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大事な人のために巨大な何かに立ち向かえる勇気

前話と前々話でおまけ追加したので見てね☆彡



「ほう、これはこれは。文献では見たが実物を目にするのは初めてだ」



 インセクタ城玉座の間にてインセクタ王国国王、フェリクス・インセクタが大ビンを明かりに透かし満足気に頷いている。ビンの中身はヴィーネが用意した王家への貢ぎ物である。




「我が配下が集め熟成させたエンヴィーホーネットのハチミツ。ミツバチが花の蜜を集めて作り出すハチミツのそれと違い、エンヴィーホーネットのハチミツは捕らえた獲物の魔力を分離させ凝縮した、いわば純粋な魔力の塊。ヒトが飲めば一時的に魔力を増強させ、体力を持続回復させるでしょう。ですがそれは一時的とはいえ身に余る魔力を宿すということ、貴方なら問題ないだろうが……」


「もし身の丈を知らぬ者がこれを食らえばどうなる?」


「魔力が暴走し魂ごと焼け落ちるでしょう」


「それは恐ろしいな。大事に保管することとしよう」



 隣に控えていた大臣にビンを渡すフェリクス王。大臣はそれを恭しく受け取り、隣の小机の上に置いた。ちなみにヴィーネの口調が違うのは王族同士用の礼節ある振る舞いを意識しているからである。血なまぐさいエンヴィーホーネット一族だが王女候補は巣立ちまでの期間で厳しく躾られるのだ。骨肉の争いの中でも己が矜持を失わず、高貴であり続けるのが誇りらしい。


 先ほどヴィーネも言っていたがエンヴィーホーネットは主に肉食よりの雑食であり、通常生きていく上でミツバチのように花の蜜を集めハチミツにしたりはしない。だが王位を継ぐ子の食事としてエンヴィーホーネットは特別なハチミツを生成し子に与えるのだ。ミツバチで言うところのローヤルゼリーである


 当たり前だがそのハチミツは超貴重品で一国の王ですら手に入れるのは容易ではない。理由は言わずもがなだが、エンヴィーホーネットにとってもそのハチミツは貴重品で易々と人間にくれてやるものではないからだ。今回は特例中の特例ということでヴィーネが気を利かせてくれたのだ



「ちなみにこれは腐ったりはしないのか?」


「ビンに秘伝の保存魔術をかけている、フタを閉めて冷暗所に保存すれば腐らない。開けたままだと魔力が拡散して無くなってしまう」


「気を利かせてくれたのだな、感謝する」



 フェリクス王がニヤリと笑うと、別室から席を外していたメイドが出てきて王に耳打ちをする。



「ほう、連れてこい」


「かしこまりました」



 メイドが再び姿を消し、今度は一緒に席を外していた王妃と王女、そしてリリアとスーラを従えて戻ってきた。



「ほう、素晴らしいな……」



 彼女たちの姿を見て思わず嘆息するフェリクス王。リリア達からの貢ぎ物は黄金の装飾品と新しいドレスだ。


 ギルタブリルの黄金の加工技術は以前記述した通り、美しく繊細で一つだけでも凄まじい価値があり、身に着ける者の美しさのランクを大幅に上げるものだ。王家が身に着ける物としては最上の逸品だろう。王、王妃、王女のための王冠とティアラ、ネックレス、イヤリングがプレゼントされた。



そしてスーラはゼノムが必死に説得ばいしゅうし王妃と王女のドレスを即興で織り上げるというものだ。織り上げられたドレスは一見白だが角度や光の当たり方で虹色に輝き、彼女たちの気品と美しさをさらに際立たせる。さらに魔族が生成した糸ということで耐久性も凄まじいものであり、ヘタな鎧より身を護れるという規格外の逸品となっている


 さらにスーラが気を利かせ将来王女が嫁入りをする際のウエディングドレスもプレゼントされている。内部に仕込まれた糸を引っ張ったり結んだりすることである程度とはいえサイズが自由自在であり、王女は将来結婚式でこれを着ることを非常に楽しみにしている。



 余談だが、この時プレゼントされた金のアクセサリーとドレスは王家の至宝として扱われ、インセクタ王家の象徴とまで謳われた。


 降って湧いた規格外の貢ぎ物にフェリクス王は大層機嫌を良くし、姿勢を崩してゼノム達に笑いかける。



「ハハハハハ!! 実に愉快だ!! こんなにも凄まじい貢ぎ物を送られた王家など古今東西ここだけだろう!! ここまでされては我ら王家も答えねばなるまい。お前たちは何を望む?」


