8話「圧倒的な存在③」
エルフも滅び、新たにアーティファクトが作られることは無い
どうにか争いを止めることはできないものかと再三龍族の使いが赴くのだが
アイオーンの考えは変わらなかった
ある時、使いの龍は惨たらしい姿で捨てられていた
命尽きれば自然へと還るのだが、それすら許されず見せつけるかのようであった
聖龍は覚悟を決め、アイオーンと対峙する
いつのまにか勇者にアーティファクトを渡してあったことから、聖龍には最初から結果のわかっている戦いだったのだと思う
聖龍はアイオーンから全ての力を奪おうとするが、力が拮抗するような相手ではそう上手くいくわけもない
およそひと月におよぶ戦いは終始アイオーンに分があった
聖龍は大きく一吼えする、その時に世界が大きく動いてしまった
勇者に託されたアーティファクトの発動
それは海上で戦っていた二体をも巻き込み対岸までのほとんどの魔素を奪い去り
そこに大きな爆発を引き起こした
聖龍もアイオーンもそれに抗うこともできずに消滅していった
残った精霊達はアイオーンの行き過ぎた行動に思うことがあったようで、それ以上の侵攻を進めることもなかった
世界の魔素のバランスは大きく崩れ、今まで現れなかった強力な魔物も出現し始めた
それにより多くの街も滅び、帝国もまたその影響により滅びてしまったのだ
人族は残されたアーティファクトを精霊に渡すと、精霊達はそれを用いて各地に人工的なダンジョンを作り上げた
精霊はダンジョンの奥へ棲み着き、循環する魔素でそれぞれの生活を送る
人は地上を、精霊はダンジョンで、龍は各地を見守るように分かれていった
そうして今の世界が出来上がったそうなのだ
ここで一旦龍の話は止まる
「ピルスルやドルヴィンから聞いていた話とは若干違うのだが、まぁつまり龍族は他種族と敵対する意思は無いのだな?」
帝国は人同士の戦いで滅亡したと伝えられている
それは何故なのか、精霊達が行ってきた事もあまり伝えられてはいない
まだ隠された真実があるようで嫌な気持ちであった
「ピルスル・・・懐かしい名だな・・・」
龍はピルスルを知っているようだった
100年以上前、冒険者一行が龍族を訪ね各地を回っていた
精霊王を止めてほしいと
まだ若い者達だというのに、その一行は当時では考えられないほど強かったのでよく覚えているそうだ
二人の男が龍と話をしている間、少し向こうで女と共にいたのがピルスルだったという
背後を守っていたのだろう
ちょうど、その時に一人の大精霊が来て突然襲ってきたそうだ
四大精霊、火のサラマンダー
なす術なく前の二人に業火が襲う
すぐさま後ろの二人に向かって行ったところを龍が阻止しようとしたのだけど、結局助けることは出来ず
女は焼け死に、ピルスルは消え去っていたそうだ
サラマンダーはその後、リヴァイアサンによって倒したのだけれど
その頃から精霊達との戦いが激化していったのだそうだ
しばらくの沈黙のち、龍は力を貸したいと言う
ダンジョンから出て戦えるのならば簡単な話なのだけれど
龍よりも強い存在がいるのならばその必要はない
それに龍がその場を離れることで、街に危険が及ぶ恐れがあると言うのだ
強い魔素のある地域を中心に存在しており魔物をダンジョン内に押さえ込む役割もしているのだとか
暗黒龍シズクは、言い終わると一つの宝玉を取り出す
サラマンダーの核、リヴァイアサンが倒した時から持っており、冒険者への手向けにと置いた物だそうだ
[火大精霊の宝珠:使役、強化などに用いることが可能]
さらに暗黒龍自身の力を武器に宿すと言う
『そんなものと一緒になどいられるか!』と、キルディクスに断られたものだから
そちらはローズの杖に、ということになった
[暗黒ワンド:暗黒龍シズクの力を得た杖、使役・強化の効果を用いることができる]