仕事の終わり
邪神の力を失い、元の人間の姿に戻ったエリックはクロヴィスの見事な蹴りで気を失ってしまっていた。岩肌にもたれ掛かり、ぐったりとしている。
ひとまずの脅威は去ったので、ミレーヌさんは聖なる結界を解いた。
その後、ミレーヌさんは手慣れた動きでエリックを拘束した。魔術による拘束だ。白い魔力の縄がエリックの身体を封じている。
「これで目を覚ましてもエリックは動けないでしょう。彼を教会に連れ帰り、邪神教団の情報を聞き出します」
そうミレーヌさんが言うと、どこからともなく聖王教会のシスター達が現れ、エリックを連れて行った。
にしても、いったいシスター達はどこから現れたのだろうか。急に現れたものだから、みんなもびっくりしている。
「……つーかさ、さっきのシスター達どっから湧いてきたの?」
俺が感じた疑問を、代わりにヴェロニカさんがミレーヌさんに聞いてくれた。
ヴェロニカさんも俺と同じ疑問を抱いていたようだ。
「彼女たちは戦闘には向いていないので、後方で待機させておりました。ふふ、備えあればなんとやらと言いますからね~」
戦闘が終わったからか、ミレーヌさんの言葉遣いが柔らかくなっている。
日常で使うのはこっちの喋り方なのかもしれないな。
「レアさんも責任をもって聖王協会が街の診療所まで連れて帰りますので、ご安心くださいね~」
「助かるよ。ありがとう」
ヴェロニカさんがお礼を言うと、エルーさんもやって来て、
「お、お姉ちゃんをよろしくお願いします……っ」
ミレーヌさんに深々と頭を下げていた。
二人ともレアさんのことを大事にしているのだと、ひしひしと伝わってくる。ミレーヌさんは「もちろんです」とほほ笑みながらエルーさんに応えた。
冒険者としてレアさんと共に生きてきたヴェロニカさん。
もし、ヴェロニカさんからこれからも冒険者の道を進みたいと言われたら、俺はどう答えればいいのだろう。俺の意思はヴェロニカさんにもう伝えてあるので、これ以上は無理強い出来ない。あとはもう、ヴェロニカさんの意思次第だ。
「――しかし、冒険者になっていきなりこうも大きな事件に巻き込まれるとは思わなかったよ……。邪神の復活とやらも、他人事には聞こえない……が、僕達では何の力にもなれそうにないね」
言いつつ、ロイドさんはメガネをクイっとした。
クイってするタイミングじゃなかった気もするが、まあいいか。ツッコめる雰囲気でもないしな。
「まったくだな。ま、今回のことは無事に終わったみてぇだし、いいんじゃねぇか?」
「はぁ……。つくづく君はお気楽だな。その性格だけは見習いたいものだね」
「ダッハッハ! 終わり良ければ全て良し! みんな無事に帰れるんだからそれでいいのさ!」
そう言いながら、アントニオさんはロイドさんの肩を叩いた。
「やれやれ……。当初の目的だった薬草もちゃっかり回収していたし、タフな男だよほんと」
ロイドさんは肩を竦めながら、苦笑いした。
この二人も巻き込まれた立場なので、後でちゃんと説明はしないといけないな。ヴェロニカさんのために冒険者になったので、これからは彼らほど仕事をする機会はないだろうし、その辺のこともキッチリと話しておきたい。
「そういえばクロエちゃん、さっきの背が高くてカッコいい男の人って……」
と、唐突にエルーさんが聞いてきた。
さすがにあんだけ派手なことしてるし、このままクロヴィスのことをスルー……は出来ないか。
「ええっと、あの人は超強い知り合いと言いますか何と言いますか……。一から説明すると長くなりそうなので、また今度皆さんにまとめてお話ししますね」
「そういうことなら……。――えと、それとね……。私達を守ってくれてありがとう、クロエちゃん」
エルーさんが俺にそう言うと、ロイドさんとアントニオさんもやって来て、
「僕からも感謝を。キミがいなかったら僕らはとっくの昔にやられていたよ」
「違いねぇな。クロエには助けられてばかりだったぜ。ありがとよ」
「皆さん……」
よかった。もしかしたら軽蔑されるかもと思っていた。でも、そうじゃなかった。俺が冒険者として出会った仲間は皆優しい人達でよかった。
ヴェロニカさんに近づくために冒険者の資格を取ったけれど、いい仲間とも巡り合えた。きっと彼らはこれからも冒険者として活動を続けていくのだろう。俺とはまた違った道を歩んでいくのだ。
軽く混ざり合った道は、交差はするもののいずれ乖離する。
だけど、そんな小さな縁でさえも俺は大事にしたい。
俺は冒険者として生きていくわけではないから、少し寂しい感じもするけれど、これで一生のお別れというわけではない。これからきっと、こういうことはたくさんあるだろう。
紡いだ繋がりはきっと、細くとも絶たれることはないと信じて――。
「――ふふ、それでは事後処理も終わったことですし、私達も戻りましょうか~」
ミレーヌさんの一声で、俺達は帰路についた。




