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血染めの楽園  作者: 製作する黒猫
楽園島
14/50

14 必要のないこと


 家に着くと、彼が待っていた。

「おはようございます。散歩ですか?」

「うん。朝の散歩は気持ちがよくていいね。」

「それは良かった。朝食はまだ済んでいませんよね?」

「まだだよ。」

「今日は、庭で食べませんか?ハンバーガーを買ってきたので、一緒に食べましょう。」

「ありがとう!」

 この家は、広い庭まである。色とりどりの花が植えられた庭には、お茶をするような場所まであり、そこを使うのは今日が初めてだ。




 紙袋をテーブルに置いた彼は、照り焼きと海老カツ、普通のと野菜バーガーがあると言ったので、海老カツをもらう。

「1個でよろしいので?」

「2個欲しいな。あなたは何が好き?」

「僕の好きなものは、あなたです。」

「え?」

 驚いて彼を見れば、彼は真顔だった。冗談とかではない様子に、私は何も答えることができない。


「・・・どうかしましたか?」

「え、いや。」

 それはこっちのセリフだが、彼は何もなかったかのように、もう一度何がいいかと聞いてきたので、野菜を選んだ。真意を問う勇気はない。


「ありがとう。」

「いいえ。飲み物は、ウーロン茶を買ってきました。どうぞ。」


 準備が整って、彼も私も席に着いた。


「いただきます。」

「召し上がれ。」

 海老カツを一口食べて、ウーロン茶を飲む。そんな様子を彼はじっと見ている。


「どうしたの?」

「ウーロン茶は好きですか?」

「え、普通かな。でも、ご飯食べるときは甘いものより、こういうのがいいよね。」

「そうですね。」

「・・・」

「・・・」

 なんだろう、今日は気まずい空気が流れている。今までこんなことなかったのに。


 彼の様子を見れば、食はあまり進んでいないようだった。やたらと飲み物を飲んでいる様子は、落ち着きがないように見える。


「何かあったの?」

「・・・少し、聞きたいことがありますが、聞いていいのか悩んでいます。」

「別にいいよ。何でも聞いて?」

「そう言っていただけるのは嬉しいですが・・・いえ、ここまで言ったのです。聞くことにします。」

「うん。」

 改まって何を聞かれるのかわからないが、自然と背筋が伸びた。


「高校生の頃は、何部でしたか?」

「帰宅部。」

「中学生は?」

「帰宅部。」

「・・・なぜ、部活に入らなかったのですか?」

「え、それは・・・」


 人と関わりたくなかったから。


「・・・なんでだろう?」

 なぜ、人と関わりたくなかった?


「では、今までで一番仲の良かった友人は?」

「仲が良かった子か。あまり友達はいなかったし、みんな付き合いが浅かったんだよね。中高共に・・・今もだけど。そうだね、小学生の時はいたかも。」

 顔は思い出せないけど、優しい声だけは思い出せる。一緒に鬼ごっこをしたりはしなかったけど、話しはたくさんした。


「よく覚えていないけど、すごく優しい子だったよ。」

「そうですか。では、小学校の思い出はありますか?」

「思い出・・・」

 どんな小学校生活を送っていたか?なぜか浮かばない。


「小学校での思い出なんて、昔すぎて思い浮かばないけど・・・仲のいい子と話をたくさんした気がする。顔は覚えてないけど、たくさん話したから声は覚えているんだよね。今どうしているのかな。」

 顔も思い出せないその子は、なぜか中高では付き合いがなかった。だから、その子が今どうしているかは全く分からない。


「・・・大体わかりました。」

「何が?」

「・・・あなたが、忘れっぽいということをですよ。」

「な、確かに覚えていないことは多いけど・・・それは、きっと必要のないことだからだよ!忘れるのは脳の正常な機能っていうから!忘れっぽいのが悪いわけじゃないよ!」

「必要のないこと・・・」

「どうかした?」

「いえ、そうですね。必要のないことは忘れるのが一番です。必要のない記憶のせいで、大切ことを記憶できなければ意味がありませんからね。」

「まぁ、そうだね。」


「この楽園島で、楽しい思い出を一杯作りましょう。そして、必要のないことは、さっぱり忘れて、幸せになりましょう。僕も、あなたも。」

「なんだか、それはそれで怖いよね。」

 辛いも苦しいもないのは、危険な気がする。幸せだけなのは、幸せを普通にしてしまうだろう。それは、残念なことだと思う。





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