「いえ、こちらとしては家だけで十分ですが……」


「何を言う、金勘定の素人である余でもこれは釣り合わぬ取引とわかるぞ。遠慮はいらぬ、何か申してみよ」



 急に言われたことなのでテンパるゼノムだが、ここでリリアが手を上げ口を出す



「フェリクス王、私に発言の許可を」


「許す」


「では、ここにいるゼノム殿、私、ヴィーネ、スーラが王家と懇意であることを証明していただきたい。私達魔族はゼノム殿の下で暮らしたい、だがそこに余計な口出しをされたくないのです。我々四人とインセクタ王国で対等な同盟を結びたく存じます」


「リリア?!」



 前代未聞である。たった四人と強大な大国で対等な同盟を結ぼうとリリアは嘯いたのだ。



「ハハハハ!! 大きく出たな、え? 確かにお主ら魔族は強力な存在であるが、我々インセクタ王国と同盟を組む必要性があるか?」



 フェリクス王は言葉を濁したが、正直インセクタ王国の武力全てを挙げてもこの四人には敵わないだろう。要はお前ら俺の許可得ずとも勝手に暮らせるんじゃないの? と言いたいのである



「我々……私、ヴィーネ、スーラはゼノム殿とこの先の未来を共に歩みたいのです。ゼノム殿は人間です、ならば我々も人の生活に馴染むのが礼節と言うもの。共に歩み、互いを知り、時に譲歩しあう。友情とは、対等とはそこから生まれるものです。我々のせいでゼノム殿の人との繋がりが希薄になるのが許せないのです」



 これはリリアたちが考えたゼノムに対する恩返しだった。特異な見た目で奇異の目で見られていたゼノムだが、リリア達と一緒にいることでさらにその視線は増えるだろう。だが王家と対等で同盟を結んだとあればゼノム達に余計な感情を抱いて害してくる存在は減る。



「ゼノム殿は私達を、私達の心を守ってくれた。ならば今度は、私達がゼノム殿の心を守らねばならないのです」



 揺るぎない王の血を引くものとして、惚れた男と共に歩むため。リリアたちは強い女性の目をしていた。



「フハハハハハ!! 素晴らしい!! この余にして、ここまで心奮えたことは初めてだ!! よかろう、我々インセクタ王国王家はヴェルゼノム・セルクタス及びその嫁たちと対等な同盟を結ぶことを宣言する!!」



 あまりの展開に周りに居た要人たちはざわめきだすが、後ろ暗いことを考える連中は何よりも王の機嫌をうかがうのでツッコミを入れることが出来ない。曲がりなりにもゼノム達という存在を理解した忠臣は王の考えに概ね追従する気でいるようだ。



「ちょ、ちょっと待ってください、俺と彼女たちは嫁とかそういう関係でなく……」


「なんだゼノムよ、お主に惚れている女子おなごがここまで勇気を出したのだ、答えてやるのが男と言うものだろう。なにより、余としてもそうしてくれる方が色々と助かるのだが?」



 異議を申し立てるゼノムにフェリクス王はニヤニヤと茶化すように笑いながら外堀を埋める。もうコンクリートを流し込むレベルで



「この際だ、結婚式も上げてしまえ。なんならインセクタ王家がお前たちの結婚式をプロデュースするぞ?」


「それは名案ですわ国王様!」


「ウフフ、人の恋路を応援するのは楽しいわね、久しぶりに心躍るわ」



 王家と魔族達リリアたちが完全にその気になり、外堀をガッツリ埋められたゼノムはもう覚悟を決めるしかなかった。

おま〇け 神話の一節より抜粋



 我が一矢よ、我が愛しの女神の涙を拭え


 とある女神と男が恋に落ちた。二人は愛し合い、人間は生きる限り女神に全てを捧げる誓いを立て、女神はその愛を男が生きる限り男に捧げる誓いを立てた。だがその恋を疎んだモノ達は女神を呪い狂気に堕とした。女神の狂気は万物万象を蝕み、二人を謀ったモノたちも例外でなく蝕んでいった。奇跡が重なり生き残った男は立ち上がった。生涯を共にした親友である弓を携えて。


 そして男は女神を討ち取った。呪いと狂気の果て、神でも人間でもなくなってしまった彼女の頬には一筋の涙が流れていた。男はその涙を拭い、彼女の亡骸を抱き自害した。永い永い刻の果て、ありえた可能性の世界。神と人間が結ばれることが許される優しくも残酷な世界。そんな世界を夢見て二人は眠り続ける。




 もしもどこかの世界で一人かれ一柱かのじょが結ばれるようなことがあるならば、もう二度と彼らが引き裂かれることがありませんように

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