第16話 フラッグを持たない男
ちょうどその日の4限目の体育の授業は、第3体育館でバスケットボールをハーフコートに分けて行われていた。
昼休み前の授業だったこともあり、片づけを当番生徒に任せて、ほとんどの生徒は体育館を後にした。
当番のひとりだった颯汰も、片づけを終えて帰ろうとしたところだった。
ふと、掃除道具を持った男子生徒がひとり。
そう、T字モップの柄を片手、親指を立てて握って持ち立っていた。
確か同じクラスの三枝、三枝 柊也だ。
体育館のほぼ中央。
そこでモップを構えるように持ち、呼吸を整えていた。
おもむろに、モップを体を軸に回し始める。
最初は同じ立ち位置で。
肩と肘のラインがブレず、クルクルと回している。
回転しているモップの軸は完全に平面を維持し、綺麗な軌跡を描いている。
そしてモップの動きが変わる。
今度は宙に大きな八の字を描き出す。
全身の回転からひねりに連なる動作は、大きな軌跡を残していく。
続けてモップがクルッ、クルッと宙を2回転。
そして空中へトス。落下位置へと落ちながら再び1回転。
落下位置で自身もひらりと回転を入れて、モップを受け取る。
それらの動作が一貫して、綺麗に決まる。
無駄のない、美しい動作だった。
颯汰はこの一連の動きをどこかで見ていた。
そう、綺羅や統風がやっている動作。
マーチングのカラーガード。
まさに、その動作の軌跡だった。
目の前の軌跡に目を奪われていた。
話しかけてみたかったが、途中で邪魔をすることが躊躇われた。
「音羽! 何やってんだ? 早く着替えて学食行こうぜ、混んじまうよ!」
クラスメイトが背後から声をかける。
後ろ髪を引かれる気分で、颯汰は体育館を後にした。
柊也の演技は、その後もしばらく続いていた。
* * *
颯汰は、更衣室で着替えている間、学食で昼食を取っている間、5時限目、6時限目の授業の間、そして帰りのHRに至るまで、ずっと気になって仕方なかった。あの体育館の光景が。
そして、気になることがひとつあった。
それを確かめる方法は、いくつかあったが、一番確実な方法をとることにして、放課後、すぐに部室へは向かわず、生徒会室へ向かった。
生徒会室の扉を三度ノック。
まもなく内側から開く。書記の圭子が立っていた。
「比沢さん、副会長、流水先輩はいらっしゃいますか」
「あら、音羽さん。いえ、今は席を外していらっしゃいます。まもなく戻られるかと思いますが……お待ちになりますか?」
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
圭子が脇に避け、颯汰は部屋に入った。
週二回、生徒会室で会計としての執務についているが、今日はその日ではなかった。
どうしても、今日のうちに動いておきたかった。
「音羽さん、同好会のほうは順調に人が集まっているようですね?」
部活動の創部、廃部、それに所属メンバーの入部、退部申請、さらに予算申請にかかわるものまで、すべては生徒会で管理されている。
もちろん、書記である圭子は、入部届に目を通しているだろう。でも、今は4月。相当な数の申請を処理しているはずだが……気にかけてくれているのだろう。
「うん。なんとか形になってきました――とはいえ、まだまだやらなければいけないことがたくさんありますけど……」
「でも、なかなか面白い人選をされているようで……。マーチングの経験者の入部はないみたいですが」
確かに、今まで入部してくれたメンバーには、基本的にマーチングバンドの経験者が一人もいない。
しかも、ほかの部活動などで様々に活躍し、その分野でスキルを磨いていたが、全力でその能力を披露する機会が、それぞれの立場や状況がてていた者が多い。
意識してそうしているわけではないのだけれど、なぜか統風のまわりに集うメンバーは、そうなってしまう。
「そうだね。なかなか癖が強いかもね……いろいろと」
「まあ、ほかの部と引き抜きで支障がでないのなら、問題がないでしょう?」
「問題がおきないよう……気を付けるよ」
「トラブルは避けていただけると、助かります」
颯汰が生徒会室に来て、10分ほど経ったろうか。
扉が開いて、流水先輩が戻ってきた。
「あら、音羽会計。今日は執務担当の日ではないはずだが? 何かあったのかね」
「副会長、お忙しいところ申し訳ありません。相談したいことがありまして……少々、お時間をいただけたらと」
