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護衛騎士を志した日②

「父様?早すぎない?」

「違いますよ」


 トレーの手紙を見ると百合の花の封蝋。

 リオネッタ姫の紋章だった。


「エレオノーラ様、少し失礼いたしますね」

「お気になさらず」


 アリーナはリディアから手紙を受け取ると丁寧に手紙を開封する。


「や、やったー!」


 手紙にはアリーナが待ち望んでいた言葉が並んでいた。


「皇太子殿下の許可がおりました。明日からのエメラルド皇国への訪問、アリーナは剣を所持していいそうよ。帯剣までは許可できないけど…」


「エレオノーラ様!見てください。剣を持っていくことの許可がでました!」


 アリーナはエレオノーラにリオネッタからの手紙を見せた。

 守秘義務はとりあえず今は忘れてしまおう。


「まあ、ほんと。おめでとうございます」

「はい。今までの訪問で、あちらの騎士たちと早朝訓練した甲斐がありました!」

「え?」

「今までは侍女のフリをしていたのですが…。騎士の早朝訓練を見かけたので混ぜてもらってたのです。そこで第二皇子殿下に会って、いつか姫さまの騎士として、という話をしていたんです」


 エメラルド皇国の第二皇子オスカーは、母親の身分が低く王位にも興味がない。興味があるのは剣や魔法。

 アリーナと似たところがあり、仲良くなっていた。

 彼も兄である皇太子の護衛騎士として粉骨砕身、日々鍛錬をしている。


「ふふふ。アリーナ様、幼い時に決めた夢、揺らがないですわね」


 あの運命的な、二人が出会ったお茶会。

 そこにエレオノーラもいたのだ。


「お茶会、懐かしいですわ」

「そうですね。あのお茶会で私たち仲良くなったんですもんね」


 アメジスト王国では、貴族の子供が六歳を迎えると、王妃と第二妃主催のお茶会に招かれる慣わしがある。

 アリーナも六歳でお茶会デビューを果たしている。


 アリーナの出自を大々的に言ってはいないが、貴族社会というのは狭いもので、いつのまにか婚外子であることが知られていた。

 しかも、その子を正妻であるセシリアが育てるというのは、異例中の異例だった。


 アリーナ自身はそんなに気にしていないが、周りはひそひそとアリーナを見て話をしていた。

 セシリアが少しアリーナの元を離れると、その声は途端に大きくなった。

 身分では敵わないため、直接言ってはこないが、まとわりつく虫の羽音のように耳障りだった。


「くだらない」


 小さくそう呟いて、しっかりマナーを守りお茶菓子を楽しんでいた。


 アメジリウス公爵家とアルデンティア公爵家は同格の家柄ということもあり、アリーナとエレオノーラが同じ席につくことはよくあった。

 その時のエレオノーラの母は、アリーナはまるでいない者として見向きもしなかった。


 後にわかったことではあるが、王妹であるが故に、規律を重んじるばかり、人の気持ちに寄り添えないところがあること。

 王妃と双璧と言われていたセシリアを尊敬しており、アリーナの存在が彼女を傷つけているのではないかと思っていたこと。

 それらの思いでアリーナに厳しい態度を取り、エレオノーラにも親しくしてはいけないと厳しく言っていたのだ。


 エレオノーラは少し大人びた態度のアリーナのことが気にかかっていたが、母の言いつけもあり自ら声をかけることはできなかった。


「アリーナ、気にするな」


 まだ学園に通っていないテオドールもその場にいたので、妹の頭を撫でてやっていた。

 父に魔法を使ってはいけないと厳命されているので我慢しているが、アリーナのことを悪くいう輩の頭を火魔法で燃やしてやりたいくらいには、テオドールも静かに憤っていた。


 セシリアがアリーナを本当に可愛がっているのは、誰が見てもわかっていた。

 だが、人の欠点になりうるところを攻撃したいのも、人としての心理であった。


 まだここでアルデンティア公爵夫人の態度が軟化すれば、周りも態度を改めたかも知れないが、どうしても彼女はアリーナの存在が許せなかった。


 セシリアがアリーナに向ける笑顔が、慈しみと愛で溢れていることがわかっていたとしても…。


 七歳の時も似たようなお茶会で、さすがに八歳の時のお茶会は体調不良と言って休もうかと思っていた。

 もちろん、セシリアにはダメだと言われていたが…。


 また同じことの繰り返し。

 耳を閉ざして、周りの声は何も聞かないように、王妃とセシリアの会話に集中しようと思っていた。


「いい加減になさい」


 静かに一人の少女が立ち上がった。

 王妃の隣、今回のお茶会がデビューとなる、アメジスト王国第一王女、リオネッタだ。


「いい加減になさい。本当に。あなた方はひそひそと…」


 六歳の少女がギロリと周りの大人を睨む。

 たった六歳、されど彼女は王女であった。

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