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凶悪な幼女




 エリベルト・クレスターニの一団との戦闘が始まってから数十分が経過した。

 戦況で言えば、大きな変化はまだ起きていない。

 オレリアさんは、巨大な魔導ギガント相手に大立ち回り中だ。

 そして、グエンさん達は指示通り歩兵達と戦闘を繰り広げている。ゼスさんやレベッカさんが強くとも、相手は数が多い。短時間で押し切るのは容易ではないようだ。


「もう! 私ばかりが魔導キャノンと魔導バリスタに狙われるじゃない!」


 空を飛んでいるレベッカさんには、敵の後衛集団が操る魔導兵器の集中砲火を受けていた。しかし、今のところ被弾はしていない。邪竜のように的が大きいわけではないし、なにより、邪竜よりもレベッカさんの方が圧倒的に機動力が高い。そう簡単に攻撃が当たることはなさそうだ。


「はは! レベッカのやつが魔導兵器の攻撃を引き受けてくれるからこっちは楽だぜ! オラオラァ! もっと一斉にかかってこいや!」


 ゼスさんは複数人を相手に強気のようだ。

 どでかい棍棒を振り回し、敵の歩兵の歩みを食い止めている。


「ゼス! 目の前の敵に集中せい! 油断していると足元をすくわれるかもしれんのじゃぞ!」


 言いつつも、グエンさんは4本に増えた剛腕で敵を薙ぎ払う。

 さすがのパワーだ。ゼスさんとグエンさんは近接戦闘向けの大火力型で、戦闘スタイルは似ているように思える。

 

 その点レベッカさんは機動力重視の翻弄スタイルか。

 空を飛べるという利点を活かし、奇襲を仕掛けることに特化している。

 皆、各々の種族の特性を活かして戦っているようだ。


「クソ! 何なんだこいつらは! 3人しかいねえのに抑えきれない……!」


「見た目も人間とは違うし、こいつらも魔族なのか……!?」


「いいから黙って戦え! 我々は誇り高きクレスターニ家ののエリベルト様についていくと決めたのだ! この戦に負ければ、俺達も未来がないぞ!」


 敵の帝国兵達も必死のようだ。

 それもそうか。ここで負けて俺達があいつらのしていたことを言いふらせば、剣聖の名を奪おうとした逆賊扱いになるだろうしな。しかも、卑怯な手を使ってオレリアさんを殺そうとした最低な連中だという烙印まで押される。最悪、獄中行きとかになるかもしれない。そりゃ必死になるってもんだ。


 そんな中、俺は迫りくる敵兵達をいなしながら奥へと進んでいた。

 目的は敵陣後衛部隊。魔導ギガントと魔導兵器を操っている連中だ。

 そいつらさえ叩ければ、こちらもだいぶ動きやすくなる。

 飛び道具を持つ敵が、エリベルトが駆る巨大な魔導ギガントのみになる。

 そうすれば、オレリアさんも戦いやすくなるだろう。


「邪魔です……!」


 魔力の刃で敵を薙ぎ払いつつ、押し通る。

 魔導ギガント相手には【ラ・エクレール】をぶっ放し倒す。

 そうこうしているうちに、敵の魔術師部隊にまでたどり着いた。

 奴らが魔導ギガントと魔導兵器を操っている。こいつらを倒せば、戦況は一気に変わるはずだ。


「よし……」


 予定通り、ここで一気に叩く――!


「――ん? お、おい! アイツはヨルムンガンドを倒した小娘じゃないか!?」


「ほ、本当だ! どうしてこんなところに……!?」


「う、狼狽えるな! こっちは魔術師が大勢いるんだ! 一斉に取り囲んで叩け!」


 魔術師達が一斉にこちらに向けて攻撃を開始した。

 魔導バリスタと魔導キャノンによる砲撃。

 さらに、手の空いた魔術師による魔術攻撃。

 そして、残っている魔導ギガント達も一斉に俺の方へ襲い掛かってきた。

 絶体絶命な状況。

 だけど俺は、自らこの死地を作り出したのだ。


「クロっち! 危ない――!」


 空から状況を見ていたレベッカさんが叫ぶ。

 でも、大丈夫だ。これくらい何の問題もない。


「はぁッ!」


 俺は魔導ギガントに向けて【ラ・エクレール】を。

 そして魔力攻撃に対しては【ネビュラ・ホール】を展開して対応した。

 鋭い雷撃は魔導ギガントを貫き、その巨体に大穴を開けた。

 真っ黒な球体は、敵の魔術を全て吸い込んだ。

 それら全てが、ほんの数秒の出来事だ。


「……お、おい、うそだろ……。我らの一斉攻撃をこうも簡単に対処するなんて……」


 敵の魔術師が、絶望にも似た声を上げる。

 魔導ギガント達がプスプスと音をたて崩れ落ちていく。

 何が起こったのか、理解するのに時間がかかっているのだろうか。呆けている魔術師も見て取れた。


「は、はは……。なんなんだこいつは……」


「幼女の皮を被った化け物だ……」


「こんなの、七武人クラスじゃないと相手にならないぞ……」


 青ざめる敵に向かって、俺は歩く。

 わざと威嚇できるように、右手からはバチバチと危ない音をたてながら。


「これ以上、私と戦いますか? 戦うというのなら――」


 盛大に悪そうな顔をして、俺は右手を振り上げた。

 そして、適当に放ち、近くに立っていた大木が音をたて倒れる。

 その直後――。


「う、うわあああぁぁぁぁ! 逃げろ! ここにいたら殺される!」


「し、死ぬのはごめんだ! こんな化け物がいるなんてきいてない!」


「逃げるんだ……勝てるはずがない……ッ」


 幼女の凶悪な演技に、大の大人たちは一目散に逃げていった。

 なんというか、酷い絵面だな……。

 まあ、彼らの頼みの綱の魔導ギガントくんたちを一撃で葬ってしまったからなぁ。慌てふためくのもしょうがないか。


「全員逃げたちゃったし……」


 少々複雑な気分になりつつも、俺は右手を下ろした。

 魔導ギガントの装甲を一撃で貫いたこの魔術は、彼らにとって恐怖以上の何者でもなかっただろうな。俺も逆の立場なら脱兎のごとく逃げ出してる自信がある。


 作戦通りと言えば作戦通りだが、敵の魔術師に気合のあるやつは一人もいなかったのは残念だ。とはいえ、臆せず立ち向かって来たらそれ以上の恐怖を植え付けなければならなかったのでよかったけども。


「よし、あとは歩兵とエリベルトだけか」


 一番の問題は、オレリアさんの戦場だ。

 あの巨大な魔導ギガントを剣で下せるのか。

 今はとにかく見守るしかない。





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