流水先輩は、自分の執務机に着く。
「ええ、構わないわ。」
颯汰は立ち上がって、机の前に立つと、事情を話す。
「同好会がらみで、少し調べていただきたいことがありまして。可能かどうかというところを含めてお伺いしたく」
「圭子さんから順調に人が集まっていると聞いているけれど、調べたいことって、何かしら?」
「2年に三枝 柊也という生徒がいます。彼の中学時代の在籍校名と部活動の活動実績が知りたいのですが、調べられるでしょうか」
流水先輩は、机に両手の肘をつき、重ねた手の上に顎を載せて、しばし考えてから尋ねた。
「なぜ、知りたいのか聞いてもいいかしら?」
颯汰は体育館での柊也の演舞を思い出す。
「今日、体育館で彼がT字モップを手に、舞っていたんです。その動きがまるで、マーチングのカラーガードの動きを思い起こさせるんです。あれ、経験者の動きだった。だから確かめたいんです」
「へえ。今のあなたたちには、経験者は貴重だものね。でも、個人情報だから、あまり大っぴらにはできないし、あまり詳しくわからないかもしれないわよ。それでもいいかしら?」
「はい、大丈夫です。お願いできますか?」
「少し、時間をもらえるかしら。そう、次に執務にくるのは明後日だったね? それまでにわかる範囲で調べておこう」
「あ、ありがとうございます! では、明後日にまた伺います」
颯汰は生徒会室をあとにした。
* * *
颯汰が生徒会室を辞したあと、流水は立ち上がり、書棚のひとつから、青い背表紙のファイルを取り出した。
パラパラとページをめくり、探していた項目を開く。
そこには、先ほど颯汰が依頼した、三枝 柊也の出願時の申請書のコピーと、中学時代の部活動の活動実績の情報が記載されていた。
「そのファイル、以前頼まれて作成した例の資料ですよね。確か、音羽さんが言っていた人物の情報も載っていたと記憶していますが……」
別の資料整理をしていた圭子が、流水に尋ねた。
「ええ、そのとおりよ。だって、簡単に教えてしまったら、つまらないじゃないか」
そう言って、不敵に笑う。
圭子は、また副会長の悪い癖がでたと思い、深く息を吐く。
「すまないが、あとで該当の資料のコピーを取っておいてくれたまえ。持ち出し厳禁、閲覧後廃棄の指定で頼む」
そういって、ファイルを圭子に渡す。
「承知しました。副会長」
流水は窓から外へ視線を向け、静かにつぶやく。
「この男は、いままでとは違って、一筋縄ではいかないぞ。さて、どうなるかな……」
そのつぶやきは、少しの心配と、淡い期待が載っていた。
* * *
柊也は振り返る。
フィジカルはまだ、中学以降衰えず、イメージどおりコントロールできていた。
重量バランスが違うけれど、あのT字モップは、思い描いたとおり、宙を舞ってくれた。
トレーニングは、できることを続けてきた。
でも、それを披露するステージがない。
在籍していた中学校は、中堅だがそれなりに強豪に位置する学校だった。
全国大会を目指し、休日もなく厳しい練習が続く毎日だった。
マーチングという競技の特性上、「揃えること」に対する異常な執着があったのは確かだ。隊列の動きやテンポを形作る音がひとりでもズレたとき、それは全体に影響が波及していく。少しのズレがまた新たなズレを生み積層して、大きな破綻へと向かう。
最初のころはまだましだったが、ズレの要因として、特定の個人のミスに対し、当たりが強くなっていく。その執着がある一線を越え、より強力な陰のプレッシャーとなり、特定の人物へ向けられていった。
歩調が合わない、音があわない。
個人に由来する不満。
指導する立場の人間や、リーダー。
さらには、同期や仲間から。
それら様々な方面からの不満、圧力が集中的なつるし上げになり、一気に崩壊へと導いたのだ。
その根底には、全国へ行きたい熱心な層と、楽しく部活を楽しみたい層の、熱量の乖離があったことも否めない。
本来なら、それをうまく個人の批判へ向かないよう、ケア、コントロールしていくべき立場の者まで、その任を放棄してしまい、悪化の一途をたどり、事実上の解散にまで追い込まれたことだ。
中学三年、最後の年は、大会への出場すら叶わず、何もできずに終わってしまった。
もう、部活動として人と関わることは、ないだろうと思う。
どんなに、マーチング、カラーガードが好きでも。
もう、それを生かせる場所は、ないのだろうと思う。
臆病だって?
