間にしわを寄せて首を傾げる蓮くん。

「夜更かしは不健康の始まりだよ」

「ハハ……」

蓮くんは笑いながら頭をかいている。

「ん?」

「母さんと同じこと言うから」

「え……?」

両手で口を覆う私。

「橘、今日部活は?」

「え? ああ、ないよ……」

ん?

なんで?

結衣じゃないの?

メッセージでも結衣って入れてくれたのに。

ん?

学校だから?

照れてるのかな?

「ねえ? 蓮くん?」

「ん?」

キーンコーン、カーンコーン……

チャイムが鳴って。

渋々席に座る私。

なんで?

それとも、私なんかしちゃったかな?

昨日は昼間と夜にメッセージして。

デートのうきうきを振り返って。

好きを確認しあって。

うふふだったのに。

なんで?

蓮くんの背中をジーッと見つめた。

むくって背筋が伸びてきょろきょろして。

振り返って。

目が合って。

微笑んでくれる。

なのに?

なんで?

首を捻って前を向く蓮くん。


キーンコーン、カーンコーン……

中休み。

ちょこちょこと蓮くんの元へ。

「蓮くん?」

私はしゃがんでテーブルの上に手を乗せる。

「なに?」

「私、何か変なこと言ったりしたりしたかな?」

「なんで? 何もしてないよ」

「そう?」

「どうしたの?」

蓮くんは首を突き出して真っ直ぐ見つめてくる。

「ううん」

おかしい。

何も変わってないなら。

なんで、結衣じゃないの?

「今日さ、帰りに『ムック』行く?」

「え? ああ、うん! 行こ」

座りながらぴょんぴょんする私を見て、蓮くんの顔にも笑顔が咲く。

「じゃあ、トイレ行ってくる」

「あ、はい。行ってらっしゃい」

椅子を引いて席を立つ蓮くん。

私もぴょこんと立ち上がる。

微笑み一つ残して、蓮くんは教室を出て行った。


挿絵(By みてみん)



んー。

なんでだろう?

その場で腕を組んで考える。

トントンって肩を叩かれる。

振り向いたら麻耶がニヤついていた。

「ねえねえ、最近メッセージこないけど?」

「え? ああ、ごめん」

「ううん、私も恭一くんと付き合ってしばらくは、結衣に対してしてたから、おあいこ」

「ああ、そうだったかも」

麻耶は腕組みをして、私の顔を覗き込む。

「結衣、どしたの?」

「ちょっといい?」

私は麻耶の腕を掴んで私の席に連行する。

二人で半分ずつ椅子に腰掛けた。

「ねえ? 麻耶たちは何て呼びあってるの?」

「ん? 私は恭一くん。彼は麻耶ちゃん。だけど?」

「学校でも?」

「……うん。そうだけど?」

「そっか……」

「ん? なに? 結衣たちは?」

「え? ああ、蓮くんと結衣って……」

自分の名前を言う時、何故か蓮くんの声で脳内再生されて。

そっと唇に手が触れていた。

じんわり熱くなる私。

「ひぇ。呼び捨てって。いいな~」

「え? あ、うん。こないだのデートで、結衣って呼んでくれたの」

「ふーん。じゃあ、何をうじうじしてるの? 結衣らしくない」

「それは……さっきさ、橘って呼ばれたから……」

「ふーん。そんなことでしおれた花みたいな顔してるんだ」

「え……?」

「学校は学校だからじゃないの? みんないるし」

「でもさ、呼んでほしいじゃん」

「まあ、その気持ちもわかる。まあ、みんなも知ってるしね結衣たち付き合ってるの」

「え? そうなの?」

「そりゃあ、分かるよ。そんなに気にする事じゃないけど」

パシン――

背中に痛みが走る。

麻耶の気合だ。

「付き合ってるんだから。彼氏と彼女なんだから。それが一番じゃない?」

「そっか……そうだね。ありがとう麻耶」

「お互いデートや部活で会えないけどさ、今度ゆっくり恋バナしよう」

「そうだね。しよう」

キーンコーン、カーンコーン……

「今日、私部活だからさ、お昼もちょっと部室行かないとだし、夜メッセージする」

「わかった」

席を立った麻耶の空けたスペースに座り直して。

ため息一つ。

そだね。

欲張りだよね。

ちゃんと好きだし私も蓮くんも。

シュッと背筋を伸ばした。

教室に帰ってきた蓮くんを目で追う。

席に座る直前で、私に気がついて。

笑いかけてくれる。

元から笑っていた私は笑顔をアップデートした。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
結衣ちゃんの違和感、放置して良いものなのかどうか。 女性の勘って侮れないから。 蓮くんとラブラブで幸せな結衣ちゃんを見ているのが好きだけれど、蓮くんに寄り添おうとがんばる結衣ちゃんも良いですね。 鶏大…
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