episode22.友の行方
[そなたに上げたい物は沢山ある。
取りに行ってくるから、あの木の家で待って居ろ。]
静咲はそう言うと、木の家の近くまで来ると、手を放し、あの、豪華絢爛な木造りの屋敷の方へと足早に足を向けて行ってしまった。
静咲ったら。あんなに、はしゃいで。
そう思いながら微笑ましくなるミルディア。
ふと、樹の家の下に目を向けると、見知らぬ女性が立って居た。
その女性は紅いドレスを身に纏い紅い面紗をしていた。
その面紗は少し特徴的で、ところどころ、黒いドット柄が入っていた。
女性はミルディアにゆっくり近づきながら、
感情も何もない冷淡な言い方で言う。
「御免なさい。御免なさい。
貴女が悪い訳ではないの。
貴女が間違って居た訳でもないの。
貴女が恨めしい訳でもないの。
ただ、私があの方の為なら何でもする。
そう、それだけ。
それだけなの。だから貴女に非はない。」
正直訳が分からない内容だった。
けれど、まるで詩を読む様に私にそう言って来る、その人物の瞳は、今まで出会ってきた樹天仙の中で一番獣と言うよりは、蛇と言った瞳孔で、少し怖かった。
女性は、確実にミルディアに、近づきながら、更に、言葉を続ける。
「だから、あの方があの醜い女の、子供を次期国王にと望むならば。
あの、狂った女の子供を次期国王にと望むならば。
あの、純潔の皮を被った、腐った果実の子を次期国王にと望むのならば。
私はそうなる様にして差し上げたい。
それには貴女が居ては駄目なの。
それには、貴女は必要ないの。
それには、貴女は、この世にすらも居てはならないの。」
徐々にその言葉は、聞いてはまずいもので、
この場は逃げなければいけないのではないだろうか、と思い、後退る、ミルディア。
「貴女は、永遠には生きられず、輪廻転生も約束されて居ないから。
ねぇ、お嬢さん。解ってね?
ギルラス・・・。
我が息子ばかりか・・・。
この国の稀有な存在を、唯の人に近い娘の、貴女と、求愛の儀式を交わさせるわけには行かないのよ。
あの女の似の前に、させる訳にはいかないのよ。恨むのならば、貴女が、人に近い物であり乍ら、稀に見る、夢迷動の力を持って居た事を恨みなさい。
恨むのならば、時を恨みなさい。
恨むならば、場を恨みなさい。
恨むならば、死と運命を司る神を恨みなさい。
そう・・・。貴女は、悪くないわ。」
逃げなきゃ。そう思えば思うほどに、体が震えて、逃げられない。
「あの時、あの場所で。
出会いさえしなければ・・・。
後悔は、いくらだってしても良いけれど、クスクス。ごめんなさい。」
樹天仙の女性は、真底ミルディアを滑稽に思い、馬鹿にしたように、笑うと、更に言葉をつづけゆっくりと更に、その歩みを、ミルディアに向ける。
「現の貴女じゃ。あの時のあの場所なんて、言われても、解らないわよね?」
「どう言う事?」
ミルディアは、不安そうな表情で、樹天仙の女性に問う。
「フフフ。そうよね。解って居たら。
それこそ、貴女を悪女と尊敬するわ。
けれど、覚えて居ないでしょうね。
可哀そうな、我が息子。なんて可哀そう。
そして、もう一人の、可哀そうな・・・。
可哀そうな・・・。不浄の息子。」
不浄?誰の事を言って居るの?
もしかして、静咲の事?
でも、静咲は、稀有って言われているのに、不浄だなんて・・・。
「だからね。お嬢さん。
貴女が悪いわけではないわ。
息子達が悪いわけでもない。
けれど、強いて言うならば・・・。
時と、種が悪かっただけなのよ。
フフッフフフフフフフ。」
その女性の笑い声と共に、緑色の霧が現れ、それに包まれたと同時に、目の前が回転したようになり、意識を失う。
再び目覚めた時は、あの、処刑場に居た。
すぐ傍には、先ほどの女性が立って居た。
「おはよう?よく眠れたかしら?お嬢さん。
ほら見てぇ?あそこに座って居るのが、私の愛する人。この国の国王陛下よ。」
そう指をさす方向には、この間の蔓で出来た玉座の前に佇み、此方を見下ろす、琥珀色の目があった。
「あの国王陛下が、貴方の死をご所望なのよ。ここは潔く死んでしまいなさいな。ね?