もう、あのときのようには、なりたくないんだ。
あんなに、人へ悪意を向けることが日常化する世界なんて。
* * *
二日後の放課後。
生徒会室へ執務のために向かった颯汰に、流水先輩が資料のコピーを渡してきた。
「私に尋ねてきたのは、間違いなかったな。音羽会計。ほら、これが三枝くんの中学時代の活動履歴だ。持ち出しは厳禁だ。ここで読んだら、破棄したまえよ。」
流水先輩はそう言い、シュレッダーを指さした。
「承知しました。拝見します……」
中学は別の学校。
やはり高校からの編入のようだ。
マーチングバンド部は、大会常連の強豪校だったようだ。
ポジションは読み通り、カラーガード。
しかも、大会ではソロイスト(ひとり、または少数人において、隊列の前線で難易度の高いフラッグワークやライフル投げを行うポジション)を担当している。
ただ、気になることがひとつ。
彼が所属していたバンドは、人間関係の崩壊により解散とある。
高校に入っても、同好会には所属せず帰宅部のようだ。
「やっぱり、経験者だった。しかも、カラーガード」
「そうだね。だから、彼は『フラッグを持たない男』というわけだね……」
人間関係の崩壊、という部活動休止の理由。
その理由が重くのしかかる。
深いため息のあと、颯汰は資料をシュレッダーに入れた。紙が徐々に飲み込まれ、細かな紙片へ形を変えていく様子をじっと眺めていた。
「音羽会計は、彼に入部を打診するつもりかい?」
その問いには、資料を読む前なら即答しただろう、YESであると。しかし、読んだ後の今は、その意思が揺れていた。
「いちおう、そのつもりだったのですが……経験者は、やはり貴重なので。でも……」
流水先輩は、颯汰の気持ちの揺らぎを敏感に察し、傍らに歩み寄ると、左肩にそっと手を置いて言った。
「悩んで当然だ。でも今、君が感じているように、慎重にあたるべきだろうね。彼が1年以上、マーチング競技の世界から足を洗っていることは、十分重く受け止めるべきだ――」
今度はクルッと反対にまわり、右肩に手を置いて続ける。
「一方で、この間、音羽会計が体育館で見た光景もまた真実なのだよ。それだけの動きを、何もしないで維持できるわけがない。きっと必要な鍛錬は続けているよ――」
肩に置いた手を放し、今度は颯汰の正面に回り込んで、右手の人差し指を立てて口元で揺らしながら、流水先輩は最後に言った。
「彼は、まだマーチング競技を、あきらめてはいないよ。それだけは確かだ。あとは、うまくやりなさいな。期待しているよ」
そう言い残し、流水先輩は次の仕事のため、生徒会長と共に、部屋を出て行った。
残りの時間、執務を片付けながらも、心の片隅では、流水先輩の言葉が、ずっと颯汰の意識をとらえて離さなかった。
* * *
翌日、颯汰は部室で、統風と綺羅に声をかけた。
もちろん、ここ最近気になって調べていた件のこと。
「トモ、きーちゃん、ちょっと聞いてほしい話があるんだけど、いい?」
二人を前に、颯汰は体育館で見た、柊也の演技と、彼の略歴を話す。
「カラーガード経験者……今の私たちには貴重な存在だと思う」
「うちに来てくれないかなぁ。きーちゃんとツートップで隊列組めるかも」
二人の感触はいい感じだった。
でも、問題はやはり、彼がこの同好会に入りたいと思ってくれるだろうかという、心配だけ。すでに1年間入らずに距離を置いているという事実が重い。
