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第8話

「ところでさ、オレ、思いついたことがあるんだけど」

ゴミを袋にまとめながら久保が言うと、匡が振り向いた。

「なんだ?犯人の手がかりを掴む方法か何か?」

久保はチッチッと指を振ると、満面の笑みで答えた。

「オレも匡くんとリオくんと一緒に暮らそうと思うんだけど、どうかな?」

匡とリオは顔を見合わせると、しばらく間を置いてから久保を見た。


「久保さん……本気で言ってるんですか?」

リオが冷めた目を久保に向ける。

「え?当たり前じゃないか!オレがそんなくだらない嘘をつくと思ってるの?」

「嘘云々じゃなくて常識的に考えておかしいだろうが!なんで昨日知り合ったばかりの男を我が家に招き入れなきゃいけないんだ!」

匡がそう言うと、久保がヘラヘラと笑った。

「いや〜実を言うと今の事務所ちょっと場所が不便でさ、他の物件探そうか悩んでたところだったんだよねー。ここなら匡くんの便利屋と共同で事務所使えるし、今までの事務所より駅に近いから便利で助かるわ」

「お前、住むだけじゃなく事務所まで使う気なのかよ!」

「家賃とか諸々は当然払うし、家事とか雑用とかなんでもやるからさ〜!お願い!ね?」

手を合わせた久保が、あざとい上目遣いで匡を見つめる。

「そんな目で見つめられてもなあ……」

そう言いつつも、匡はあることを考えていた。現状、匡とリオの二人で役割分担をして家事や雑用を行っているが、二人だと手が回りきらない部分も多い。

そこに久保が加わってくれれば、確かに便利にはなるだろう。


「……わかったよ」

匡の言葉に久保が顔を上げる。リオも匡の予想外の返事に驚いている。

「ほ、本当に!?」

「ああ。ただしひとつ条件がある」

「条件って?」

「一緒に住むのは、あくまでこの事件が解決するまでの間だけだ。事件が解決したらとっとと出て行ってもらうから、それまでに次の物件とか探しとけよ!」

匡の言葉に、久保は

「全然いいよ!ほんっとーにありがとう!!助かるよ!!」

と何度も頭を下げた。

リオは

「匡様と二人きりの時間が減ってしまうんですね……」

と小さく呟いたが、なんだかんだで楽しそうな匡を見て満足そうに微笑んだ。


***


しばらくすると、荷物を取りに行っていた久保が大きなキャリーケースを引きずりながら戻ってきた。

「本当に今日の今日から住み始めるのか?」

呆れながら匡が尋ねると、久保は

「うん、行動するなら早い方がいいからね」

と言って笑った。


「一応、僕達の生活スペースはこのドアの先にあります。仕事がない時は大体こっちで生活してるんです」

そう言ってリオが事務所奥にある『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアを開ける。

その向こうはリビングダイニングになっており、カウンターキッチンの前にテーブルと椅子が置かれている。壁には大型テレビ、その手前にはL字型の大きなソファとローテーブルもある。西側の大きな出窓には申し訳程度に小さな観葉植物が置かれていた。

「こっちのドアを開けると廊下です」

リオが東側の壁についたドアを開けると、その先は長い廊下になっていた。

浴室、トイレの他に5つほどの部屋がある。二階は無いが、突き当たりの暗い階段が物置状態の屋根裏部屋に繋がっている。

「なんか、外から見たら小さそうに見えたけど結構広いんだねえ」

久保が呟くと、匡が手前から三番目の部屋のドアを開けた。

段ボールや本、書類などが積まれ、ここもまた物置状態になっている。

「とりあえず久保はこの部屋を使え。エアコンも机も簡易ベッドも一応あるから。他の家具が必要なら自分で用意してくれ」

久保が部屋に足を踏み入れる。

「おお〜!なかなかいい部屋だね!オレ元々持ち物少ない方だし家具はこれで充分だよ!よし、三人でぱぱっと片付けちゃおう!!」

ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩め、腕捲りをしながら久保が言う。

「はあ!?お前が使うんだからお前ひとりで片付けろよ!!」

匡がそう言うと、久保が困ったような顔で匡を見つめた。

「そう言われても、オレここにあるものが必要なものなのか捨てていいものなのかすらわかんないし、匡くんかリオくんがいないと困るんだけど……」

そう言われてしまうと反論できない。

匡とリオは渋々久保の部屋の片付けを手伝うことにした。

ふと、匡は

(久保が荷物取りに行ってる間に魔法で片付けとけばよかった……)

と後悔した。


***


「はあ〜、やっと片付いた!!」

綺麗になった部屋の床に匡が寝転がる。

気がつけばもう夕方になっていた。外からはカラスの鳴き声が聞こえてくる。

「せっかくだし、今日の夕飯はオレが作るよ!二人とも何が食べたい?和洋中なんでも作れるよ!」

得意気に腕を組む久保に、寝転がったままの匡が少し考えてからぽつりと呟く。

「んーじゃあハンバーグ」

「ハンバーグ!いいですね!!」

リオも目を輝かせながら頷く。

「了解!じゃあ早速材料の買い出し行ってきます!!」

久保はそう言うとスーツのジャケットを素早く羽織り、財布だけ掴んで物凄い速さで外に駆け出していった。


「……あいつ、このクソ暑い中でもきっちりスーツを着込んでるのは何か拘りでもあるんだろうか」

半身を起こした匡がエアコンの風に当たりながら呟いた。


***

「ま、マジかよ……!!」

「これ、本当に全部久保さんが……!?」

匡とリオはテーブルに並んだ料理を見て目を見開いた。サラダ、スープ、メインのハンバーグ、その他のちょっとした小皿も全て、まるでプロの料理人のような出来である。そしてセンスのある盛り付け。とても近くの激安スーパーで調達してきた食材とは思えない。


