表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

第2話「誰にも譲れないもの」

 誰もが分け隔てなく、尊重されることを理念に設立された私立将門高校。

この学校には、他校にない特別な校則がある。それは「学園決闘統括制度」。生徒同士に衝突が発生した場合、両者の同意のもと決闘することで、勝者は希望する権利を得る事ができる。このめちゃくちゃなシステムの下、学園では毎日のように決闘が繰り広げられていた。

 今年から男女共学になった私立将門高校だが、女子の入学者はゼロ。女生徒を見かけたなら、それは全員男の娘である。

 そうとも知らずぬ入学した宅谷光国は憂鬱だった。

 誰もが分け隔てなく、尊重されることを理念に設立された私立将門高校。

この学校には、他校にない特別な校則がある。それは「学園決闘統括制度」。生徒同士に衝突が発生した場合、両者の同意のもと決闘することで、勝者は希望する権利を得る事ができる。このめちゃくちゃなシステムの下、学園では毎日のように決闘が繰り広げられていた。

 今年から男女共学になった私立将門高校だが、女子の入学者はゼロである。


「おはよう」

「おはよう、あれ、髪つやつやじゃん。どうしたの?」

「ねぇ、帰りに最近近くにできたカフェに寄って帰らない?」

「ごめん、今日美容院の日なの」

 女子ゼロにも関わらず、美しい男の娘たちが百花繚乱とばかりに通学路を満たしている。

「……」

 清と歩く光国は、深刻そうな表情を崩さない。

「ど、どうしたんだい、光国。今日は一言も喋らないね」

「なんでこの高校に入ったんだろうと後悔してるんだよ、清くん」

光国がオレをくんづけするときは機嫌悪いんだよなぁ、と清はひとりごちる。

「俺は……俺は……高校に入ったら可愛い彼女を作りたかったんだよ~~~!」

「あぁ……、そういや高校受験の時、言ってたな」

「そしたらなんだよ、この学校。……半分以上が男の娘じゃんかよ!!!!!(しかも可愛い)」

「ああああ、そうだね。特に昨日は災難だったね」

「会長、付き合いて~! 若菜先輩、デート行きたい! でも、でも……なんでみんな男なんだよ(号泣)」

「まぁまぁ。多様性の時代、男とか女とか、そんなの別にいいじゃんか」

「それもそうだけど……。好みの娘に限って男とか俺……混乱するわ」

「そ、そうなんだ。そうだよね……」

(そういや、昨日生徒会長『勝負しろ』とか変なこと言ってたな? その後わやわやしてうやむやになったけどさ……)


