episode12.国王と息子
『私・・・如何したの?』
金ノ国の刺客の肩に担ぎ上げられ、身動きが取れずにいるミルディアの頭は気絶させられた衝撃でぼうっとしていた。
『あっそうだ。私仮面を被せられて、気絶させられたんだ。え?殺されたのかな?でも、じゃぁここは、デイガーディアンが住まう場所?』
「長。静咲皇太子殿下は、彼女を殺すなと。」
黒を身に纏った捕縛髏は、国に侵入した金ノ刺客を抹殺するのと同時にある命を受けていた。
「確かにそうだな。だが、我々は、王の物だ。」
長と呼ばれる者は、後ろに控えていた、捕縛髏に答える。
「ですが・・・。菩提樹ノ君も・・・。」
「・・・。お前は何か勘違いをして居ないか?」
夕日の様なその瞳をした、長と呼ばれる男性樹天仙は、更に言う。
「我らが受けている命は。〝娘を連れて来い〟だ。」
それを言うなり、長と呼ばれた者が手を金ノ国の刺客に振り翳すと、それを合図に、控えていた、全ての捕縛髏が、金ノ国の刺客達に襲い掛かって行った。
ミルディアは、急に、どさっと、体が投げ出され、当たり一面うめき声が聞こえる。
『助かった・・・のかな?』
でも、この仮面で辺りが見えないし、何で助かったのかも解らない。助かったのではなく、もしかすれば、単に休憩の為に降ろしただけなのかもしれない。
何方にしても、仮面は息が出来る所がそれこそ、鼻の穴位しかなく、それも小さなもので、息苦しく、十分な呼吸は出来ないでいた。
その為に、再び、意識が遠のいていくのはそう時間がかからなかった。
パシャンと、言う水音と共に、冷たい感覚が体中に走り、一気に目が覚める。
どうやら水をかけられた様だ。
「はぁ。はぁはぁ。」
仮面は外され、やっと真面に呼吸が出来たと思うと、思いきり酸素を吸い上げる、ミルディア。
「王よ。罪人が目を覚ましました。」
罪人?
その言葉に身に覚えがないまま、ゆっくりと虚ろな表情のまま重い体を起こす。
辺りを見渡すと、天井は吹き抜けて居たが、どこか大きな建物の中に居る様で、叫びをあげたまま固まって居る銅像や、赤黒い染みが、たっぷりと付いた絵が金色の蔦の額縁で沢山飾ってあった。地面も、よく見ると、所々に、顔が埋まっており、本物にしろ、偽物にしろ、到底綺麗と呼べる物でもなく、触って居たいと、思う床でもない為に、ミルディアは、手をどけ、別の所に手を付こうとするが、そこにはまた、別の歪み切った顔がある。
ミルディアは、思わず声にならない叫びをあげ、下げていた頭を、上げる。
「何を勝手に首を上げている‼首を垂れろ!王の前だ!この罪人め!」
隣に立って居た、夕日の様な瞳をした捕縛髏の樹天仙の男が激しく怒ると、ミルディアのその白い髪をつかみ無理やり地面に押し付ける。
それは、地面にある、顔に押し付けられていると言う事で、ミルディアは、ますます恐怖で、最早声が出ず、涙がこぼれ、それは、友情の宝玉となり、ボトボトと地面に埋もれている顔の上に落ち、その宝玉の一部は、埋もれた顔の口の中に入る物も少なくはなかった。
「っ‼」
怖い。私も、この地面に埋もれた顔の様に苦痛に歪む、顔にされるのだろうか?
それに、この状況。全然読めない。一体私は、何故こんな事に?いつから私は罪人になったんだろうか。
そうだ。静咲さんは?何処に?
