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懐かしの仲間




 初心者向けの薬草採取クエストが一転し、邪神教団との戦いに巻き込まれたあの日から1週間。レアさんのお見舞いということで、俺はヴェロニカさんと共にエルドラの診療所に訪れていた。


 レアさんは生命力と魔力をコクマーの糧とされていた影響もあり、未だに目を覚まさない。とはいうものの、診療所の先生曰く、点滴の要領で魔力と栄養を補充していけば死ぬことはないとのことだった。ハイエルフの莫大な魔力と生命力のおかげで、一命をとりとめたというわけだ。


 残る問題は、意識が戻らないこと。

 こればっかりはもう、レアさんの気力にかけるしかない。

 俺達に出来るのは、こうして毎日様子を見に来ることだけだ。


「レア、まだ目を覚まさないか……」


 診療所の病室。

 ベッドの上で眠るレアさんを見ながらヴェロニカさんは心配そうに呟いた。レアさんが解放されてからかれこれ1週間だ。ヴェロニカさんが不安に思うのも無理はない。エルーさんも毎日様子を見に来ているらしいし、1日でも早くレアさんが良くなることを祈るばかりだ。


「眷属の触媒になっていたせいで身体に相当な負荷がかかっていたんでしょうね……。でも、命に別状はなくて本当に良かったです」


「ま、レアはしぶといからね。これくらいじゃ死なないって」


 そうは言いながらも、ヴェロニカさんは不安げだ。

 きっと内心ではとても心配しているに違いない。素直じゃないから、こういう言い方をしているのだろうと最近分かってきた。


「…………ていうか、なんでアイツまで来てんの?」


 そう言って、ヴェロニカさんは病室の外で待機しているクロヴィスの方を睨んだ。


「あはは……、一応クロヴィスには運転手をしてもらっているので。でも、大抵近くにいてくれますね。さすがに冒険者の活動中は自粛していましたけど」


「はぁ……。相変わらずキモイなあの男は。主に忠誠を尽くすのはいいけど、アイツの場合は度が過ぎてるっていうか……。――クロエさ、あの男から何か変な事とかされてない?」


「いえ、そんなことは……。いつも気遣っていただいて申し訳ないくらいです。この世界でこうしていられるのも、クロヴィスのおかげですし……。本当に感謝してもしきれません」


 と、俺が言うと、病室の外で待機していたはずのクロヴィスが急に目の前に現れた。そして、片膝をついて、


「――もったいなきお言葉です、クロエ様。しかし、私の使命はあなた様に仕え、あたな様のために死ぬこと。これからもクロエ様に見限られぬよう、誠心誠意尽くさせていただきま――」


「うざ――っ」


 クロヴィスの言葉の途中で、ヴェロニカさんが彼の頭目掛けて蹴りを入れようとした――が、そこはクロヴィス。すぐさまヴェロニカさんの横やりを察知し、姿を消した。


「……ちっ。無駄に反応が早いな……。――クロエも面倒だったらあんなヤツ蹴っていいから。丁度蹴りやすい位置に顔もあったことだしさ」


「フフ、クロエ様はそのようなはしたない真似は致しませんよ、ヴェロニカ様」


 病室の外に瞬時に戻ったらしいクロヴィスが、ヴェロニカさんに声をかけた。なんとなくだが、その声音はいつもより楽しそうだ。きっと久しぶりに昔の仲間と話せて嬉しいんだろう。


「なにそれ。クロヴィスアンタ、もしかしてアタシははしたないって言いたいワケ?」


「いえいえ、そういうわけではございません。クロエ様には品があるというだけのことです。決してヴェロニカ様をバカにしているわけではありませんよ。ですが、気分を害したのでしたら謝罪いたします」


「…………はぁ」


 クロヴィスの言葉に、ヴェロニカさんは盛大にため息をついた。

 ただ、その表情は怒っているというよりも呆れているといった感じだ。

 ヴェロニカさんもきっと、昔の仲間とこうして話せることが嬉しいのだろう。この世界でずっと離れ離れになっていたんだし、間違いない。


「まあでも、相変わらずで安心したかな。クロヴィスはこういうヤツだったって久しぶりに思い出したよ」


「ふふ、それはなによりです。――それではクロエ様、私は先にクルマの方へ戻っておきますので」


「わかりました」


 俺が言葉を返すと、クロヴィスの気配が病室の外から消え去った。

 相変わらずの神出鬼没具合だ。急に現れたり消えたり出来るのも、分身体を常に走らせているからだろう。いったい何人のクロヴィスがこの世界で暗躍しているのやら。そして何をしているのやら。


 クロヴィスが陰で何をやっているか非常に気になるが、まだその時ではないらしいので今は大人しく待っている。しかし、いつになったらその時が来るのだろうか。ただ待つというのも中々にもどかしいものだ。


「――さてと、アタシらもそろそろ帰ろっか」


「そうですね――……と言いたいところなんですが、おトイレに行きたいので先に帰ってもらって大丈夫ですよ」


「わかった。それじゃ、今日はここで」


 そう言って、ヴェロニカさんは病室から出ていった。

 俺もさっさと用を足してクロヴィスが待つクルマに戻るとしよう。

 


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