 二人は校門前の坂道を、牛車を追い越しながら登り終える。坂の上で息を整えながら立ち止まって話をしていると、後から声がした。

「そこなお人さん、ちょっと待っておくれやす」

一瞬、そこにいた全員一瞬静止したが、ややあって再び動き始めた。

「待ちなはれ! 待て言うてるやろ!」

  何故か差し招かれたのは光国だ。牛車からぬらりと現れ、ひょんと降り立つ、ミニ丈でありつつ優雅な和風アレンジの制服に身を包んだ女、いや失礼。男の娘がいた。

「うちは呉原紅葉くれはらもみじいいます。あんたはんと同じ1年生どす」

「え、君に1年生? 昨日の入学式にいたっけ?」

「昨日、入学式に出ようおもて車で学校に向かいましたけど、今着きましたわ」

「車って牛車かよ! ……で、なんか俺にようですか?」

「あんた、私の兄を侮辱してくれたらしいやないの」

「兄? 侮辱? なんの事だ」

「とぼけないでもらえます? お兄はん、隠れやんとここ来ておくれやす」

「兄はん?」

すると木の陰から、可憐な娘がもじもじしながら現れた。純真そうな立ち居振る舞いだが、お兄はんと呼ばれた以上はやはり男の娘のようだ。お兄はんはもじもじと切り出した。

「よ、よう……」

「だれ?」

「み、みつくに! この人昨日の」

「昨日のって……え、あの水球部で俺と戦った」

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は呉原楓くれはらかえで。この紅葉の双子の兄だ」

「年またぎってやつか……」

清は時々、なんにでも妙に詳しい男だ。話が早くて大変重宝されている。

「ははぁ、兄の敵討ちってやつか。それで『学決(学園決闘統括制度)』で俺と勝負したいってわけか」

「話が早くて助かりますわ。で、受けてくれはりますの?」

「やだよ! 『学決』は両者が同意しないことには成立しないのが鉄則だ。なんで俺が決闘なんてしないといけないんだ。面倒くさい」

 面倒くさいから嫌だ、で伝わります、と頭の中のマナー講師も説いているが、相手がシステムを把握していない体で光国は丁寧に拒否した。


 牛車の牛を盾にして(大人しい牛で良かった)なかなか納得しない双子と対峙していると、颯爽とした風とともに、生徒会長・滝又沙夜が現れた。

「お、どうした、なんとか吉くん」

「あ、生徒会長」

「滝又会長! 俺は宅谷光国です! 名前のどこにも吉なんてないです!」

「沙夜でいい。お前には仮にも恩がある。それでなんの騒ぎだ」

「会長、実はかくかく……」

「なるほど、しかじか、というわけだな。では呉原紅葉、条件を聞こう。お前が勝ったらなにを望む?」

「宅谷光国、あんたも兄と同じ男の娘になりよし」

「マジで!?」

 うっかり大きな声をだしたのは生徒会長、その人であった。

「あ、あの会長?」

「す、すまない。すこし取り乱してしまった。それで呉原紅葉、お前が負けたら?」

「そうですね……三か月間、光国はんに学食で昼飯を奢るというのはどない?」

「それでいいぞ」

「あれ? お、おい、即決だな光国。本当にそれでいいのか?」

「清、お前に弁当分けてもらってばかりで申し訳なかったんだ。ここのうどん、上手いらしいぜ」

「お、俺はべつに……」

「それでは、決闘の内容は何にする?」

「百人一首や」


放課後、和室で競技かるたの準備が進められた。

「これ、競技かるた部からの差し入れです。飲んでいてください。万全な体調で試合、お願いします」

「ありがとうございます」

差し入れのお茶を渡して立ち去る競技かるた部員と入れ替わるように、可憐な男の娘がやって来た。

「すまないな、光国くん」

「お前本当に水球部の?」

「ああ、楓です」

「ですって、喋り方まで変わって……あの、スカートだけで化粧までしなくてもよかったのでは?」

「うん、それなんだけど、なんかスカートだけだとおれ、変態っぽくて……」

「ま、まぁ、いいんじゃないですか? に、似合っていますよ」

何故か顔を赤らめる二人がいた。

「なんだよ、お前ら」

清がやってきた。睨み合うでもなく変な空気が流れているところに、前回と同じく「学決」の開始宣言の笛の音がした。光国たちは助かったとばかりに試合の場へ向かう。


黒縁眼鏡のかっちりした雰囲気の生徒が腕時計を見ながら宣言する。

「それでは試合を始めます! 試合を見届ける風紀委員です」

「今回の試合形式は『競技かるた』ですが、呉原紅葉さんは県大会で優勝の経験があります。よって、宅谷光国さんが1枚でも先取できたら勝者とします」

「いいのかよ、紅葉。余裕だな」

「これくらいのハンデがあらへんと、勝負になりまへんのでw それより顔色、悪いどすけど?」

 対戦相手の得意分野で勝負することになってしまった上、かなりの使い手とあって光国もさすがに不利を悟ってしまう。しかしこのやり取りを遠まきに見ている競技カルタ部員(1年生)たちも不安げだ。

「いけません、紅葉様。いくら県大会で優勝していても、1枚も相手に取らせないとは万が一でもあったらどうするんですか」

「私たちは、勝ちのために尽力いたしますわ……!」

 ひそひそと囁くその声は、光国や応援に来た清には届かない。

「それでは参ります。『秋……』」

「はい!」

「秋」の「き」の子音で手が動いていたのを見て、光国は灰になった。

「これは……無理!! あと、なんかお腹痛い!!!」

「君が……」

「はい!」

「花の……」

「はい!」

 鬼人のごとく札を飛ばす紅葉を見ながら清もじりじりし始める。

「これでは光国は勝てないですよ、妹さん、お強いですね……あれ、楓さん、どうしたんですか?」

「腹が痛い……」

「そういえば、光国も同じような……あれ、楓さん、この水筒は?」

「競技かるた部の子がくれた……」

「まさか……!」


「ちはやぶる……」

(来た!)

 思い入れのある歌だけに紅葉の手は手刀のように札に手をかけた。しかし同時に鋭く待ったがかかった。

「ちょっと待った! 競技かるた部、このお茶、科学部に調べてもらっていいかな?」

「な、なに言ってはりますの?」

「競技かるた部が差し入れしたこのお茶、もしかして下剤が入っているんじゃないですか?」

「ええ、そないなん????」

「あ、あの、その……」

「図星、みたいですね」

「そんな……何してはるん、あんた達!」

「なぁ、なんかお取り込み中みたいだけど、これ、俺の勝ちだよな」

「?」

「紅葉さんより宅谷光国が先に札に触れている!?」(審判)

腹痛に耐えながら体をねじらせ、おかしなポージングではあるが、光国の指の上に紅葉の指があった。

「これ、お、れの好きな札。百人一首で唯一知っている……う、た……」(お腹の方からすごい音)

「紅葉様の一番好きな歌なのに……」

「ちはやぶる

 神代もきかず

 竜田川

 からくれなゐに

 水くくるとは   竜田川が一面に紅葉で真っ赤に染まる美しさを歌ったものだ」

 取った札を弱弱しく掲げた光国を見て、競技かるた部の部員と生徒会長が各々口にする。

「これ、俺が子どもの頃から好きだった歌……むかし誰かと百人一首して、教えてもらったんだ」息も絶え絶えに呟く光国。(お腹の方からすごい音)

「!!!!!!!」

 ピピー!(笛の方の音)が競技かるたの会場に響き渡った。

「この勝負! 宅谷光国の勝ち!」

 その瞬間、宅谷光国はもう会場にはいなかった。清も、隣にいた楓がいつの間にかいなくなっているのに気がつく。

紅葉は歩み寄った生徒会長の方へ崩れ落ちた。

「あの人、ずっとあの札、待ってはったんや」

「お前の好きな札だったのだろう?」

「なんかわからへんけど……負けたことより、うち以上にこの歌好きな人に会えたんかなって思うと・・・ちょっとなんか・・・うれしい……かも」

「良かったな、紅葉」

生徒会長の平らな胸の中で泣き崩れる紅葉を光国は知らない。


「光国くん、まだかい、なのかい? もう出てきてくれても良い頃だよね?」

ギュルルルルル

「駄目です、楓先輩、他のトイレ行ってください」

「なんか知らないけど、他のトイレ壊れてて……うううう!!」



大騒ぎの和室とは違って、珍しく静かな食堂。

「なんかこの学校、本当に騒がしいアルね。それに制服があるのに、みんな好きな服来てるアルね。人の事いえないアルけど」

「はい、お待ちどお様。回鍋肉丼と、青椒肉絲大盛り。他の注文のももうすぐ出来るけど、これ本当に1人で食べれるの? そんな細身で」

「もちろんアル!」


つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