息子達は・・・。私達に任せて。ちゃんと貴女の記憶を跡形もなく消して、存在しなかった事にしてあげるから。」
そう言うと、再びフフフと笑いながら、国王の隣へと、舞う様に行くと。
国王の足元に、縋る様に座り、眠る。
「どうして・・・。どうしてですか?
お互い。愛し合えばそれでいいじゃないですか。神サンザーラに認められれば、死と運命を司る神デイガーディアンに認められさえすれば。」
ミルディアは、国王に訴える。
だが、ミルディアのその言葉に、周りに居た樹天仙達がざわつく。
[あの者はなんと無知なのだ。]
[菩提樹ノ君の命を軽んじて居る!]
[何と言う事を!]
[即刻死罪に処すべきです。]
[まさか、ここまで、無知な娘とは。]
口々に樹天仙達はそう王に訴える。
だが、王は、そんな樹天仙達に、手を上げ止めるよう促すと、今まで閉じていた、口を開く。
「私は、確かにお前の死を所望する。
だが娘よ。お前には、何故己が死なねばならないか、それを知る権利はある。
何も知らぬまま、その生を終えるのは我らが崇拝する、神サンザーラの意に反する行為。」
そう言うと、王は玉座の前から消えたかと思うと私の目の前に突然やって来るなり、
私の額にその鋭く白い爪の先を軽くあてる。
すると、まるで王の考えが頭の中に流れ込んでくるように、映像が頭の中に入って来る。それと同時に、王の声が頭の中に響く。
この感覚は前にも味わった事があった。
静咲が、自分の記憶を私に体感させてくれた時と同じ状況だ。
『お前は、我が息子と、求愛の儀式の第一、第二を行った。それをする事で、お前と我が息子は神サンザーラに対し輪廻の仮契約を交わした事になったわけだ。』
映像は、私達が今まで契約を交わした時の記憶を第三者視点で見た者だった。
それは、まるで森の木々達が全て見ていた様に鮮明で、尚且つ、角度も様々だった。
輪廻の仮契約・・・?
でも、私は。
心の中で問いかけると、王はそれを聞いているのか答える。
『そうだ。お前は輪廻転生を持たぬ種族。
今の時点で、もうこの契約は破綻して居るのだ。だが、仮に・・・。仮にだ。第三段階の契約で、我が息子とお前の契約が神サンザーラとデイガーディアンに認められたと仮定しよう。』
その今まで頭の中で響いて居た王の声と映像は消え、王本人が、頭の中の映像として具現化されて、目の前に現れると王は更に言う。
『永遠とも言える静咲の命は、お前と共になり、静咲は短命となるのだ。』
その悲しそうな表情は〝王″と言うよりは、〝父″だった。
『ただ行く場所が違うだけ。お前は黒海に、
静咲はあの地獄とも言える廃天所へと行く事に。』
その話は、ギルラスからも、聞いて居たが、私が、死を終えると同時にと言う事なのだろうか?
