星空の下の二人
「メルさん、一体何の話なんですか……あ」
足音の主に振り向きながら話し掛けたエリスフィーナは言葉が途中で止まってしまった。
やってきたのはガルドリックでメルティローズの姿はどこにも無い。
「エリス……君もか? 俺もメルティローズに話があるって呼び出されたんだが……」
状況が飲み込めず二人はしばし固まってしまったが……
「もうすぐ来るのかもしれませんし……こちらにお掛けしませんか?」
エリスフィーナが開いたベンチの隣をガルドリックに促す。
「そ、そうだな。少し待たせて貰うか」
こうして二人は星空の下まだやってくる気配すらないメルティローズを待つ事にするのだった。
(…………)
しかし、待てど暮らせどメルティローズはやって来る素振りすらない。いつしか銭湯も営業を終了する時間すら回ってしまっていた。
「あ、あの……私メルティローズさん探してきます」
ガルドリックと二人きりな環境に耐えきれずエリスフィーナがベンチから立ち上がると
「エリス、ちょっと……いいか?」
ガルドリックはエリスフィーナを呼び止めるとジャケットの胸元から高価そうな革袋を取り出してきた。そして
「これ、受け取ってくれないか?」
ガルドリックは立ち上がるとエリスフィーナの前に革袋を差し出してきた。
「え? あの……?」
訳が分からずエリスフィーナは渡されるまま革袋を受け取った。
「……あの、どうしたんですか? こんな高価そうなもの……」
革袋とガルドリックを交互に見ながらエリスフィーナが彼に尋ねると
「他の皆に装備を新調しているのに君には何も無いなんて不公平だろう?」
ガルドリックの答えにエリスフィーナはまだ訳が分からないで居た。装備品については自分としては両親が用意してくれたプレートアーマーがあり、弓にも剣にも困ってはいない。
ージャラ……ー
革袋をよく見ようと触ってみたところ中から金属が擦れる音が聞こえてきた。
「あの、中見せて頂いても……?」
エリスフィーナの問いにガルドリックは静かに頷いて見せる。そんな彼の目の前で革袋を開けて中を覗いてみた瞬間
「……っ!」
エリスフィーナは心臓が止まる勢いでビックリしていた。何しろ革袋中に入れられていたのは……
ージャラジャラ……ー
「あ、あの……これ……!」
エリスフィーナが昼間の雑貨店で今は買えないと諦めたアクアマリンのペンダントだったからだ。
そもそもがどうしてガルドリックに自分が気になっていたものが知られているのかが分からなかった。
そしてそれは金額三枚分という高額商品である事実もエリスフィーナの脳裏で頭をもたげてきていた。
「受け取って……くれるか?」
そう尋ねるガルドリックは何時になく不安そうな顔をしていた。いつもの自信に満ちた凄腕冒険者の顔はそこには無い。
「あ、あの! 受け取れないです! わ……私、こんな高価な品……!」
一方のエリスフィーナは完全にテンパって居た。革袋を持つ手もアクアマリンを持つ手もガクガクと震えている。
「君には……受け取ってほしいし、その権利がある」
「え……?」
ガルドリックの言葉の意味が分からず思わず聞き返す。
「……君は本来は魔王を倒した功績でホワイトクラウン王国で褒賞を受け取れるハズだった」
ガルドリックは本来のエリスフィーナが辿っていたと思われるもう一つの今を語り始めた。それは王国で大歓迎を受けて名誉と富を手に入れていたはずの勇者パーティーのもう一つの未来。
そして、故郷で平和な暮らしへと戻っていたはずのエリスフィーナの日常。
「そんな穏やかな今を俺の我儘で奪っているんだ。君を危険に晒したのも一度や二度じゃない……」
ガルドリックは最近の生活において、エリスフィーナにまで手が回っていなかった事を悔やんでいる。
「それじゃなくてもエリスには魔王討伐に協力してくれた報酬すら渡せていなかった……。そのペンダントだけでは……とても足りないが、今はこれで精一杯だ」
ガルドリックはエリスフィーナが考えていた以上に責任を感じていた様だった。
「ガルドリックさん……ごめんなさい。私の事でそこまで気に病んでいた事に気付けなくて……」
エリスフィーナはガルドリックに頭を下げて謝罪の言葉を口にする。そして
「アクアマリン……ありがとうございます。一生……大事にしますね?」
彼の意を汲み取ってアクアマリンのペンダントを素直に受け取って喜びの笑顔で彼の気持ちに応えるのだった。
広場でエリスフィーナとガルドリックが話している頃、場をセッティングしたメルティローズはクレスと共に物陰に隠れながら一部始終を観させて貰っていた。
「いや〜、これでとりあえずは一件落着かしらね〜」
完全に興味本位で眺めているメルティーローズに対しクレスは
「出歯亀とは感心しませんねぇ。明日からこれを知らないフリする私の身にもなって欲しいのですが……」
メガネのズレを中指で直しながら語るクレスだが、その口元は明らかにニヤついている。それはガルドリックの弱みを掴んでやったと悪巧みしている腹黒のそれであった。