「久保さん、昔レストランで働いてた経験でもあるんですか?」

リオが席につきながら恐る恐る尋ねると、久保はエプロンを外しながら笑った。

「まさか!ただの趣味だよ!」

「いやこれただの趣味ってクオリティじゃないだろ……」

椅子に座りながら匡が呟く。

とはいえ、どれだけ見た目が美しくても味が伴っていなければ意味がない。

「……いただきます」

匡とリオが同時にメインのハンバーグを口に運ぶ。そして数回咀嚼した後、硬直した。

「……あれ?口に合わなかった?」

久保が焦っていると、匡がスッと立ち上がり久保の肩に手を置いた。

「……久保、俺はさっき事件が解決するまでの間だけここに住んでいいと言ったが、あれは撤回だ。お前は一生ここで暮らせ!!」

「なんで急に!!?」

戸惑う久保の手をリオが握る。

「久保さん……僕、久保さんのこと完全に誤解してました!!チャラチャラした遊び人だと思ってましたが、まさかこんなお料理スキルをお持ちだったとは!!」

「待って、遊び人だと思われてたの!?」


二人の態度の急変に困惑しつつも、久保は自分の料理を美味しそうに頬張る二人に満足気に笑った。

「口に合ったならよかったよ!ちなみにこの後デザートもあるからね!」

久保の言葉にリオの目がますます輝く。

匡は感心したようにハンバーグを食べながらちらりと久保を見た。

「天は二物を与えずなんて言うが、イケメンで料理上手で霊能力持ちって……色々与えられすぎだろ。お前実は相当モテるんじゃねーの?」

リオもうんうんと頷いた。

「いや〜与えられすぎても困るだけだよ。勝手に惚れられて付き纏われたり知らない男に彼女を奪ったとか因縁つけられて殺されそうになったり……霊能力があるからこそ思うけど、生きた人間の歪んだ好意ほど怖いもんはないよ。霊は祓えるけど人は祓えないからね」

久保はそう言うとニヤリと笑った。

「ていうか、匡くんこそその辺どうなの?その顔でモテないわけないでしょ。学校でも騒がれてたし」

久保の言葉に匡がため息をつく。

「別にモテねーよ。俺の長所なんて顔が良くて背が高い所くらいしかないからな……」

「悲壮感漂わせて言う割に外見の良さは認めるんだ……」

二人のやり取りを見ながらリオがふふっと笑った。

「匡様は自覚がないみたいですが、僕は匡様の長所をいーっぱい知ってますよ!」

「じゃあ俺の長所言ってみろよ」

「えーっと、まずは顔がいい、背が高い、髪がサラサラ、いつもいい匂いがする、寝顔が可愛い、酒癖が悪い、服のセンスが微妙……」

「途中から悪口になってるじゃねーか!!」

軽やかにツッコミを入れる匡と、匡の反応を楽しんでいるリオを交互に見ながら、久保が不思議そうに尋ねる。

「二人は本当にただの師匠と弟子なの?」

それに答えたのはリオだった。

「今はそうですけど、僕はいつか必ず匡様の心を射止めてラブラブカップルに……」

「ならねーよ!!」

匡がすかさず割り込む。


延々と続く二人の言い争いを見ながら、久保はふふっと笑った。


***


夜、疲れが溜まっていたのか久保は入浴を済ませてすぐに部屋に直行し、そのまま眠りについてしまった。

匡とリオはリビングのソファに座って何やら話をしている。


「やはり催眠魔法だったか……なんとなくそんな気はしていた。リオを行かせたのは正解だったな」

警察署を取り巻く強大な魔力の話を聞き、匡が険しい顔をする。

「おそらく、人を消す魔法と同様かなり特殊な魔法だと思います。僕や匡様に解けるようなものでは無さそうでした。あんな大きな魔法を使って警察を無力化させるなんて、相当な念の入り様ですよ」

リオはそう言って悔しそうに俯いた。

「……そんな魔法がかけられているなら、この事件の犯人は魔法使いと断定してもいいだろう。俺達に接触してきたのも、同じ魔法使いとして警戒されているのかもしれないな」

「僕もそう思います」


その時。

「匡くん!リオくん!まだ起きてる!!?」

寝たはずの久保が勢いよくリビングに駆け込んで来た。

「なんだよ久保、寝たんじゃなかったのか?」

匡とリオは魔法の話を聞かれたのではないかとドキドキしている。

「いや〜なんか急に目が覚めちゃってさ、もしまだ起きてるつもりなら一緒にゲームでもしない?」

匡は呆れ顔でため息をつくと

「いや、俺はもう寝るぞ」

と言い寝室へと向かっていった。

「ええー、寝ちゃうの?じゃあリオくん一緒に……」

「匡様が寝るなら僕も寝ます!!」

「ええーっ!待ってよ!!一回だけやろうよ!!短時間で終わるからさあ!!」


夜は更けていく。

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