それとも・・・。
『すぐには、死にはしない。』
『お前は、その場でその体は朽ち、意識もない事だろう。だが、静咲は・・・。我が息子は。永遠なのだ。』
ギルラスに説明された事を改めて言われると、私は酷な事をして居る。
ミルディアは、少しずつ、その残酷さが理解できた。
ギルラスにも、説明された時も、何処かもの悲しさはあり、表面上の理解は出来て居たが、深い部分までは浸透して居なかったが、王に言われやっと解った。
『私は、意識も無く、唯灰になり、輪廻転生を望む事も無く、静咲に永遠に合う事も出来ない。でも、静咲は、そんな私を、私の記憶を持ったまま、悲しみに暮れる為に、死と似た、樹天仙のもう一つの行き場所・・・廃天仙になると?』
その言葉に、王は、しばらく黙り込むが・・・。
『そうだ。それも、そなたが輪廻転生がある、ならば、廃天仙からの復活も望めるかもしれない。だが、そなたは、人に近い娘。それがない以上。静咲は、永遠にこの国に縛られ、燈火になる事も出来ず、国土が傷つけばその度に苦痛を味わうだろう。』
『けれど・・・。けれど。静咲は、何とかして見せるって。』
『息子は・・・静咲は、幼いのだ。生まれてから、ずっと、菩提樹ノ君として、稀有な存在故に、外界との、接触を一切して居なかった。求愛の儀式も限られた、それも樹天仙の女である必要があった為、逆を返せば、別の種族との求愛の儀式についての知識は皆無。それをする事によって自分が、どんな最後を迎えるかも、正確に解って居ない無知なのだ。』
映像は終わり、目の前には王が立ち私を見下ろして居たが、それは、決して、虐げる様な目でもなければ、まるで、塵でも見ている様な目でもなく。
王はその場に跪き、悲しい表情を浮かべながら、ミルディアに懇願したのだった。
「娘よ。頼む。息子を。静咲を、廃天仙にしないでくれ。」
王は、ミルディアを最早罪人等とは呼ばなかった。
それに対し、ミルディアは、もうどうして良いか解らずに居た。
静咲さんは本当に、何も解らずに私に、求愛の儀式を行ったのだろうか・・・。本当に何の覚悟も無しに・・・。
「娘よ。私は、決してお前の命を無作為に奪いたい訳ではないのだ。お前と、静咲の縁を絶つ為には、例え静咲の記憶を消したとしても、縁が残っている限り、再び巡り合っては意味が無いのだ。すまない、娘よ、お前の死を無駄にはしないだろう。私はお前の死を私の心に刻む。だが、静咲の記憶には刻まれる事は無いだろう。何故ならば、お前の死をもって、静咲の記憶を消す事で、求愛の儀式を完ぺきに消し去る事が出来るからだ。」
王の瞳からは黒いどろどろとした聖天水が次から次へと流れていく。
「すまない。娘よ。すまない。」
そう言いながら、王の手の容は、次第に鋭い刃に変わって行く。
「すまない。・・・咲よ。」
最後に王はそう囁きながら、それを振りかざす。
「助けて・・・静咲。」
ドス
重苦しい音が響いた。
ミルディアは、目を瞑り、このまま静咲にも合えないまま、トラッドネスとの約束を果たせないまま死んでいくのか。
そう思うと、涙を流し、それは友情の宝玉へと変わって行く。
だが、痛みは、やってはこなかった。
ゆっくりと、目を開け、目の前を見ると、そこには静咲が今まさに、自分を庇い、抱きしめ、王を背に、その鋭い刃をその身に受けているのだった。
「っ⁉静咲!」
ミルディアは、悲鳴にも似た声で、その名を呼び、王は、直ぐにその刃を静咲から抜き取る。
「ングッ。大丈夫だよ。ミルディア。樹天仙は、刺されただけでは、どうこうはならないから。」
「でも、でも、口から聖天水が流れて居る!
それって、それって口から血を出して居るって事でしょ?痛いって事でしょう?」
眉を歪めながら、ミルディアの腕をぎゅっと掴み、何処か痛みに耐えている様に見える静咲。
しかし、静咲の言った通り、王により、刺されたそこは、直ぐに、刃を抜き取られた事により、治り、流れていた聖天水も、止まると、口から流れていた、聖天水も手で拭い去るなり、ミルディアを、自らの背に隠すように守りながら、王に向き直り、睨みつける。
「静朔慈。どう言うつもりだ。求愛の儀式を第二段階まで行った者に対し、どの樹天仙も触れてはならない。樹天仙の掟の筈だが?
