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好きだから。  作者: ぽんこつ


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35/39

誕生日デートです。闇の中に見えたもの。

今は離れちゃったけど。

確かに私の右手は蓮くんの左手とつながれていた。

そっと左手で右手を包み込む。

生ぬるい風がスカートをはためかせる。

夜の海は吸い込まれそうな黒さで。

でも、ところどころ、水面に浮かぶ夜景の星達が闇を和らげているようだった。

辺りは薄暗くて、頼りない外灯が点在しているだけ。

すぐそばにあるレインボーブリッジの方が明るい。

ちかちかと点滅したりして、大きなイルミネーションのよう。

橋の下の向こう。

東京タワーがビルの間にちょっこり見えた。

ここは、お台場の台場にいる。

どうやらここが地名の由来。

物知りな蓮くんが、ここは昔砲台で、外国から江戸の街を守るために作られたんだって教えてくれた。


蓮くんはバッグから三脚を出して夜景を撮るみたい。

私もスマホでパシャパシャ。

画面の向こうはきらびやかな都会の明かりたち。

でもね。

なんかそれどこじゃなくて。

ドキドキはしてるんだけど。

そう。

いきなりつながれた手。

そして、蓮くんの表情と行動が気になってるの。

だって、付き合う約束の条件に入っていた手をつながない。

あれだけ拒んでいたのに何でって。

すっごく嬉しいよ。

嬉しいけど。

それに――

あの何とも言えない顔が頭から離れなくて。

ちょっと、具沢山のお味噌汁みたいに収拾がつかないの。

でも、楽しいのには変わりないんだけど。

何か悩みがあるんじゃないかって。

想っちゃう。

「どう? 撮れた?」

蓮くんは三脚を畳みながら近寄ってきた。

いつもの蓮くんの顔に見える。

「うん。でも、夜景は初めてだから難しいかな」

「そっか」

それから、写真を見せ合いっこして。

でもね、蓮くんの写真。

普通だったの。

きれいだったよ。

でも、蓮くんの優しさがないっていうか。

蓮くんの目を介して見た世界じゃないの。

上手く言えないけど。

何も語りかけてこないんだ写真たちが。

だからか蓮くんも感想を求めてくるようなことはなかった。

どうしたんだろ?

