13 少年の考え
「本当の楽園って、ここよりいいところなんだよね?」
「らしいな。」
「君は、行きたいとなぜ思わないの?より良い暮らしがしたいとは思わない?」
まだここに来たばかりの私には、ここは本当の楽園だと思う。何をしてもいいし、何もしなくてもいい。お金の心配もいらない。それは素敵なことだ。
でも、それが日常となってしまった少年には、偽りの楽園なのだろう。なら、もっと幸せになりたいと望み、本当の楽園を目指そうとする方が自然だ。
「俺は、怖いんだ。本当の楽園に行くことが。」
「怖い?」
「そうだよ。ここに来た時、なんてすばらしいところに来たんだろうって思ったよ。見る景色全てがキラキラしていて、将来の心配とかいらなくて。でもさ、それが今普通になったわけ。それって、怖いことだと思わないか?」
「・・・もったいないとは思うけど。怖いの?」
「うん。」
「姉ちゃんは、何のために生きているの?」
「え?」
突然の質問に答えられない。何のために生きているかなんて、考えながら生きているわけではないし。
「楽園の外では、みんな人のために生きていると俺は思う。」
「人のため?」
「そう。親や子供、友達なんかのため。悲しませたりしないために、親なら子供を生かすためにでもある。人一人が死ねば、誰かしらの生活が変わってしまうから、それを変えないため・・・みたいな。」
「人のためか・・・」
確かに、人が死ぬということは、周りに色々な影響を与えるのだろう。
「でもさ、楽園だとその影響が減るんだよ。」
「・・・どういうこと?」
「親が死んでも、子供は生活に困らない。もちろん、悲しかったりはすると思うけど、貧乏になってしまうとかはない。」
「それは、そうだね。普通だったら、将来お先真っ暗になってしまう人もいるし、人一倍努力する必要も出てきたりするよね。」
「悲しさは変わらないけどね。でも、俺はそれでいいと思う。」
「悲しいのがいいことなの?」
少年は頷くが、私には理解できない。悲しいなんて感情は、いらないと思うから。楽しいことだけでいい、幸せになりたい。もう、悲しいのは辛いのは嫌だ。
あれ?悲しくて辛いことってなんだっけ?
「だって、それが人間だと思うんだよ。俺は、そういう感情も抱けるのが人間だと思う。」
「でも、悲しくて辛いことは嫌だな。」
「僕も嫌だよ。僕だって、悲しくて辛い思いはしたくない。楽園にはそれがないらしい。でも、僕は楽園には行きたくない。だって、親が死んでも泣けなくなったら、それはもう僕じゃないと思う。」
少年の言葉で、その情景が浮かんだ。
死んだ両親の前で、幸せそうに笑う少年。それは、泣く少年よりも見たくないものだ。
本当の楽園は、辛く悲しいことがない、幸せな場所。それは、とても恐ろしいことではないかと、少年に気づかされた。
「それに、楽園に行って、そこが日常になってしまったら、それはものすごく不幸なことだと思うし。だから、僕は行かない。この楽園島で生きることにする。」
「そうだね。それが一番幸せなのかもしれない。」
「幸せだと思う。それに、今は姉ちゃんっていう、新しい友達ができたから、それなりに楽しいしな!」
少年は立ち上がると、にっと笑った。
「また、会おうな!」
「うん、またね。」
走り去る少年の後姿を見送って、私は立ち上がる。
今日も楽しみだ。




