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12 完全勝利タクティクス初級編10

 キャンペーンには柿浦学習会の他、5組の企業が来社されることになりました。

 そしてキャンペーンを明日に控えた三流商事オフィス内では。

 


 ブラックでダークなオフィスを、表面上だけは塗り替えることに成功しました。

 たばこ臭く黄ばんだ壁の上にペールの壁紙を貼り、3年間止まっていたカレンダーは最新のものへと変わり、ライバル会社の誹謗中傷ばかり書かれたホワイトボードは即席ででっち上げたお客様の喜びの声が所狭しと貼られています。


 いつも誰かの悪口ばかり言っていた社員たちも、さすがに一面を覆う色紙で作成した鎖の輪を見て、穏やかな気持ちになっているのでしょう。

 みんな良い表情をしていいます。


 なんとか、かりそめの良い会社を作り上げました。


 私はみんなに念を押します。


「いいですね、皆さん。明日だけは絶対に他社の悪口を言わないようにしましょうね」


 一人が質問と手を上げます。


「おい、足立。ZENNRYOU商会の事務機はすぐ壊れし、あそこの営業マンは裏でヤクをやっているから関わらないほうがいいですというのはセーフかぁ?」


「マイナス的な発言は相手に嫌な心象を与えてしまうし、我々の品位も著しく損ないますので言わないようにしましょう」


「品位ってなんだ?」「足立は馬鹿なんだから、難しい言葉を使うなよ!」


「すいません。とにかくマイナス的な発言は慎みましょう。明日だけでいいですから」


 うちは民度が低いので、こんなレベルから教育しなければなりません。


 とにかく柿浦学習会を落としたら、その利益は破格です。

 うまくいったら社長がボーナスを弾むと約束してくださったので、一応、それなりにみんなやる気をだしてくれ、とりあえず私に従ってくれています。


「げへ、げへ、ボーナス、ボーナス」「うひょひょ、金、金……」


「木村さん、明日は妄想しながらよだれ出さないように気を付けてくださいね」と私。


「うっせーな。俺は本番に強いんだよ!」


 

 徹底的に練習もしたことですし、まぁ、なんとかなるでしょう。



 *



 明日は頑張らなくては!

 いつもの帰り道を歩いていると、道端に易者さんがいました。



「伊藤さん。お久しぶりです」

「元気そうで何よりです。順調ですか?」


「はい。田中さんが色々教えてくれて、助かっております」

「そうですか。それは良かったです。実はわたくし、あなたを待っていました。いくつかお伝えすべきことがあります」


「?」


「田中さんは独身です」


 その言葉に、私の全身は猛烈に熱くなりました。

 同時に自分の気持ちに気付きました。


「と唐突にな、なんですか?? 彼は素敵な人だと思いますが、私なんかじゃぁ全然不釣り合いだし、ダメダメだし、それに、……で、でも独身だったんですか? どうしよ。な、な、なんでそれを教えてくれたのですか? もしかして的中師さん的に、運命的なものを感じる訳ですか?」


「遅い時間にお電話をされても大丈夫とお伝えしようとしたのですが、何か?」



 へ?



「なるほど……。そうですか。ちょっと移行する時期が遅れたみたいですね。少々巻きでいく必要があるみたいですね」


「伊藤さん、何が言いたいのですか?」


「田中氏は、人間的に優れています。俗にいう、人格者です」


「……分かっています。本当にすてきな人だと思います」


「対するあなたは……」


「伊藤さん、私では不釣り合いだと言いたいのですか? 能力も経験値も足りなすぎるし」


「いえ。それは学習すればどうにでもなること。あなたは、悪だと言っているのです」


「……私が悪」


「初級編では思いを声にすることを学んでいただきたくて、田中氏を紹介しました。物事を形にしていく最初のステップでは、善なるパワーが必要だからです。

 ですが、これからあなたがやりたいことは復讐。

 敵に壊滅的な破局をもたらすこと。

 すべてを失い絶望の淵、横わたる敵の顔面をヒールのかかとで踏みつけ、冷ややかな眼で見下しながら、凍るような声音でざまぁみろと呟く。

 それがあなたの望んでいる未来。

 どうです? あなたを貶めたあいつらに圧倒的な破局を提供したいでしょう?

 ですが。

 如何なる理由があろうと、他人を貶めることは悪です。

 わたくしはあなたを後押しするとお約束しました。

 あなたが闇落ちしていくことを、わたくしは手助けします。

 そのために、そろそろ中級編に移行しなければなりません」



「私は悪? ……違うわ。悪はあいつらよ。私を貶めた卑劣な下道共よ」


「その卑劣な輩に、あなたは今まで感じた想いを数倍にして返そうとしている。彼らが悪なら、あなたは極悪ということになります」



「あははっはは。そうかもしれない。そうよ。確かにそうよ。私は極悪よ。如何なる手を使っても、奴らを壊滅させてやる。

 でも、だからって、どうして田中さんと決別しなくちゃならいの? 田中さんは私を応援してくれると約束してくれた。彼は私の気持ちを分かってくれているわ」


「そう。彼はあなたの気持ちを分かっている。

 ですが、何度も言いますが、彼は正義なのです。

 そしてあなたは、紛れもなく悪。いえ、悪にならなければ、他人を血祭りにあげるなんて恐ろしい所業をできるはずもない。

 ですから、わたくしは用意しております。

 完全勝利タクティクス中級編を。

 この破壊力は、初級編の比ではありません。

 まぁ、まだ時間はありますから、ゆっくりとご検討ください。

 心からお待ちしております。

 共にXディを楽しみましょう」



 私は逃げるように走り去りました。

 ただただ、伊藤さんが怖かった……。



 私は……悪……なの……?

 違う!!

 私は悪ではない。悪党を裁くだけよ。

 だって誰か立ち上がらなくてはいけないじゃない。悪を裁く正義の使者として。

挿絵(By みてみん)

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