やっぱり何かあるのかなって。

想っちゃうよね。

だから、力になりたいって思うよ。

だって、私は蓮くんからたくさん、たくさん色んなもの貰ってるから。


そして、ご飯食べに行こうってなった。

暗がりが多くて。

足元が芝生と土でちょっとおぼつかなくて。

「掴まってもいい」

私は蓮くんの肘あたりをつまんだ。

「もう掴まってるじゃん」

「へへ」

いつもの声。

変わらない声。

光が届かないとこは真っ暗に近くて。

ざわざわって木が鳴く度に、冷やりとした向かい風が顔に当たる。

私は左手を胸に当てて、小さく息を吸う。

「蓮くん、なんか悩みでもあるの?」

「ん? どうして?」

「どうしてって、さっき私に手を差し伸べてくれた時に怖い顔してた」

怒られるかなって思ったけど。

気になっちゃって。

蓮くんのこと好きだから。

聞いちゃった。

ザー、ザー……

かすかに聞こえる波の音が時を刻む。

「……そうか?」

返ってきた言葉。

少し掠れて鈍い声。

「そうだよ。怖いっていうか哀しいっていうか、上手く言えないけどそんな顔してた。私はここにいるよ、ずっと蓮くんの傍にいるよ」

「……そう、だな」

ピタッと止まった蓮くん。

「大丈夫? 蓮くん?」

「仮に……仮におまえが悩んだりするときどうしてる?」

「え? 私?」

「ああ、例えばの話」

「私は、麻耶とかに相談するかな。あ、でもこれからは蓮くんにも相談することもあると思う」

「そっか……今悩んでることは?」

「今……? 悩んでるというか、その、蓮くんのことだよ……」

「俺のこと?」

「だって、好きだから……かわいいって想ってくれるかなとか、好きって言って欲しいなとか、何か悩みあるのかなとか」

「……そっか」

掠れた声だった。

「蓮くん?」

暗くて表情はさすがに見えない。


あっ。

あの時――

水族館からの夕暮れの帰り道に見せた顔がふいに思い浮かんで。

どっか遠くへ行ってしまいそうな寂しげな顔が。

怒られてもいいから。

私はつまんだ右手を離して腕に沿って――

蓮くんの手を握った。

ビクッて反応したけど。

拒絶はされなかった。

ぎゅっと少し力を込めて握る。

そして蓮くんの方を向いて左手でつないだ手を包む。

「蓮くん、悩みとか不安なこととかあったら話すと楽になるっていうから、私で良かったら話してね」

ザッ、て音がして。

蓮くんが動いた気配がして。

包んだ私の手に温もりが重なった。

「蓮くん?」

その手は震えていた。

「ありがとう、その気持ちだけで十分。いや十分すぎる」

震えた声。

今まで聞いたことない弱々しい声。

「だめだよ。ちゃんと言っていいよ。我慢しないでいいよ」

「……いや」

「いやじゃないよ。蓮くん大好きだよ。……だから、全部、ちょうだい」

次の瞬間。

蓮くんの胸の中にいた。

熱くなる体。

けたたましい心臓。

苦しいくらい。

痛いくらい。

蓮くんの匂い。

髪にかかる吐息。

服越しに伝わる体温と少し早い鼓動。

私は目を瞑って、そっと背中に手をまわしてさすった。

大丈夫だよ。

何があってもそばにいるよ。

そう想いを込めて。


挿絵(By みてみん)



ザー、ザー……

長かったのか。

短かったのか。

蓮くんの腕からゆっくり力が抜かれていって。

解かれた抱擁。

私は蓮くんの腰に手をまわしたまま。

そっと蓮くんの手が私の肩を掴む。

鼓動は収まる気配はなくて。

暗闇に目が慣れてきたのか。

蓮くんの顔は見える。

「ハハ……」

笑った蓮くん。

「俺も橘……おまえのことで悩んでるのかもしれない」

「私のこと?」

「好きだから……」

あっ。

唇に――

柔らかくて。

あったかい。

確かな感触。

蓮くんの服をギュッて握った。

お腹がきゅうってなって。

瞬時に全身を何かが駆け巡って。

熱いのに一段と火照る頬。

膝の力が抜けそうになって。

全身がとろけていってしまいそうで。

うれしさと恥ずかしさと――

もっと、このままでいたいって……

いけないことだけど、もっと、して欲しいって、そう考えちゃった。

そっと吐息と共に離れた温もりの余韻は、私に確かに刻まれた。

「飯、行こうか」

優しい、いつもの。

ううん。

ずっと、ずっと優しい声色。

「……うん」

私の右手は蓮くんに捕まって。

もうずっとこころは蓮くんに夢中。

外灯が増えてきて。

砂浜に戻ってきた。

そっと見た蓮くんの横顔。

微笑んでいた。

瞳が柔らかく光を帯びて。

今が楽しいって。

この瞬間が嬉しいって。


――でも、あんな表情をするぐらい私のことで悩んでくれていたの?

漠然とした違和感があったけど。

グー。

って、鳴った蓮くんのお腹。

ハハって笑って。

「腹減った」

気の抜けたような声。

「うん、私も」

蓮くんの眼差しが私を包む。

私がお腹をさすってみせると。

ニコって咲いた蓮くんの顔に光が当たって消えた。

一瞬の花火みたいで。

きれいで。

見惚れてたら。

右手が引っ張られた。

ちょこちょこと並んで歩きだす。

右手から伝わるぬくもり。

確かめるように力を入れると。

しっかり握り返してくれる。

ほっぺが落ちそうな私。

だって。

好きって言ってくれたし。

それに――

そっと左手を胸に添える。

しちゃったもん。

キス。

こころの奥の奥からわき上がる喜びが私を包んだ。

これが幸せってことなんだよね。

きっと――

お台場の建物たちが満点の星空のようにキラキラして見えた。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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*人物画像は作者がAIで作成したものです。

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