っふん。あぁそうか、貴方の樹族は昔から、別。か。」
そう言いながら鼻で笑う静咲のまとって居る殺気は、父親に対するそれではなかった。
対する王は、静咲に対し、目を瞑ったままそれを受け入れる様に聞いて居る。
「まったく、貴方の樹族の聖天水が少しでも私の身体の中に入っていると思うと反吐が出る。貴方が、これ以上、ミルディアを殺めると、言うのなら、私にも考えがある。」
静咲はそう言うと、ミルディアを抱きかかえ、高く飛び上がる。
王も、周りの樹天仙もそれに対しては驚きを隠せなかった。
そして、離れた場所に辿り着くなり、静咲は王に大きな声で言う。
「静朔慈よ!私は、ここで、ここに居るすべての神サンザーラの子らの前で、ミルディアと求愛の儀式の第三段階を行おう!」
その宣言は国中に知れ渡るかの如く響き渡った。
王は、それに対し、いけない。
と言わんばかりに、焦りの表情になり、
「捕縛髏よ!あの者達を止めよ!儀式を中断させるのだ!」
王のその言葉と同時に、辺りから、黒衣の捕縛髏達が現れ、ミルディアを抱きかかえている静咲に容赦なく襲い掛かる。
だが、それを、涼しげな表情でかわす静咲は、ミルディアに、言う。
「ミルディア。私と、添い遂げる覚悟はある?」
けれど、ミルディアは、
返事が出来かねていた。
[娘よ。頼む!息子を。静咲を、廃天仙にしないでくれ。]
私と、最後まで契約を交わしてしまったら・・・。駄目だよ。静咲が・・・苦しむなんて。静咲が永遠に痛みを味わうなんて・・・。
「出来ないよ。だって、静咲が幸せになれないなら。こんな契約出来な「誰が幸せになれないと?」
静咲は、更に攻撃をよけながら、その顔はまっすぐ前を見つめていた。
「誰が、苦しむだって?永遠に痛みを味わうから何?」
え?今私が思って居た事を何で?
「私は、そなたと、結ばれない方が苦しい。
そなたと幸せになれないなら、この契約を反故にして廃天仙になった方がましだ。
国土の一部になり痛みを味わう等、怖くない。」
そう言うと、ふと、その群青色の瞳が此方を向き、静咲は、薄く微笑むと。
「そなたこそが幸せで、そなたこそが楽しみであり、喜びなんだよ。
そなたこそが、壊れて欲しくない愛であり、
そなたこそが、宝。そなたこそが結びたい縁、そして、私の出した〝欲しい″であり、〝瞳に映したい″答え。それを失ったなら、永遠に約束された命何て要らない。それよりも、そなたと共に歩める短命の幸を選ぼう。」
[ならばお前は何が欲しいんだ。
何を映せばその、まったくもって生きてもいない。詰まらない瞳が生きた瞳に変わる?]
静咲の記憶の中からギルラスの言葉が流れ込んでくる。
更に静咲はミルディアの耳に囁く
「そなたとならどんな痛みでも私は受けよう。どんな苦しみでも、受けよう。そして君が死ぬ時が来たならば・・・・。私は喜んで君を追いかけ黒海へと身を投じよう。そして、死と運命を司る神デイガーディアンにこの身とこの魂を捧げよう。
けれどね、ミルディア。私は、デイガーディアンに合ったならこう願うつもりなのだよ。」
そう言うと、耳から離れ、再び微笑みながらミルディアに言う。
「偉大なる神よ。どうか私と私の愛しき人に永遠をと。それが叶わぬならば、共に、眠る事の出来る安息の牢獄をお譲り下さいと。」
ミルディアは、静咲の気持ちをこれ以上ない位に、理解すると、その答えに応じるかのように、静咲の首に腕を回し、その耳元に囁く。
「私が、貴方に答える言葉はたった一言だけ。」
ミルディアが、そう言うと、静咲も、ミルディアの耳元で囁く様に言う。
「聞かせて。」
「静咲=サンザーラ。貴方を愛して居ます。」
そう一言だけ言うと、静咲は満足気な表情を浮かべた。
「誰か!誰かあの者達を止めよ!
