第18話
この世界、銀行がない。
お金を預かってくれる組織がないのだ。
もちろん、超便利な冒険者ギルドカードがキャッシュカードの働きをしてくれることもない。
お金は遣わなければ貯まる。
硬貨ばかりで紙幣がない。
結果、
「お金が重いデス」
持って歩くには非常に負担になる重さになってしまう。
「冒険者ギルドに行ったときに、金貨に両替してもらうか」
「そんなことしてもらえるんだ」
「どうだろうな。あまり見たことはないな」
「そだね。みんなどうしてるんだろ?」
「日銭はその日に遣ってるんじゃないか?」
「え、そうなの?」
「お金がなくなったら依頼を受けて稼いでいるようだな」
そんな刹那的な。
「武器や防具の手入れにもお金はかかるし、金が重いという悩みは聞いたことがないぞ」
つい勤勉に働き過ぎたようです。
「金に余裕があるなら、お前の防具を買え」
「ヨロイとか動きにくいし、暑そうだからあんまり着たくないんだけどな」
「マジック付きの防具のマントや革鎧ならそれほど重くないだろう」
「そんなのあるの?」
「あまり出回ってはいないがな」
「高いんじゃない?」
「・・・白金貨2~3枚で買えるものもあるぞ」
「そこまで貯まってません」
白金貨は金貨100枚分。
ちなみに、金貨1枚は、銀貨10枚、銀貨1枚は銅貨10枚、銅貨1枚は青銅貨10枚で、
感覚的には、金貨が1万円、銀貨が1000円、銅貨が100円、青銅貨が10円くらい。
金貨まで10進法なのに、白金貨だといきなり100進法になる。
他とあまり交流のない小さな農村だと、貨幣の価値が浸透してなくて、物々交換がメインな地域もあるらしい。
そうなるとお金を貯めるリスクもあるのかもだけど、少なくともこの町では適正な貨幣交換が行われてるんだそうだ。
「俺としては、ある程度の防具を着て欲しいのだがな」
「うーん、それじゃ防具屋さんに行ってみますかね」
前に、呪われた武器を二束三文で売ってくれたお店に行く。もちろん、掘り出し物狙いだ。
「お、嬢ちゃんか。まだ生きてるのか」
強面の武具屋の店主さんが失礼なことを言う。
「ご覧の通りです」
「防具のひとつも着けないで、どうやって外で稼いで来るのか理解不能だね」
冒険者ギルドでも言われるんだけど、前衛のレオンが優秀なのと、私の索敵能力のおかげで、ほとんど攻撃をくらったことがない。
私さえ無事なら、回復魔法も使えるし。とはいえ、昨日まで大丈夫でも、今日大丈夫な保証なんてないんだけども。
「今日は私の防具見に来ました」
「おーそうかそうか、どんなのがいい?」
「魔法使いなので、軽くて動きやすいのありますか?」
「予算はどれくらいだ?」
「金貨50枚程度ですかね」
「ふむ。少し待て」
強面の武具屋の店主は、店の奥に消える。
この世界のお店は、価値のあるものは、店頭に並んでいないのがほとんどなので、
欲しいものがあれば、店主さんと相談しながら購入するシステムだ。
店頭に並んでいるのは、二束三文の中古の武器防具や、そこそこの品程度。
武器は鎖で固定してあって、持ち出しが出来ないようになっている。
「防具なんだが、中古や既製品は、身体の小さい嬢ちゃんだと寸法が合わねぇな」
「そんなに小さくないですよ」
私、これでも165㎝はあります。
この世界に来て、若干の変化はあるかもしれないけれど、体感的にはそう違いがないと思う。
「いや、小さいな」
二束三文コーナーを眺めていたレオンも店主さんに同意する。
「レオンが大き過ぎると思う。あと店主さんも」
ついでにこの世界の人全般。
「これから伸びるのかもしらねぇが、防具は身体に合わせねぇと意味がねぇからな。
とりあえず、この物理防御の効果がついたマントはどうだ。中古だが、悪くねぇ効果だぞ」
少しほこりっぽい黒いマントで、よく見ると、うっすらと刺繍みたいな模様が入っている。
「大きいね?」
「ごく一般的なサイズだが、仕立て直さないと駄目だな。嬢ちゃんには子供用がいいかもなぁ」
「子供用の防具なんてあるの?」
「見たことないなぁ」
「むぅ。それで、どれくらいの物理防御なの?」
「トロルの攻撃くらいなら防げる程度だな」
「本当?」
「たぶんな。試してみてねぇからな」
「いくらにまけてくれるの?」
「まける前提かよ。そうだな、中古だけど結構いいものだし、金貨30枚ってとこだな」
「たっか!布なのに?金属とか革とかじゃないのに?」
「何を言ってる。魔力が含まれているものは高価なのは当たり前だろう」
「どんな効力があるのかたしかめてもいないのに?」
「む・・まぁそうだが。でもこれを持ってきた奴はそう言っていた」
「その人は信用出来る人なの?」
「う・・ん、悪い奴じゃねぇ」
「それほど信用出来ない人の言葉だけで、値段をつけるとか、商売としてどうなの」
「いやそれは・・」
「金貨10枚ね。それでも高いくらいだけど、店主さんとこれからも良いおつきあいがしたいし?」
「うーむ。それなら、素材を売ってくれないか」
「素材?皮とか?」
「ああ。最近、中々武具用の素材が回ってこねぇんだ」
「トロルとかでいいの?」
「トロルでもありがてぇが、上位種だともっとありがてぇな。素材は、強い奴ほど良いもんが穫れるからな」
「皮剥ぎ、あまり得意じゃないのだけれどそれでも良い?」
「出来るだけ状態良く頼む」
「わかった。じゃあ金貨8枚と素材の優先権ね」
「まだ値切るのかよ。わかった、それで良い」
「素材、品不足なんだ?」
「ああ、なんでも冒険者の数が減ったみてぇでな。仕入れの量が減ってるらしい」
「へぇ、そうなんだ」
冒険者ギルド、ちゃんと高めに買い取ってくれてるのかな。要調査だな。
買い取りだけなら、こうやって直接武具屋に買い取りしてもらうのも良いかも。面倒くさくない程度なら。
「ウチの店も客足が減っててな。嬢ちゃんたちもたくさん稼いでたくさん買ってくれや」
「わかった。じゃあこれ、とりあえず金貨8枚分ね。素材は近々ってことで」
「お、おう、よろしくな」
懸案事項だった銀貨や銅貨をここぞとばかりに、金貨8枚分積み上げる。
だいぶ懐が軽くなりました。




