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栄誉の刻

大広間の空気が、次第に厳粛なものへと変わっていった。


高々と響く角笛の音が、これから始まる式典の始まりを告げる。集まった貴族たちの視線が、一斉に広間の奥、王座へと注がれた。玉座の間へ続く扉が、荘厳な音を立てて開かれる。


現れたのは、白髪交じりの威厳ある佇まいを持つ国王フェリクスだった。傍らには王妃、そして先ほど言葉を交わしたリカルドを含む王族たちが、静々とその後に続いている。


一同が着席すると、大広間には、これまで以上の静寂が広がった。誰もが息を潜め、これから執り行われる式典の始まりを待っている。


「今日、この場に集まってもらったのは」


国王フェリクスの声が、朗々と大広間へ響き渡った。


「王国北部を長らく脅かしてきた黒狼旅団を壊滅させた、二人の功労者を称えるためである」


その言葉に、広間の視線が、一斉にオーレリアンとシンクレアへと向けられた。多くの視線を一身に浴びながら、二人は静かに前へと歩み出る。


石畳を踏みしめる足音だけが、静まり返った広間に響いていた。かつて婚約破棄という屈辱を味わったこの場所で、今、シンクレアは、確かな誇りを胸に、前へと進んでいく。


隣を歩くオーレリアンの存在が、その一歩一歩に、確かな支えを与えていた。


玉座の前まで進み出ると、二人は揃って片膝をついた。頭を垂れる姿勢の中、それでも、その背筋には一切の弱さが見られない。


「オーレリアン・エルフレイム」


国王の声が、静かに、しかし確かな重みを持って告げられる。


「そなたの剣技と勇気により、王国北部を脅かした賊の首魁が討たれた。その功績、まことに天晴である」


「有り難き幸せにございます」


オーレリアンは、丁寧な口調で応じた。家族の前でのみ見せる、あの礼節に満ちた声だった。


「シンクレア・エルフレイム」


続けて呼ばれた名に、シンクレアは僅かに肩を強張らせた。ローゼンタールの姓ではなく、エルフレイムとして呼ばれたことに、確かな感慨が込み上げてくる。


「そなたの剣技もまた、此度の戦いにおいて欠かせぬものであったと聞く。幹部の一人を降し、多くの兵を救ったその働き、王国として深く感謝する」


「身に余るお言葉にございます」


淡々と応じながらも、シンクレアの声には、隠しきれない誇りが滲んでいた。かつて婚約を破棄され、剣ばかりだと蔑まれたこの場所で、今、その剣技こそが称えられている。その皮肉めいた巡り合わせに、静かな感慨が胸を満たしていく。


国王は玉座から立ち上がると、近侍の手から、二つの勲章を受け取った。金糸で縁取られたそれには、王国の紋章が精緻に刻まれている。


「両名に、王国最高位の勲章を授与する」


厳かな声とともに、勲章が二人の胸元へ、丁寧に授けられていく。金属の冷たい感触が、確かな重みを伴って伝わってきた。


「面を上げよ」


促され、オーレリアンとシンクレアは、揃って顔を上げる。国王の眼差しには、これまでの功績を心から称える、確かな敬意が宿っていた。


「そなたたちの働きにより、王国北部は、これから平穏を取り戻していくであろう。改めて、感謝する」


その言葉に、広間中から、割れんばかりの拍手が沸き起こった。集まった貴族たちの視線には、賞賛と敬意が、惜しみなく注がれている。


シンクレアは、その拍手を浴びながら、静かに胸の奥を見つめていた。


かつて、この同じ場所で、多くの人々の前で婚約を破棄された。あの時、注がれた視線の多くは、憐れみと嘲りの色を帯びていた。だが今、同じ広間で注がれる視線には、確かな敬意と称賛だけが宿っている。


隣に立つオーレリアンへ、シンクレアはそっと視線を向けた。


拍手を浴びながらも、その表情には驕りの色は一切なく、ただ穏やかな微笑みが浮かんでいる。まるで、この栄誉さえも、隣に立つ者と分かち合うことに、何よりの意味を見出しているかのようだった。


式典が滞りなく終わり、二人は広間の端へと退いた。多くの貴族たちが、次々と祝いの言葉をかけてくる。その一つ一つに丁寧に応じながら、シンクレアは、胸の奥に広がる穏やかな充足感を、静かに噛み締めていた。


「終わったな」


囁くように告げるオーレリアンに、シンクレアは小さく頷いた。


「ああ」


短い返答だったが、そこに込められた想いは、決して軽いものではない。過去の傷を抱えたまま訪れたこの場所で、今、確かな誇りと共に立っている。


「胸を張っていい」


そっと告げられた言葉に、シンクレアは静かに視線を上げた。金色の瞳に映る自分の姿は、以前とは、確かに違って見えた。


大広間に満ちる祝福の空気の中、二人はしばらくの間、並んで立ち続けていた。婚約破棄という始まりから続いてきた長い物語は、今、確かな栄誉と共に、新たな一章へと歩み出そうとしていた。


窓の外から差し込む夕暮れの光が、王城の大広間を、金色に染め上げていく。過去との対峙を終え、確かな絆を胸に抱いた二人の姿を、その光は、静かに、そして温かく照らし続けていた。


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