「一回、きーちゃんたちの練習、見に来てもらったらどうかな。雰囲気というか、部の空気を見てもらえば、考えが変わるかも」
「そうね。それがいいかも。ふーちゃん、どうかな?」
一度練習風景を見てもらって、以前の部活とまとう空気感が異なることを知ってもらえれば、あるいは。
「そうだね。わかった、本人に話してみるよ」
颯汰は、統風と綺羅に話すことで、踏み込む勇気をもらえた気がした。
明日、柊也本人へ話してみようと決めたのだった。
* * *
颯汰が持ってきた話を聞いた時、綺羅は少し複雑な気持ちになった。
今年、ステージマーチングの部門に出場するにしても、圧倒的に「音」の厚みが足りないと感じていた。
少しずつ部員が増えてはいるけれど、やはり中音域を支える楽器を演奏するメンバーがまだ見つかっていない。
でも、今日話のあった経験者が、カラーガードのソロイストとして隊列を引っ張てくれるのなら、私は……ホーンズでサックスを吹くことも、できるのではと思う。
フラッグや、ライフルを思うままに回し、トスして、また回す。もちろん、カラーガードのポジションは大好きだった。
もしも、彼がうちの同好会に入ってくれるなら、私のポジションを考える時なのかもしれない。
* * *
あくる日の放課後。
帰りのHRが終わって、教室を出た直後の柊也に、後ろから追いかけて声をかけた。
「三枝! 悪い、今ちょっと話せるか」
「別にいいけど。珍しいな、音羽が話しかけてくるなんて」
「ジュースおごるから、ちょっと付き合ってよ」
校舎1階の自動販売機で、飲み物を2本買って、そのうち1本の缶ジュースを柊也に放る。それを事も無げに受け取る動作をみて、体育館で舞うあのときの所作を思い出す。
プルタブを開けて、二口ほど飲んだあたりで、柊也が尋ねた。
「で、話って?」
「こないだ、体育館でモップを回していただろ?」
「あちゃぁ……見られちゃったか」
「あれ、マーチングのカラーガードの演技だろ?」
柊也は、手に持った缶を黙って見つめていた。
しばし、静かな時間が流れる。
遠くから、部活動の喧騒が風に乗って聞こえてきた。
「なんで、知ってるんだ? カラーガードなんて」
「ちょっと縁があってさ。今、うちのマーチングバンド同好会のマネージャーやってんだよ――部長が従姉で、副部長が幼馴染とか、微妙な設定だけどな」
「へぇ。そうなんだ。あれ? お前、生徒会もやってなかったか?」
「そうなんだけどさ。ちょっとやらかして、副会長命令で、同好会に出張中なんだよ」
「なんだか、複雑なんだな……」
また二人の間に沈黙が下りる。
お互い、一口、喉に流し込む。
「なあ、まだマーチングやってみたいとは思わないか」
柊也はその問いにはすぐに答えず、残りを一気に飲み干してから言った。
「さあ、どうだろう……ジュースご馳走様」
柊也はゴミ箱に飲み終えた缶を投げ入れた。
それから立ち上がり、リュックを肩にかけ、背を向けた。
「一度でいいんだ。うちの同好会の練習、見に来ないか」
颯汰は、そう伝えるのが精いっぱいだった。
柊也は背を向けたまま、左手を挙げた。
「気が向いたら、行くよ。じゃあな」
そしてそのまま、柊也は下駄箱に向かって歩いて行った。
颯汰はその背中を、見えなくなるまで見送っていた。
* * *
柊也は思う。
マーチングを続けたいか?
カラーガードの演技をやりたいか?