「静咲なら来んよ。罪人よ。どの様に我が息子を惑わしたかは知らぬが。
何方にしても、間違いがあって、お前を処刑する程私は無慈悲ではなし。
お前をこのまま処刑してしまえば、神サンザーラの意に反する行為だ。
お前が、本当に罪人であるか、私は確かめたいのだ。
罪人よ。静咲とは、求愛の儀式・・・執り行ったというのは・・・。」
しばらく言葉をため、その木の蔦で出来た玉座にしっかりと腰を据えながら、やがて、重い口を開く
「本当か?」
王は全て知って居る。
だって、私が初めてここへ来た時、王は私を殺そうとした。
少なくとも、何か理由がなければ、そんな事をする程、私に価値があるとは思えない。
一階の旅人に等しい私に、一国の王が態々あんな軍隊を寄越し、後始末をさせる理由が何か存在している筈。
ミルディアは、無い頭で必死でそう考えていた。けれどミルディアは何故か、儀式を行っていないと否定が出来ず、
否定をしたら、静咲を傷つけてしまうような気がしてならなかった。
かといって、肯定しても、静咲の立場を悪くするようで、ここは無言を通そうと決めた。
「沈黙こそが答え。か。」
王は不敵に微笑むと、自らの玉座の右側に立って居る、紫の色の衣を来た別の樹天仙に問う。
「前籐仙どう思う?」
前籐仙と呼ばれた者は、正確には同じ色を来た者達は5人おり、それは綺麗に一列に並んで此方に、向かって左側に立って居た。
「我が君、樹ノ国の王に申し上げます。
この者は、求愛の鳥籠の儀式を種を超えた、しかも、我国の中でも最も稀有な存在の、菩提樹ノ君と交わした事は、事実。ここは極刑に処すのが妥当かと。」
そう言いながら、紫の服を身に纏った樹天仙は王に頭を下げる。
王は、更に、同じように、待機し、並んでその先頭に、立って居る残り四人に同じ問を投げかける。
だが、中には二組ほど、ミルディアを庇う様な発言をする者も居たが、大半がミルディアを処刑するべきだと王に進言して居た。
「この国の5つの脳核と言われる者達が出した意見を元に、罪人に問おう。
そなたは、我が息子であり、この国の稀有な存在、菩提樹ノ君と求愛の儀式を執り行った訳だが、一体どの段階までを、行ったのか?」
答えなければ、私は殺されるかもしれない。
ミルディアは、解って居た。
けれど、一方で思う事は。
それでもない、とても重要な儀式をやった事で、王の反感をここまで買ってしまった。
と言う事は、これ以上何か、私が一つ発言する度に、静咲さんが、それ以上に迷惑を被るのではないだろうか。
私のたった一つの発言で、静咲さんが、傷つくのでは?
ミルディアは、そう思えば思うほどに、その口は、どんどんと重くなって行った。
すると、王は、手を軽く上げる。
それと同時に、あの、夕日の様な瞳を持った捕縛髏は手を軽く払う仕草をすると、黒い蔦の様な物がミルディアの身体全体を吹き飛ばし、ミルディアは、まるで、塵が風で吹き飛んで行く様に部屋の隅まで飛んでいく。
「っク。」
そして、吐血し、一瞬息が出来なくなり、腹を抑え、蹲る。
これは・・・・尋常じゃない力だ。
人に殴られたというよりは、何か大きな獣にでも、思い切り、体当たりされたような感じだ。
ミルディアが、痛みをこらえながら、蹲っている中で、捕縛髏が次の攻撃をしようと、手を翳したが、それを、王は手で制し、ミルディアに言う。
「ネクラナ民、宝玉を流すしか能のない、アナグラ族よ。これでもこちらは手加減をしてやっているのだ。
正直に答えよ。静咲は貴様にどこまでの段階の求愛の儀式を執り行った?」
「っ。ク・・・。」
「ほう。アナグラ族よ、宝玉を流すしか価値を見出せぬ、誇り無き民が。この国唯一の稀有な存在、菩提樹ノ君を、穢したと言うに、その罪すら、自覚がないと?
それだけでも、罪なのに、高貴なる血である、私の問いに答えぬとは。
貴様が生き延びる事が出来る機会と慈悲を、それでも与えてやったと言うに。」
王は薄く微笑むと、涙をぼとぼとと流す、ミルディアに対し、更に言う。
「良いだろう。何も言わぬのなら、無言のまま罪人は罪人らしく。
惨たらしく死んでいくがいい。」
そう言うと、先ほどミルディアを攻撃した樹天仙の男に無言で軽く手を挙げる。
それと同時に男は、一瞬で蹲って居たミルディアに、
間合いを詰め、手を鋭い木の棘に変えると、それをミルディアの首に向けて振り下ろす。
しかし。
間一髪のところで何者かがミルディアを抱きかかえそれをよける。
その人物は、ミルディアの行方を探して居た静咲だった。




