第六十九話 二人の行方
もうすぐ九月になるって言うのに、太陽がそれを許さないぞと言ってるかのように、私を容赦なく照らしつける。
「あの二人、昨日はうまくいったのかしら?」と空を見上げ手を翳すと、狂気じみた日差しの影から太陽が晴れやかな笑顔を見せてくれた。
「ふふふっ、そうねうまくいかないはずがないわね」私は、太陽に笑顔を返して、また正面に向き直った。
それにしても、景も景なら、蒼ちゃんも蒼ちゃんね。景の気持ちなんて少し前からわかりきってたじゃない?
蒼ちゃんが大好きだって!!
それなのに、昨日家まで送る車の中であんなに慌てふためいて、
「お義母さんどうしよう、景くんが私の事好きだって」と凄い剣幕で言ってくるから私はてっきり、
「え?景に告白されたの?」って訊いちゃったじゃない⋯⋯
流石に息子が告白したって訊いたら、母親ながら驚いてしまうと思ったけど、
「告白はされてはいません⋯⋯GAMEのスキルで知っちゃったんです⋯⋯」って言うから、
それで様子がおかしかったのね?と理解はできた。できたけど、そもそも蒼ちゃんも景に好意を抱いていたのだからいいじゃない?なにか心配する事ある?
そう思って、私が主人と両思いってわかった時はどうだったかしら?と記憶を思い起こすと、
完全に浮かれてたわ⋯⋯天にも登る気持ちになってその場で即付き合って、キスまでしちゃった記憶が⋯⋯でもそれなら蒼ちゃんはなんで?
私は、顔を左右に『ブンブンッ』と振って、また意識を運転に集中させると、
「お義母さん、私どうすればいいんですか〜」と蒼ちゃんが言って、悄然として俯いた。
「蒼ちゃんちょっと待って、なんでそこで落ち込む必要があるの?私の勘違いじゃなかったら蒼ちゃんも景に、好意を抱いているものだと思っていたんだけど⋯⋯?」
「はい⋯⋯」とか細い返事が返ってくる。
「ならいいじゃない?なにか不安なことでもあるの?」と訊ねると、
「不安と言うか、生まれて初めて思いが通じ合ったって分かったら、どうしたらいいかわからなくなっちゃて⋯⋯」と言って、苦笑いの表情を見せた。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
えっ?うちの子、尊すぎない?いや、厳密に言うとまだうちの子じゃないんだけど⋯⋯
私はてっきり、蒼ちゃんは男勝りで、グイグイ引っ張って行くタイプだと思ってたから、新たな一面を見れて嬉しいんだけど⋯⋯それより、これは少しまずいかも?そう思って、
「蒼ちゃんはいままで通りでいいのよ、だって素の蒼ちゃんを景は好きになったんだから。それより、蒼ちゃんやっぱり今日家に泊まりにこない?景の事だからもしかすると、避けられた?嫌われたって思っちゃってるかも?」そう伝えると、
「あーー!!」その叫び声で車が跳ね上がった。
「お義母さん、それはありえますね、やっぱり今日泊まってもいいですか?」とようやく元気な顔を見せてくれた。
「うんうん、いつも通りの蒼ちゃんでいいんだから考え過ぎないでね」
「はい!お義母さんありがとうございます────」
あれから一晩経って、二人がその後どうなったかはまだ分からないけど⋯⋯
「ありがとうございましたー」
必要な物も買えたし、私は美味しい朝ご飯を準備しながら、朗報を待つとしますかね?
スーパーで買い物を終えた私は、容赦なく日差しが振り注ぐ帰路を、足取り軽やかに、鼻歌交じりで、また二人が待っている自宅へと帰宅した。
『ガチャリ』
「ただいまー」部屋中に響き渡る声で、帰りを告げたのに、返事が返ってこない。
不思議に思った私は、買い物袋を廊下に投げ置くと、足早に景の部屋へ向かった。
『コンコンコンッ』
「景、蒼ちゃん、今日も暑いからアイス買ってきたけど食べる?」そう言いながら扉を開けると、
座ったままの二人が、寄り添うように寝ている姿を、まるでそれを祝福するかのように、カーテンの隙間から差し込んだ光が、二人を照らし出していた。
「ふっ」と柔らかな溜息が漏れ出る。
結果はわからない、わからないけど「ほんっとにこの二人は⋯⋯わかりやすい」私は口を手で覆い隠すと、音の鳴らないよう慎重に扉を閉めて踵を返す。
今までとは明らかに違う、甘くて暖かい雰囲気を纏った景の部屋。
これなら、私が思っている以上に早く、孫の顔が見れるかも?と逸る気持ちを一旦胸ポケットにしまい込んで、朝食の準備に取り掛かる事にした。




