誕生日デートです。ばか、ずるい、大好き……っ。
蓮くんが、
「誕生日だから、寿司がいいんじゃない?」
って、じゃあ私が、
「『スシゴロー』がいい」
って言ったから。
夕食は小間井駅近くの回転寿司。
お台場から電車を乗り継いで約一時間。
お腹を空かせに空かせ過ぎた二人。
蓮くんはマグロが好きなんだって。
しかもトロより赤身。
私と一緒で嬉しくて。
いつもより二皿多く食べちゃった。
そう。
蓮くんは箸じゃなくて手で食べてた。
「寿司はこうやって食べるんだ」
って。
私も真似したら、美味しいの。
理由は分かってるよ。
へへ。
蓮くんと食べてるから。
ニコニコした蓮くんと久しぶりのお寿司でこころもお腹も満腹。
でね。
蓮くんがご馳走してくれたの。
「割り勘でいいよ」
って。
「いっぱい、溢れんばかりの想い出というプレゼントもらったから」
って。
伝えたんだけど。
「お願いだから、俺のわがままだから。誕生日プレゼントあげられなかったから」
って。
全然いいのに。
わがままなんだって。
そんな風に言われたら。
ちょっとうれしい。
「ごちそうさま、ありがとうね、蓮くん」
私の言葉に、あの時みたいな、幸せそうな笑顔を見せてくれたんだ。
遅いからって。
蓮くんが家まで送ってくれるって。
蓮くんだって遅くなっちゃうから大丈夫って言ったけど。
なんかあったら後悔するって。
なんにもないよって言ったら。
「いいから」
って押し切られた。
そうだよ。
本当は嬉しいに決まってる。
けど、蓮くんのことだって。
気になるし、心配だもん。
そして――
初めて一緒に歩く家までの道。
それすら新鮮で。
少しでも一緒にいられるから、止まらない笑顔。
今日一日、蓮くんが見せてくれた笑顔も優しさも。
かわいいって言ってくれたことも。
手をつないだことも。
抱きしめてくれたことも。
好きって伝えてくれたことも。
キスも。
一緒にしたこと全部、全部。
たからもの。
あっ。
今日は初めてのこと盛りだくさんだった。
でも。
蓮くんの悩みへの違和感。
私のことで――
私が蓮くんに対する想いと、同じように悩んでるだけなのかな?
家まであと少し。
外灯の下で立ち止まった蓮くん。
私は首を傾げて蓮くんを見つめた。
「どうしたの?」
蓮くんは私の方に向き直って少し笑った。
そして、大きく息を吸って。
「誕生日おめでとう。結衣」
「えへ。ありがとう」
にやにやしている蓮くん。
あれ?
なんか今?
「それから、俺の誕生日だけど、来月の16日。一緒にいてくれるか?」
え?
なに?
誕生日……教えてくれた。
視界がぽーっとなって。
デートの誘い?
蓮くんから?
「うん! もちろん! じゃあデートは私が計画する」
「ハハ。分かった」
「16日って、何曜日だろ……」
「土曜日だったかな」
「そっか。じゃあ、今日みたいに一日中一緒にいれるね」
「そうだな。それから……」
蓮くんは少し空を見上げて。
私を真っ直ぐ見つめた。
「なあ、どうして俺のこと好きになった?」
「ん?」
「いや、ちゃんと聞いてみたくて。ごめん」
「ううん。色々理由はあるけど……体育祭の時の姿とか、写真撮ってる顔とか、私を撮ってくれていたこととか……」
「そっか」
「でも、一番の理由は蓮くんだからだよ」
「ん?」
首を傾げた蓮くん。
「蓮くんの撮る写真を見て。この人の目を通して世界を見たら素敵だろうなって。そばにいたいなって。だから、私は烏丸蓮くんを好きになったの」
「そっか……」
目尻が下がった優しい瞳が、ずっと私を見つめている。
「どうしたの?」
「いや……」
「じゃあ、蓮くんは? どうして私のこと好きになったの?」
「同じだな。橘結衣を好きになってた」
「ふふん。私たち相思相愛だね」
「ああ……」
私は蓮くんの上着を両手でつまんだ。
「ねえ、蓮くん。言いたくないなら仕方ないけど。何度だって言うよ。何かあるなら話してね。私は蓮くんの彼女なんだよ」
「ああ。わかった」
一瞬、真顔になった蓮くん。
でもすぐににやにやしだす。
「なあに?」
「俺には過ぎたる彼女だ」
「なにそれ?」
「ああ、かわいくて優しい彼女だってこと」
服を握る手に力が入る。
ピーってお湯が沸いた。
ううん。
チンって温め終わった。
「おい。どうした?」
「今なんて?」
「ああ、結衣がかわいくて優しいって言ったんだよ」
カキーン。
ブルルッて震えた体。
あれ?
結衣って。
ん?
あっ!
さっきも呼んでた?
え?
「おい、大丈夫か?」
蓮くんを見上げたら、あったかい雫が頬を伝う。
「どうした? 結衣?」
「ばか、ずるい、大好き……っ」
私は蓮くんにしがみついた。
蓮くんの匂いと鼓動。
そっと蓮くんの腕が私を包む。
もう、帰りたくないよ。
ずっとこのままでいたいよ。
私は服を握る手に、さらに力を込めた。
「結衣」
優しく届く私の名前。
ぎゅってしがみつく。
「俺だって、その、離れたくない」
「うん。あとちょっとだけ」
私はさらにくっついて。
蓮くんの匂いと鼓動をこころに染み込ませる。
そっと力抜いて、抱擁を解いて。
指で涙を拭って。
鼻をすする。
そのあとは――
こころのまま――
蓮くんの肩に手を添え、背伸びして唇をちょんと重ねた。
「好きだよ、蓮くん」
「ああ、知ってる。俺も結衣が好きだから」
微笑み合って。
吸いついたように逸れない視線。
蓮くんの瞳は外灯の明かりで揺れていた。
もう笑ってるのに、まだ笑みがわいてくる。
蓮くんもしわくちゃな顔をしてた。
「じゃあ、帰ろ」
差し出された蓮くんの左手。
ちょんと私は右手を重ねる。
そっと握られて。
一歩踏み出した。
すぐに着いてしまった家の前。
「蓮くん、家に着いたらメッセージ送ってね。心配だから」
「ああ、分かった」
「今日も楽しかった。ありがとう」
「俺の方こそ。ありがとう」
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
家の階段をトントンって上がって。
玄関のドアノブに手をかけた。
振り向いたら蓮くんが手を振っていた。
私も小さく振り返す。
ガチャ。
「ただいま~」
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