12-2. 洋館の中、2人
騒々しい人の波は行ったり来たり。見知らぬ愉快な音楽と笑い声。その中にいつもと変わぬ表情1つ。それでも、彼女は楽しんでいる。
右手にはパステルカラーのゾーンから伸びる線路。小さな汽車に乗り込めば、この遊園地をぐるりと見て回ることが出来るだろう。
色鮮やかな世界にパッと浮き出る深緑のブロンズ像が左手に見える。小さな少女が座り、小鳥と戯れている姿は、確かに御伽話。ここはそういう場所なのだと強く訴えかける。
その奥には小さなレストランやお土産屋さんが立ち並び、子供達はアイスやかき氷を椅子にちゃんと座りながら、美味しそうに食べている。
「……子供、好き?」
思っていたよりもまじまじと見てしまっていたらしい。風花は物珍しそうに俺を眺めながら聞いてくる。
1人だったら完全に危ない人だ。
「普通に好きかな。風花は?」
俺が眺めていた子供達を、隣で見つめる風花に質問を返してみる。
「……今、嫌いではなくなった」
「今?」
ついさっきまで嫌いだったらしい風花は何故かその存在を受け入れたらしい。
「……なに考えてるのかわからなくて、苦手だった」
そう会話を続ける彼女は、もう1度ちらっとアイスにかぶり付く子供を見ると、少し微笑ましい雰囲気を見せる。
「……今は、少しわかる」
そう言うと俺の腕を少し強めに引っ張り、さあ次に行こう!と誘う。
「そうか」
俺は腕に風花の体温を感じながら、変化し、そして世界への視野を少しずつ広げる彼女を、喜ばしく見つめるのだった。
次に俺と風花が並んだ列の先には、世界で1番怖いと評判のお化け屋敷がある。
大きな館の形をしたそれは、遊園地になんだか薄暗い影を落とし、人を呑み込んでは易々と帰してはくれない。
「……怖くない」
どこから来る自信なのか、風花は力強い言葉を吐き出す。
「なんで俺の後ろでそれ言うんですかね……」
俺の背後にサッと移動すると、Tシャツの裾を掴む。力強いのは言葉だけで、完全に盾代わりにされている。
受付のお姉さんに懐中電灯を渡され、にこやかに手を振られる。これから向かう所とのギャップが大きく、不安な気持ちが増していく。
館の扉はギギギと不快な音をさせ、俺たちを出迎える。とんだおもてなしだと思いながら、ひんやりとした内部へと一歩足を踏み出す。
バタンッと後ろの扉は無慈悲に閉められ、正面には上から暗い橙色の照明で照らされた、館らしい大きな階段が見える。しかし、そこ以外に明かりはなく、静けさに支配された薄暗い広々とした空間は、恐怖を増幅させていく。
懐中電灯に明かりを灯すと、左右にいくつか部屋があることがわかった。出来れば入りたくないが、背中からぐいぐい押して来る人がいるので、行きます。誰とは言わないけどね。寧ろ押してるのが彼女じゃなくなった時、この館は本当のお化け屋敷となる……なんてね……
冬に来たら静電気が来そうな冷たいドアノブに手をかけ、右側の1番手前の扉を開ける。
背中にいる風花はいよいよ両手でTシャツを握り、完全に隠れた。俺も誰かに隠れたいよ。
中に入ると左側は壁。右奥にベッドが壁沿いに置かれ、枕元には小さなライトで照らされた化粧台、その向かいにはタンスがある。館というよりも狭いホテルの一室という感じだ。
「なにもないな」
フーっと息を吐き、家具が置いてあるだけの部屋に少し気が緩む。
俺の一言を聞き、そっと顔を覗かせた風花は、余裕ですと言いたげに俺から離れ、化粧台の引き出しを開け始める。
「……あった」
と彼女はブレスレットを持ち上げる。
このお化け屋敷のコンセプトは幽霊屋敷に眠る家宝を3つ集めて出るというもの。1部屋目で早速1つ見つけられたのは喜ばしいことだ。
「やった!」
俺たちが化粧台の前でハイタッチを交わそうとしたその時、ベッドの下からなにかが擦れる音がした。
「……」
彼女は見たこともない素早さで俺の左腕に飛びつく。
音がした方に懐中電灯を向けると、長い髪の女の顔が、黒目しかない目でこちらを見ていた。
「うぎゃー!」
「……!ー!」
俺は左手に掴まる風花を抱え、もうダッシュで部屋を飛び出ると、急いで扉を閉じた。
ハァハァと息切れする2人の音だけが洋館に響く。
「こんなのが、まだ続くのかよ……」
残る部屋に視線を移し、俺たちは冷え冷えとした嫌な汗を流すのだった。
洋館の中、2人。