娘を消す事よりも、儀式を止める事を考えよ!」
王、静朔慈の怒り交じりの命令は、
捕縛髏達の攻撃の素早さに拍車をかけた。
静咲は、その攻撃を懸命によけながら、ミルディアに言った。
「ゆっくり座って儀式をやりたい所だけどっ!そんな悠長にはやらせてくれない様だから
攻撃を交わしながらするよ!私の後に続いて言葉を。」
静咲はそう言うと、なんだか静咲の心や頭の中の考えが、私の中に流れ込んでくる様な気がした。
それは、先程の王が私に触れた時の物とは
比べ物にならない程に近くに感じられ今近くに居るけれど、心や頭も同じ様に近くに居る。そう感じた。
【我ガ血タルハ水ノ母】
静咲の言葉が脳裏に木霊する。
まるで自分と更に繋がって行く様に。
「我ガ血タルハ水ノ母」
ミルディアは静咲の言葉を真似する。
【我ガ肉タルハ樹ノ父】
そしてその後も同じ様に続けて言って行く。
【今誓イ合ウハ汝ラノ命】
すると、次第にその言葉は重なって行き。
【今誓イ合ウハ輪廻転生ノ果テ】
【現世、来世ニ至ルマデ】
「何をしておる‼早く辞めさせよ‼」
王の言葉に捕縛髏達は更に波の如く押し寄せ、次第に、幾ら力の強い静咲でも相手を傷つけずにしかも、ミルディアを抱えたままで誓を立てながら、それをする事には、限界があった。
【神サンザーラト死ト運命ヲ司ル神ニ】
やがて、後ろをとられかけるも・・・。
「殿下・・・何故。」
悲鳴を上げたのは捕縛髏の方で。
「悪いねぇ。何方かと言うと今回は父上寄りの立場でも、母上寄りの立場ではない者で。」
捕縛髏を攻撃したのはギルラスだった。
「ギルラス!お前までも、私に逆らうと言うのか‼」
「無理ですよ。」
ギルラスはそう言うなり、赤く鋭い爪先に地獄と言う場所があるならば、其処に咲いて居そうな赤く花弁は放射状の形の華を作り出し、向かって来る、捕縛髏達にそれを向けるなり、捕縛髏達はどんどんと消え去って行く。
「あらあらあら、ギルラス?お父様に逆らうなんて。どういう風の吹きまわしかしら?
ギルラス。あのお嬢さんに愛情を抱いて良いとは言ったけれど・・・。この件に関しては手出しはしてはならない。そう言った筈よ?どうして、貴方はこのお嬢さんの事になると、そうなのかしら?」
先程まで、目を瞑って居た王妃は起き上がるなり、ゆっくりとギルラスに近づく。
その言葉に、ギルラスは少し、動揺を示すが
やがて、王と、王妃に不敵な笑みを浮かべ、先ほどの、自分が王と王妃達に伝えたかった言葉を続ける。
「お二人には、あの二人の儀式を止める事は無理ですよ。だって・・・。静咲は・・・。
静咲は確かに今まで父上の言いなりで生きてきました。それこそ、何千年もずっと、ね。だからこそ・・・。」
ギルラスが王と王妃にその言葉を言って居るのとほぼ同時に、
【我ラノ愛ノ絆ヲ乞ワン】
儀式の最後の言葉で静咲とミルディアは光に包まれる。
「静咲、首から肩にかけて、なんだか痛い。」
ミルディアは光に包まれながら、静咲に、言う。
「ミルディア。そうか。多分、求愛の儀式を行ったと言う、証である、私達二人の文様が刻み込まれて行って居るからだ。
樹天仙にとっては一生消えない模様だが、君にとっては、一生消えない傷だから、きっと痛い筈だ。すまない。」
静咲は、そういうと、血が滲んでいるそこを優しく撫でる。
「大丈夫だから。」
ミルディアは、少しだけ、痛みで顔を歪めるも、静咲に笑顔を見せる。
一方ギルラスは王と王妃にこう告げていた。
「静咲は、一度こうと決めたならば。例え父上に反抗してでもやるでしょう。だって。あの静咲ですよ?菩提樹ノ君と言われ、何にも勝る稀有な存在。そして、私と違って融通が利かない。貴方もよく、知って居る筈だ。そう言う女性を静咲は、貴方の子である前にあの・・・。」
ギルラスは言葉をためた後重い口を開きその名を口にする。
「白純桜、純潔の王女、咲=静の息子ですよ?」
ギルラスが、王である静朔慈とその王妃アイラス=イリーナ=サンザーラに苦笑しながら言う。その言葉に、王妃の冷淡だった表情は微かに歪む。
