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勇者と魔王の子。  作者: 破魔 七歌 


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11/13

11.契約の魔法とジグムントからの使者

 





 ──あれから夜が明けた。

 

 朝起きると僕とアメルは家の外へ、イリスに早速連れ出された。眩しい空には、召喚された氷属性のスノードラゴンたちが飛んでいる。吐く息と身体が雪のように白い。モレイラ山脈に棲息する魔物たちだって分かる。森の炎は、ドラゴンたちとマグリット王国の魔法師団によって、ほとんど消し止められていた。

 僕らが居るサリバドールの村は寒い……。お爺さんとアキハが居る温かい家の中に戻りたかった。


「これで良し、と。契約は成約したわ。けど、本当に良かったのかしら? 別に貴方たちを魔物のように扱いたい訳じゃないんだけど」

「でも、この方がお互い気が楽でしょ? 万が一、何かがあった時のためにね? イリスのお姉さん?」

「アメルちゃんは天真爛漫ね? うふふ」


 クムリのお爺さんが言ったように、一面に広がるマジョーラ湖は息を呑むほど美しかった。時折、向こう岸の鎮火した森の傍で湖面が光っては、何かが出入りしている様子が遠目に見えた。

 その湖のほとりで、小さな魔法の円と呪文のような文字が地面に描かれ、僕とアメルはその中に入れられていた。交代で森の炎を消し止めていた魔法師団の人間の内、何人かがイリスに呼び出され、さっきまで契約の儀式の真っ最中だった。

 僕とアメルが魔法の光に包まれる最中、宙空に光る文字が浮かび上がり、最後はイリスの掛け声とともに儀式が終って今まさに契約が完了したところだった。


「うぅっ……寒いよ、アメル。まだ、朝ご飯だって食べてないのに」

「お兄ちゃん? ご飯食べたら、湖のほとりをお散歩しよ?」

「うぅっ、分かったよ……アメル。早くお家に戻らなきゃ」


 村長であるクムリのお爺さんが僕とアメルにくれた上着は、とっても分厚くてフカフカのフード付きだ。温かかった。手袋をはめていると、魔力拘束具のことも気にならない。ブーツって言うガッシリとした足の靴もそうだ。けれども、それ以上に外は寒かった。


「さて、後はアキハの回復を待つばかりね。今朝の僧侶長の話だと、思ったより早く回復が見込めそうだけど?」


 ──アキハに回復の兆し。アメルが言っていたように、二、三日後にはアキハと会話が出来るのかも知れない。

 目の前にいるイリスが僕とアメルの頭を撫でていると、儀式を執り行っていた人間の魔法使いの女がイリスに近づいた。黒いフードから顔を出し、イリスに何かをコソコソと耳打ちをした。


「イリス様。マグリット王国より伝令です。大破した飛空船の回収にジグムントより通達あり。現場保存の継続と回収作業に協力するようにと。昼にはジグムントの者たちが到着する様子です」

「想定してたよりも急な話ね? 分かったわ。サリバドールに居る全ての者たちに知らせてちょうだい。私も準備が整い次第、湖畔の鏡面魔法の設置場所に向かうわ」


 イリスの背中に羽織った上着が風に靡いていた。イリスは僕とアメルにくるりと身を翻して「貴方たちは、ゆっくりして居てね?」と言い残して村長さんのお家へと足早に戻って行った。

 僕とアメルは雪解けの土の上を手をつないでゆっくりと歩いた。お家に戻ると村長さんや村の人たちが、朝ご飯を僕らのために用意してくれていた。


「どうじゃった?」

「上手く行ったよ?」

「クムリさん、色々とありがとうございます」

「しかし、寂しくなるの? アキハが明日には目覚めるほど回復したのは良いが」


 相変わらず、サリバドールの村のご飯は美味しい。僕とアメルは、朝からご飯をたらふく食べた。その後、クムリのお爺さんに連れられて、アキハの居る二階の寝室へとお見舞いに行った。アキハが回復に向かっていて本当に良かった。


「……」


 アキハは静かに眠っていた。口もとの器具が外され、アキハはスースーと自分で呼吸をしていた。すると、傍に居た僧侶長を名乗る人間の女が僕とアメルに近づいて、深々と頭を下げた。


