─ある青年の邂逅─
僕があの人と出会ったのは、陽の季節のことでした。
祖父から言われた通り、赤い帽子を被って、一人でディア湖を渡り、アルゼ山に登って、またディア湖に戻る。なぜ時間をかけて、足を痛めながらこんなことをするのだろう、と思っていたのですが、すべて見渡せる高台の小さな家で、あの人は見ていたそうです。
赤い帽子が、くるくるくるくる動いているのを、眺めていたそうです。
それを語ってくれたとき、僕は、あの人らしいなあ、としか思えませんでした。
ディア湖に戻ったときのことを、僕は一生忘れられません。
あの人は橋の真ん中に立っていた。
肌を一切出さない黒い服。なびく大きな裾。昔、母が読んでくれた「死神の花畑」に出てくる死神の姿そのものだったのです。
肩の上でパラパラと揺れる黒い髪。
白い横顔。
宝石を思わせる紫色の瞳が、鈍く輝く。
少年だろうか、と思ったのは一瞬だけで、あの人は「お前、若返ったね」と、優しく声をかけてくれました。
僕が「祖父の代わりを務めることになった」と言うと、彼女はわかっていたのか、少しだけ遠くを見て祖父を見送るように慈しんでから「そうか」とだけ言いました。そうして目を閉じて、祖父の名を呼び、僕を再び見て「お前の名前は?」と聞いてくれたのです。
嬉しかった。
あの人の同行者は必ず「ルース」と名乗ると知っているはずなのに、僕に名前を聞いてくれた。
そうして、あの人も名乗ってくれた。
「私は加護踏みのリネーネ。よろしく頼む、ルース」
と。
僕はあの明るい笑顔を忘れられない。
きっと、忘れてはいけないのだろう。
長く一緒に過ごしたけれど、あっという間だった奇跡の日々を。
あの人が死者の影を踏み、加護を解放するとき。
あの人の左足の銀の輪が、光るとき。
僕はいつも初めて会ったときの笑顔を思い出した。
あの人が強く生きる、明るく照らされる姿を。