答えはYESだ。
それは間違いない。
そうじゃなければ、部活を辞めたあとも、トレーニングを続けたりはしない。
でも、中学で部活で起きたことは忘れられず、あまりマーチングの活動が目立たなかった、この高校に進学した。
しばらく様子を見ようと思い、いつのまにか一年が経ってしまった。
この間、体育授業が終わって誰もいなくなった体育館でT字モップをフラッグに見立て、演技の動きを試していた。
完全に予想外だった。
まさか、クラスメイトに見られていたとは。
しかも、マーチングバンド同好会のマネージャーに。
練習を見に来ないかと言われて、正直動揺した。
表情を見られたくなくて、急いでその場を辞したが。
今の自分は、同好会への興味を止められなくなっていた。
* * *
翌日の放課後。
柊也は、いつものとおり帰ろうと、下駄箱で靴を履き替えた。
だが、足は自然と部室棟の外れにある広場へと向いていた。
そこでは、ちょうど綺羅がフラッグを使って、演技のパターンを練習しているところだった。傍には二人の女子生徒がいて、演技の指導を受けている様子。
彼女たちのその表情は、以前中学の時にやっていた部活とは異なり、楽しそうで、一層輝いて見えた。
この同好会は、楽しんでやれそうな、そんな気にさせてくれる雰囲気が伝わっていた。
理想の環境なのかもしれない。
俺が望んでいた、マーチングバンド。
もしかしたら、あるいは……。
* * *
今日の体育の授業は、体育館でバレーボール。
今は二人一組で、トスの練習になっていた。
たまたま、颯汰と柊也がコンビになり、トスを返しながら、話していた。
「そういえば、この間、練習見に行った、よっと」
「え、いつ? 声かけてくれれ、ばっ」
「邪魔しちゃ悪いと思って、さっ」
「で、どう思う? うちの部、はっ」
「いい雰囲気だった。楽しそうだ、しっ」
「じゃあ……」
そこまで続いたラリーだったが、颯汰が返したトスが微妙にズレて、柊也の脇を転がっていく。
そこでホイッスルが鳴り、次の練習に移ってしまい、柊也との会話は中断せざるをえなかった。
* * *
噂では、同好会は廃部の危機にあって、2名から人を集めていると聞いた。
経験者はほとんどいない構成メンバーではじめているのだろう。
覗いた練習の場面は、ほぼ初心者に対してやっていた演技指導だったのだろう。丁寧に、楽しそうに見えたから、人間関係は悪くないと思う。
心配なのは、より高度な隊列の練習を始めたときに、人間関係が歪んでいかないか、それだけは心配だった。
* * *
「音羽、急で悪いんだけど、部長に会わせてくれないか」
帰りのHRのあと、柊也は颯汰にそう尋ねた。
「じゃあ、一緒に行こうか。部室で会えると思う」
颯汰は、スマホのメッセージアプリで、統風に柊也が会いたいから今から部室へ行くと、簡単にメッセージを送っておいた。
部室に着くと、すでに統風が待っていた。
走ってきたのか、少しだけ息が上がっていた。
「はじめまして、三枝くん。部長の音羽 統風です」
柊也は、鞄を置いて一礼し、答える。
「どうも。三枝 柊也です。すみません、突然押しかけて」
「ううん。大丈夫だよ。それで、私に会いたいって聞いたんだけど…・・」
「はい。ひとつ聞きたいことがあったので。この同好会が目指しているものは何でしょうか。それを確かめたい」
その質問を聞いたとき、颯汰は少し焦っていた。
視聴覚室で、統風はあっさりと「全国」と言った。
まさか、柊也の質問には、そんな答えしないよな? そうだよな? そう伝われと願いながら、視線を向ける。
だけどその願いも空しく、あっさりと統風は言った。
「目標は、全国! 言うだけタダだから!」
それはもうはっきりと。
瞳をキラキラさせて、嬉しそうに語る統風。
「お前のとこの部長、ヤバいな」
統風のセリフを聞いて、柊也は颯汰にささやく。
「だろ? でもさ、まっすぐで気持ちがイイ奴なのは保証するよ」
颯汰はそう、ささやき返す。
「部長さん、カラーガードの経験者なんですけど、入部させてくれませんか」
なんか、自分はつまらない心配で、避けていただけなのではと思ってしまった。統風の一言で。
「もちろん! ようこそ、三枝くん。よろしくね」
そして部員は12名になった。




