あれ?
週明けの月曜日。
今日は少し蒸し暑い。
それもそのはず、雲がどんより空模様。
でも、私のこころの中はずっとデートの余韻に包まれている。
だからウキウキ晴れ模様。
そう。
幸せ過ぎて。
だってさ、キスしちゃったから。
二回も。
それに。
結衣……
て。名前で呼んでくれて。
かわいいって言ってくれて。
唇の感触も。
つないだ手のぬくもりも。
匂いも鼓動も声も。
私の中に蓮くんが増殖していく。
思い浮かべただけでほっぺが痛い。
へへ。
そう、お漬物やパスタが好きな蓮くん。
さりげなく好きな食べ物をメッセージ交換している時に聞いてみたの。
とりあえず教えてくれたのが。
出汁巻き玉子。
アジの干物。
鶏大根。
それを聞いたら料理したくなって。
昨日はお父さんとお母さんにパンケーキを作ってあげた。
美味しいって喜んでくれたけど、それだけじゃ満足できなくて。
お母さんと夕食を作ったの。
というより、初めて一人で鶏大根。
だって、そのうち蓮くんに何か作ってあげたいなって。
「まあ、どういう風の吹き回し」
って、お母さんはおかしそうに笑っていたけど。
「彼が好きなんだ」
って。
バレてるの。
お母さんの教えのもと、頑張ったよ。
そんなに難しくなくて。
煮る前に、大根と鶏肉をごま油でさっと炒めて。
お鍋で煮はじめて。
灰汁を取ったら、お酢、薄切りにした生姜をたっぷり入れて。
灰汁が出ないのを確認して、お砂糖を入れて。
そのあとに、醤油とオイスターソース。
弱火〜中火で20分〜30分。
大根に箸が通ったら。
みりんとはちみつを回し入れて、1〜2分強火で煮詰めて完成!
調味料を入れる順番を間違えそうって言ったら、
「すさしおみーはー」
で覚えたらいいってお母さんが言ってた。
初めての鶏大根。
お父さんもお母さんも、美味しいって喜んでくれた。
「本当に?」
って、聞き返したら。
お世辞抜きで美味しいって。
だから、少しずつ練習して作ってあげられたらいいなって。
考えてるの。
――蓮くん、びっくりしてくれるかな。
喜んでくれるかな。
廊下の突き当たり。
私たちの教室に入ると――
蓮くんはもういた。
ちょこちょこと近寄って。
「蓮くん、おはよう」
「おはよう」
ちょっと眠そうな声。
「寝れてないの? 眠そう」
「ん?」
「早寝じゃないの?」
「ん?」
眉間にしわを寄せて首を傾げる蓮くん。
「夜更かしは不健康の始まりだよ」
「ハハ……」
蓮くんは笑いながら頭をかいている。
「ん?」
「母さんと同じこと言うから」
「え……?」
両手で口を覆う私。
「橘、今日部活は?」
「え? ああ、ないよ……」
ん?
なんで?
結衣じゃないの?
メッセージでも結衣って入れてくれたのに。
ん?
学校だから?
照れてるのかな?
「ねえ? 蓮くん?」
「ん?」
キーンコーン、カーンコーン……
チャイムが鳴って。
渋々席に座る私。
なんで?
それとも、私なんかしちゃったかな?
昨日は昼間と夜にメッセージして。
デートのうきうきを振り返って。
好きを確認しあって。
うふふだったのに。
なんで?
蓮くんの背中をジーッと見つめた。
むくって背筋が伸びてきょろきょろして。
振り返って。
目が合って。
微笑んでくれる。
なのに?
なんで?
首を捻って前を向く蓮くん。
キーンコーン、カーンコーン……
中休み。
ちょこちょこと蓮くんの元へ。
「蓮くん?」
私はしゃがんでテーブルの上に手を乗せる。
「なに?」
「私、何か変なこと言ったりしたりしたかな?」
「なんで? 何もしてないよ」
「そう?」
「どうしたの?」
蓮くんは首を突き出して真っ直ぐ見つめてくる。
「ううん」
おかしい。
何も変わってないなら。
なんで、結衣じゃないの?
「今日さ、帰りに『ムック』行く?」
「え? ああ、うん! 行こ」
座りながらぴょんぴょんする私を見て、蓮くんの顔にも笑顔が咲く。
「じゃあ、トイレ行ってくる」
「あ、はい。行ってらっしゃい」
椅子を引いて席を立つ蓮くん。
私もぴょこんと立ち上がる。
微笑み一つ残して、蓮くんは教室を出て行った。
んー。
なんでだろう?
その場で腕を組んで考える。
トントンって肩を叩かれる。
振り向いたら麻耶がニヤついていた。
「ねえねえ、最近メッセージこないけど?」
「え? ああ、ごめん」
「ううん、私も恭一くんと付き合ってしばらくは、結衣に対してしてたから、おあいこ」
「ああ、そうだったかも」
麻耶は腕組みをして、私の顔を覗き込む。
「結衣、どしたの?」
「ちょっといい?」
私は麻耶の腕を掴んで私の席に連行する。
二人で半分ずつ椅子に腰掛けた。
「ねえ? 麻耶たちは何て呼びあってるの?」
「ん? 私は恭一くん。彼は麻耶ちゃん。だけど?」
「学校でも?」
「……うん。そうだけど?」
「そっか……」
「ん? なに? 結衣たちは?」
「え? ああ、蓮くんと結衣って……」
自分の名前を言う時、何故か蓮くんの声で脳内再生されて。
そっと唇に手が触れていた。
じんわり熱くなる私。
「ひぇ。呼び捨てって。いいな~」
「え? あ、うん。こないだのデートで、結衣って呼んでくれたの」
「ふーん。じゃあ、何をうじうじしてるの? 結衣らしくない」
「それは……さっきさ、橘って呼ばれたから……」
「ふーん。そんなことでしおれた花みたいな顔してるんだ」
「え……?」
「学校は学校だからじゃないの? みんないるし」
「でもさ、呼んでほしいじゃん」
「まあ、その気持ちもわかる。まあ、みんなも知ってるしね結衣たち付き合ってるの」
「え? そうなの?」
「そりゃあ、分かるよ。そんなに気にする事じゃないけど」
パシン――
背中に痛みが走る。
麻耶の気合だ。
「付き合ってるんだから。彼氏と彼女なんだから。それが一番じゃない?」
「そっか……そうだね。ありがとう麻耶」
「お互いデートや部活で会えないけどさ、今度ゆっくり恋バナしよう」
「そうだね。しよう」
キーンコーン、カーンコーン……
「今日、私部活だからさ、お昼もちょっと部室行かないとだし、夜メッセージする」
「わかった」
席を立った麻耶の空けたスペースに座り直して。
ため息一つ。
そだね。
欲張りだよね。
ちゃんと好きだし私も蓮くんも。
シュッと背筋を伸ばした。
教室に帰ってきた蓮くんを目で追う。
席に座る直前で、私に気がついて。
笑いかけてくれる。
元から笑っていた私は笑顔をアップデートした。
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