やがて、ミルディアと静咲は大きな光に包まれる中で、ギルラスは更に続ける。
「更に、私達は樹天仙。一度情を抱いた、女性を手放す訳がないし、増して殺したなんて事を知ったら、静咲の契約は無効にできたとしても、きっと静咲は、一生許しはしなかったでしょう。例え記憶を失おうと、自分の力で取り戻したはずだ。そして、貴方を恨み、私達一族を恨み、それこそ、第二の白純桜を作りかねない。それに、無効にする方法なら静咲も知って居て、あの冷血非道で貴方の命令以外は自分勝手に行動してきた奴が、貴方に命令されても、自分の為でも、彼女を殺さなかった時点で我々の負けですよ。父上。」
「っ・・・・・今日は引いてやろう。
だがな、我が子、ギルラスよ。良いか、私は決して!決してだ!認めたりなどせん!」
認めない事を強調し、その場を後にする王に対し、ため息を吐くギルラスは、再び苦笑すると、光が柔くなっていく方を見つめる。
光がゆっくりと消えて行くのと同時に、
ミルディアの首元と静咲の首元に同じ模様が浮かび上がる。
「静咲、首元から肩に・・・模様が・・・これって良い傾向なの?
それとも・・・「絆が最終段階まで行くとその男女特有の同じ模様が同じ場所に浮かぶんだ。樹天仙によって浮かぶ模様も場所も異なるから、この模様は私とミルディアのサンザーラから与えられた証だよ。
二人のどちらかが危険になったり何か起きたら、その居場所が解ったり、その危険度で色が変わったりする。」
「それって。」
「私達は。認められたんだ。神サンザーラと
死と運命を司る神デイガーディアンに。」
「っ・・・」
ミルディアの両の瞳から大きな涙が浮かびそれが頬を伝うと宝玉が出来る。
宝玉は、友情の宝玉とは違い、まるで、中で虹色の光り輝く水が揺ら揺らと揺れ動いて居る様だった。そして、涙の痕が、三十五色以上に輝く楔になる。
更に、その涙は、いつもの様に、何個も生成されず、たった二つだけ生成されると、それを、受け止める静咲の手の平にぽとぽとと二つ落ちた。
「・・・これは・・・まさか。」
静咲が驚きミルディアを見るのと同時に、
ミルディアはそれをとると静咲の首に掛け耳元で囁く。
「貴方の為の、私からの愛の誓です。」
「そうか・・・・これが・・・。
書物にあった、ミルディアの宝玉の、愛の証。」
静咲は、それを愛しく思いながら見つめる。
「本当に、相手を愛した時にその愛が深い程その楔の色は輝きを増すと言うけれど。
この楔はもう、そなたの愛がどれ程深いか聞かなくてもわかるね。」
静咲は、残ったもう一つの愛の宝玉を見るディアの首にかける。
「お二人さん。いい雰囲気の所悪いんだけどさ。もうそろそろ、部屋に戻ってくれる?父上も、もう居ない事だし。」
「部屋って・・・。どっちの部屋に?「何言ってるんだよ。君達もう夫婦なんだから宮殿の静咲の部屋に決まってるよ。
父上は反対してるけど、神が認めちゃったんだもん。取り合えずは今までの様においそれと、処刑されないでしょう。君を処刑してしまうと、静咲の命も危うくなるからね。」
「でっでも。」
顔を真っ赤にしながら、俯くミルディア。
「私、いっ。良い、良い、良い、良い、良い。私はルーティと一緒に、元の城下町の宿で。」
首をぶんぶん振りながらかたくなに拒むミルディアを見てギルラスは苦笑する。
「あのね。君解かってない様だから言うんだけど、この国の、しかも超絶高貴な身分の樹天仙を夫にしておいて、その日のうちに別の男と一緒に寝るとか・・・ないでしょう。」
「いや・・・ルーティは男と言うか・・・無害だし、と言うか、・・・今までも旅してたわけだから一緒に寝てたと言うか。」
「とぉりぃあぁえぇずぅ‼はい‼行った、行った!ルーティもちゃんと、客室へ、移しておくから。」
「ちょっえ‼」
あれよ、あれよ、と言う間に、王宮の静咲の部屋まで来てしまった。
ちょっと・・・どうするのよ。
ゆっくりと扉を閉じる静咲を横目で見るがいたって何の反応も無い。
やっぱり私よりも早く生まれているせいなのか落ち着いて居る?のかな?
