13 完全勝利タクティクス初級編11
伊藤さんに悪だと言われました……
明日は大きなイベントがあります。
早く寝なきゃ。
ですが横になっても、幾度となく伊藤さんの言葉が頭をよぎり、脳が休まることはありませんでした。
結局、昨夜はあまり寝た気がしません。
スマホを見ると、田中さんのLINEメッセージが入っていました。
『足立さん。おはよう。今日のイベントだけど、朝礼で徹底しておいた方が良いよ』
うちの会社の民度が最低なことは、田中さんにも話しております。
三度の飯より人の悪口が大好な方達なのです。
事務所では、他社の悪口はもちろんですが、あろうことかお客様の悪口で大盛り上がりです。
『あのハゲ親父、購入を渋るから訳アリの事務機を売ってやったわ。あれはすぐに壊れるけどな。ぎゃははは』といった具合に。
彼が言った、ハゲ親父。
それはきっと、ZENRYOU飲料さんの社長さんのことを言っているのだと思います。
今、資金繰りが厳しいのだから仕方ないと思います。
ですが、うちが厳しいときに、気持ちよく購入してくれた経緯もあります。もし倒産したら面倒を見て貰えないのですから、敬遠して当然なのに。
それなのに、それを知りつつも、このようなことを平気で言って盛り上がる人たちなのです。
だから来訪者に普段の社風を見られると心象が悪くなるから、教育しておくように指摘されました。
私は彼にすぐ返信します。
「毎日のように話しています。昨日も練習しましたよ」
途端、田中さんのメッセージがやってきました。
『どうしてテレビを付けたら悪いニュースばかり流れているのだと思う?』
え?
確かそう……。
悪いニュースが多すぎるような。
「この世界は病んでいるから……?」
『否定はしないけど、どうかな?
たくさんの人間が生活している以上、良いことも悪いことも平等に起きていると思う。
それなのにテレビもネットも悪いニュースで溢れかえっている。
理由は簡単さ。
マスコミも結局、商売。
だから大衆のニーズに応える必要がある。
この世界には欲に負けた人間があまりにも多いってことさ』
欲に負けた人間が多いと、悪いニュースに溢れかえる?
それはどういうこと?
『他人を褒めることはすごく難しい。
褒められた方は嬉しいけど、褒める方はかなりのエネルギーを使う。
反対に逆は容易い。
他人の悪口ほど、頭を必要としない簡単なコミュニケーションツールはないよ』
「そうなの?
私はそうでもないけど……」
『それは君が優れているからだよ。
周りを見わたしてごらん。近所の人の陰口で楽しそうに盛り上がる隣人のおばさん。外に出ると、家族の悪口を雄弁に話す一家の大黒柱。放課後、友達の悪口で会話に花を咲かせる女子グループ。彼、彼女らにとって、ここにいない人の悪口は楽しくて仕方ないご馳走なのさ。それは麻薬のように中毒性のあるものだ。君の会社の人たちは、すでに薬物依存症だと思った方がいい。
だからいくら徹底しても足りないくらいだ』
他人の不幸が楽しくて仕方ない方達の集まり。
それが我が社。
今更、このような人たちを教育してどうなるの? と返信しかけてしまいました。
ですが、すぐに削除しました。
すでにこのような討論は、今日に至るまでに何十回もしたからです。
正直、こんなブラック企業、さっさと潰れてしまえばいいのです。
ですから正しい教育を施す必要などないと幾度となく言いました。
その度に田中さんは『売上を上げてデカい投資をさせたところで失敗させた方がダメージはより大きい。それを仕掛けていくには、君が優秀だと思われておく必要がある』と返されてしまいました。
さすがです。
反論の余地すらありません。
数十億、数百億の大打撃を与え、派手に倒産。そして自己破産に追い込む。
社員連中もそれに加担した罪に問われ、次の就職など皆無。
いいえ、それだけで終わりではありません。
その後の人生も滅茶苦茶にしてやります。
そのように仕掛けていくには、確かに今は、私の意見は価値があるものだと思わせておく必要があるでしょう。
うまくいったところで投資させ、それは大失敗に終わる。
そのころは、私はもうここにはいません。
蚊帳の外から、優雅にあなた達の不幸を楽しんでいることでしょう。
さすが田中さん。
出来る人です。
そして私と同じく悪。
ふふふ、伊藤さん。
あなたは何も分かっていない。
確かに私は悪よ。でも田中さんはもっともっと数段上にいます。
だから伊藤さん、あなたの助言など、もう不要よ。
私たちは二人でまだ見たことのない世界へ到達するの。




