カルテ10
病室の前に車椅子が止まり、傍らでは泉先輩が顔を伏せている。
相変わらず声は出ないし、体を動かすことも出来ない。
(……泉先輩……起きてください。ここ……どこなんですか?)
すると……。
ギィィ──
ギィィ──
ギィィ──
動き出した車椅子は、私がいる病室へと入ってきた。
(………………誰も押してないっ! 先輩っ! お願いだから起きてっ! 顔をあげてくださいっ!)
ベッドサイドに顔を伏せて、小刻みに震えていた泉先輩の肩がピタっと止まった。
(……泉先輩?)
「……ずっと」
(えっ?)
「……ずっと……起きてたわよ。だって……」
伏せていた顔が、ゆっくりと私の方を向き始めた。
(……い、いやぁ)
「……だって、あなたに見て欲しかったんですもの。私の…………顔を」
(きゃあぁぁぁぁぁ!)
◇◆◇◆◇◆◇
『見てはいけない──』
『答えてはいけない──』
ふたつの約束を破ってしまった私は今、車椅子に座らせられ、永遠に明けることのない夜を、さまよい続けている。
車椅子を押す、顔の無い女が滴らせる真っ赤な血が、真っ白だった私の白衣を、赤く染めながら──
ギィィ──
ギィィ──
ギィィ──