「ミルディア。」
「きゃ‼」
「っ・・・くくくくく、
そんなに・・・くくく。
私は、何もして居ないぞ。」
静咲が急にお腹を抱えて笑い出す。
「ちょっと。」
「っ。クスクス。何されると思ってるの?」
「えっと・・・。その。逆に樹天仙って・・・。何するの。」
「それは・・・夫婦になった男と女が、
二人きりなんて、・・・やる事は一つだけだと思うけどな。」
「え?・・・あ・・・あの・・・。それは、えっと、心の準備ってものが。「準備なんていらないでしょう?」
「痛い。」
「そう。じゃぁここは?」
「そこも・・・・。」
静咲は私をベッドの端に座らせるなり、あの、静咲と同じ、刻印が刻まれた、首から肩の傷の手当てをしてくれた。手当と言っても、治る物では無いので、血を止める応急処置と、後は、そこを、只管、撫でている。
「全ての儀式を終えた樹天仙達は必ずお互いの身体を労わるんだ。」
静咲はそう言いながら、ミルディアの傷にゆっくりと白い布を巻いていく。
「一生残らない傷だから・・・。どれ程痛かった事か。」
けれど、何処か幸せそうな顔をしながらミルディアを見つめる静咲。
「静咲幸せそうだね。」
「当たり前だ。こんな幸せが私に訪れるなんて。誓って言うけれど、サンザーラが目覚めて来そうな程予想外な出来事だ。」
そう言いながら、静咲は、広いテラスへと足を向ける。
「ミルディア。おいで。」
誘われるがまま、静咲が居るテラスへと行くと、差し伸べられた手に手を絡める。
その手は、やはり、冷たいけれど、ミルディアにとっては、心の底から暖かく感じられた。それは、幸せだからなのか、静咲を愛しいと思えるからなのか、解らなかったけれど、絡められている指の一本一本から、あの、静咲特有の水音の様な鼓動が伝わってくる気がして、その鼓動と自分の鼓動がまるで、重なって居る様なそんな錯覚さえ感じられた。
テラスからは、あの森の中の家よりも更に樹ノ国が一望出来た。
「やっぱり、この国は緑が豊かで、全ての植物に命が合って、息がある。風がそれを伝えてくる。水の音が教えてくれる。それに、今は、私、静咲さんの生きている音も聞こえて来る。」
ミルディアはそう言いながら静咲を見ると
静咲はすでに、ミルディアを見つめていた様で、図らずも、二人は見つめ合い、何も話さないせいか、妙に、樹ノ国の河の潺の音や、風の音、それにより、掠れる草木の囁きが目立って聞こえた。
「ミルディア。そなたに、伝えなければならない事がある。」
今まで、見つめ合って居たその表情は優しかったけれど。
急に険しい表情へと変わる。
「静咲?」
絡めていた手も、力一杯握られ、静咲の手は少し震えていた。
「・・・これを聞いても、動揺して私の傍から、直ぐに去ったりしないと。」
静咲は手に持って居る小さな金の棒を握りしめながら。
ミルディアの身長まで自らの身長を、合せ顔を、覗き込むが、まだ、その次を言いかねていた。
「どうしたの?急に。
静咲何時もよりも何だか雰囲気が違うよ。」
ミルディアは、静咲のその表情に既に動揺を隠しきれずに居た。
不安そうなミルディアに、こんな顔のままにしておけないと思い、静咲は、いったん目を瞑り再び開くと、その重い口を開いた。
「・・・君の友の行方が分かったんだ。」
その静咲の言葉がミルディアの、脳裏に響く。
「君の友、トラッドネス=ガイアは・・・。」
静咲は、言葉を溜めると、その重く閉じられた口を再び開き、続ける。
「金ノ国に居る。」
「ぇ。」
―――――― ミルディアの涙-友の行方-END




