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戦いの始まり




 教会前の広場で、そいつらは現れた。

 エリベルト・クレスターニ。今回の派遣部隊の副長を務めている男だ。

 そして、その背後には大勢の帝国兵たちが控えている。恐らく、クレスターニ家と繋がりが深い者達だろう。ここに来ているということは、息がかかっただけの兵士じゃないはずだ。


「――どうやら、すでにバレてしまっているようだな」


 エリベルトが不敵に笑いながら言った。

 バレている、とは彼らの計画のことだろう。

 そもそも、魔導兵器を運搬しながら大所帯で進軍してきた時点で察しはつくだろうが。


「エリベルト。私はお前を信頼していた。その腕前も信用している。剣聖の名が欲しいのなら帝都に戻り正々堂々と試合をしよう。そこで私に勝てれば、この名はくれてやるさ」


 オレリアさんがそう言うと、エリベルトは肩を震わせ始めた。

 笑いを堪えているように見える。本性を現し始めたようだ。


「何を言い出すかと思えば……。ククク、本気で言っているのか、穢れた血め。貴様のような魔族混ざりの弱小貴族とこの私が正々堂々と試合をするはずがないだろう」


「穢れた血、か。そうだな。私は剣聖でありながら魔族との混血だ。だが、それは皇帝陛下も知るところ。魔族の血を有してなお、私は民を守るようにと仰せつかっている。こんな私でもあのお方は認めてくれたのだ。それを覆そうというのなら、お前は陛下の意思に背くことになるぞ」


「うるさい! 皇帝陛下が認めても、私が……誇り高き帝国の民たちが貴様を認めはしない! ――それになぁ、オレリアよ。ここで私が貴様を殺してしまえば全て片がつくのだよ。白銀の剣聖オレリア・ブランウェンは邪竜との戦いで戦死。その後、副長の私が隊をまとめ上げ、邪竜達を討伐した! オレリア・ブランウェンが成し遂げられなかったことを、この私が成し遂げたのだと! 陛下にはそう報告すれば剣聖の名は私のモノだ!」


「……っ。エリベルト……! お前はどこまで……!」


「フハハハハハ! 私はもう後には退けないのでね……! ――お前達、魔導ギガントの起動を開始せよ!」


 言って、エリベルトは背後の兵士に指示を出した。

 すると、後ろの荷台付きの大きな大型車から、見たこともない兵器が現れた。


 あれは、巨大ロボットか……?

 鋼鉄の肉体を持った巨大な人型魔導兵器が、ゆっくりと立ち上がった。


「魔導ギガント……! しかも普通のサイズじゃないだと……!」


「その通り、こいつは特別製でね。サイズも通常の2倍以上。出力も従来のものと比べ大幅に強化されている。あのヨルムンガンドすら葬り去れる程の性能を持った搭乗式の魔導ギガントだ」


 言って、エリベルトは大きい魔導ギガントの搭乗席に乗り込んだ。

 これが、彼らの切り札というわけか。

 しかしあんなもの、剣士1人ではどうすることも出来ないんじゃなかろうか。さすがのオレリアさんでも、鋼鉄を切り裂くのは難しいように思えるが……。今は様子を見るしかないか。手助けしたいのはやまやまだが、オレリアさんにはオレリアさんの矜持がある。それを無下にはできない。


『さあ、蹂躙してやろうではないか。お前達、遠慮はいらん。全ての魔導ギガントを起動し、オレリア・ブランウェンを叩き潰せ! だが安心するがいい。剣聖の名は、このエリベルト・クレスターニが責任を持って全うすると誓おう!』


 魔導ギガントの内部スピーカーから聞こえてくるエリベルトの声。

 それに応えるように、敵陣からトキの声が上がる。

 通常サイズの魔導ギガント達は遠隔操作式なのか、杖を持った魔術師達が一斉に構えた。そして、ただの歩兵はこちらに突撃してくる。


 敵は人数にして500くらいか。大部隊の十分の一にも満たないが、彼らはクレスターニ家と関わりが深い者達だ。普通の兵士ならともかく、あいつらはオレリアさんを殺すことに躊躇はないだろう。


「卑怯な連中だなオイ! もう我慢できねえ! クロ助、俺も加勢するぜ! いいよな!?」


「そうですね。オレリアさんはあの大きい魔導ギガントに集中してもらうとして、周りの兵士達と小型の魔導ギガントは私達で何とかしましょう」


「よしきた! レベッカ、行くぞ!」


 そう言って、ゼスさんは大きな棍棒を担いで戦場へ飛び出していった。

 レベッカさんは、嘆息するものの、


「まったく、しょうがないわね。あのバカに付き合ってあげるわ」


 満更でもなさそうに渦中へ飛び込んでいった。

 相変わらずの2人にどこか安心感を覚えつつ、俺はグエンさんを見る。

 恐らく、それだけで理解してくれたことだろう。ゼスさんとレベッカさん。あの2人の手綱を頼むと。


「お任せくだされ」


 短く一言俺に告げ、グエンさんも戦場へ向かった。

 そして、教会に残ったのは俺とクロヴィスとベレニスさんだけになった。


「いよいよですね。我らはどう致しましょうか?」


「クロヴィスはベレニスさんを守ってください。私は、いざという時のために戦況を見定めつつ適宜動きます」


「かしこまりました」


 クロヴィスは丁寧に一礼する。

 だが、横にいたベレニスさんは申し訳なさそうにしていた。


「申し訳ございません、クロエ様……。私が戦えないばかりにクロヴィス様を……」


「気にしないでくださいベレニスさん。帝国の兵士くらい、グエンさん達だけでどうとでもなりますから。それに小さな魔導ギガント達の方は、私がなんとかしてきますので」


 言って、俺も戦場の方へ向かう。

 すでにグエンさん達と帝国の歩兵達がぶつかっている。

 オレリアさんは、あの巨大な魔導ギガントと小型の魔導ギガント達と戦っているが……さすがに分が悪そうだ。


 だが、今回の因縁はオレリアさんとエリベルトの二人。剣聖を巡る争いだ。

 その二人の決着は、彼ら自身でつけた方が良いのかもしれない。

 そんなことを考えながら、俺は小型の魔導ギガントに狙いを定めた。

 

 


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