「この度は本当に申し訳ありませんでした。まさか、あの子があんな事をするなんて。神に仕える者が尊き命を奪うなどあってはならないことです」


 アメルは朱色の長い髪を掻き上げて、手に持っていたリンゴをムシャムシャと丸かじりして、ゴクリと呑み込んだ。


「仕方がないよね。誰だって道を外すものよ? あの人間のお姉さんに、神様のご慈悲があることを願うばかりだわ?」


 アメルの言葉を聞いた僧侶長の女が、両手を口もとにあてがってベール越しに驚いた表情を見せていた。


「あぁ……何と言うことでしょう。年の端も行かない少女が、あの子の犯した罪に神のご慈悲を乞うだなんて……」


 アメルが僕とクムリのお爺さんに、ニヒヒと笑いかけた。僕は、アメルを見て苦笑いをするしかなかった。


 それから──、僕はアメルとの約束どおり家の外に出て、アメルと一緒にマジョーラ湖のほとりを歩いていた。


「これから、どうするの? アメル?」

「決まってるじゃない? 王都マグリットで贅沢三昧よ? そのために契約したんだから」

「そんなに上手く行くのかな……」

「お兄ちゃん、契約は絶対だよ? 約束を破った者は契約の魔法に命を奪われるんだから」

「えぇっ?! そうなの?! イリスもアメルも凄く勇気があるよね。僕には、とてもじゃないけど……」

「お兄ちゃんもだよ? 契約は守ってね。大丈夫だと思うけど」

「え?」


 僕はアメルと湖のほとりを歩きながら、ダラダラと冷や汗を搔いた。そんな恐ろしい契約だったなんて。寒いはずなのに汗が止まらない。僕は、キョトンとした顔のアメルを見つめながら、やっぱり苦笑いをするしかなかった。

 

 アメルと歩いていると、湖と村を往来する沢山の人間たちとすれ違った。その中に人間の子どもたちが居た。すると突然、人間の子どもたちが僕とアメルに向かって石を投げて来た。


「出てけ! 出てけっ!! 魔族は皆、出てけっ!! 人殺し! 人殺しっ!!」


 子どもたちが投げた石ころが、僕とアメルにパラパラと当たる。僕はチラリとアメルを見た。普段は可愛らしいアメルの表情が、凍てついた氷の仮面を被ったように、とんでもなく無表情になっていた。


「お兄ちゃん? あの人間の子どもたち、殺しても良いかな?」

「う、うわわっ!! だ、ダメだよ、アメルっ?!! 言ったそばから、契約無視じゃないかっ!! 約束を破った者は契約の魔法に命を奪われるんでしょ?!!」

「あ。そうだった……」


 僕はアメルの手を引いて村の子どもたちから逃げると、ハァハァと息を切らした。この調子じゃ、本当に先が思いやられる。僕がアメルを守らないとって、強く想った。きっと昨日の夜、村の人間の誰かが、あの女僧侶の騒ぎを見て誰かに言いふらしたんだ。人間の子どもたちの本気で思い込んだ目が怖かった。


 それから、また──、僕とアメルはボンヤリと湖のほとりを歩いていた。お日様が昇って少し暖かくなって来た。手袋を脱いだアメルの手が柔らかくて温かくなっているのを感じた。一生懸命、食べもののお話をするアメルの姿が可愛かった。


「お兄ちゃん、アレ見て?」

「え?」


 話の途中で、突然アメルが指先を差し示した。その方角を見て目を疑った。僕がもう一度目を凝らすと、その先にある光る湖面の近くには大勢のマグリットの兵士たちとイリスが居た。そして──。


「き、キルスっ?!!」

「それだけじゃないよ? よく見て? その後ろ……」


 ──いつかの屍人形たちとジグムントの兵士たちに取り囲まれるように、その中心には、アメルと闘ってこの世から姿を消したはずのキルスが居た。見間違えるはずがない。

 けれども、その後ろには貴族の服を身に纏い、額から二本の角を生やした上品な男が居た。

 間違いない……。あれは、魔族の男だ。



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