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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第7ステージ:氷原
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ワーニング -3-


 一時はかなりいい雰囲気のパーティになっていたのに、いつの間にか、また雲行きがあやしくなってきている。ショウは頭を悩ませつつ、さりげなくメンバーの様子を観察した。

 ユーリは元からチームワークを重んじるタイプではなかったが、それにしても、このところの警戒するような態度はなんだろう。しかもどうやら警戒対象は自分だ。幸い戦闘に関して協力してくれる気はあるようだから、今はあれこれ聞いたりはせず動向に注意しておくことにする。

 このところアルがやけにおとなしいのと、前に増してダンテの機嫌が悪そうなのは、ユーリの傍若無人さと反りが合わないから。これはまだ把握の範囲内だから大丈夫。

 問題は――アヤノだ。

「……なに?」

 目が合った。途端にアヤノの方からぱっと顔を背ける。アイテムを物色するそぶりを見せながらごまかすように尋ねてくるので、あえて聞き返す。

「そっちこそ。何か用があるんじゃないの」

「わたしは、別に」

 そう言いつつもこちらの様子を窺っている気配がする。ユーリと同じ警戒の色を滲ませて。第6ステージ“オラクル”帰還時に一度姿を消してからずっとなので、これはさすがに引っかかる。

「そう? ならいいけど」

「……」

「ところで買うものは決まった?」

 ひとまず話題を逸らせばあからさまにほっとした空気が流れる。表情はあまり変わらないのにこうもわかりやすいのだから面白い。本人に自覚があるのかはわからないが。

「こっちも入れておいた方がいいんじゃない」

「高い」

「今ならすぐ稼げるよ」

「……。そうかな」

 勧めた生命力回復アイテムが購入リストに追加された。こういうところはまだ信用してくれているらしい。そうなると、こちらの何が気にいらないのだろうか。

 聞けば教えてくれるようなことならいいが、この様子では素直に教えてくれない可能性が高そうだ。下手に尋ねてますます警戒されるのも困る。

 これも、保留か。

「おーいショウ、アヤ! そろそろいいかー?」

 先に買い物を済ませていたアルが入り口で呼んでいる。そこへゲーム内キャラの店員が『いいものあれこれ、置いてるからな! また来いよ!』と決まり文句をかぶせてきた。

「ユーリは?」

「奥で何か見てた」

「奥? ……新しい召喚獣を取得するつもりかな?」

 店には召喚獣取得の端末も設置されている。ユーリの所持数は3体、今までそれらのランクアップに専念していたらしいから、そろそろ種類を増やしたくなっていてもいい頃だ。ちなみに召喚獣も敵を倒した際にドロップがある。というか、ないことはないという程度でごくまれだ。だから大概は能力値タレンドを消費して得ることになる。

「――あら、そっち終わったの?」

 白い衣装をみつけてのぞきこんだのと、ユーリがふり返ったのがほぼ同時だった。

「みんな終わってるよ。君は?」

「ちょっとねぇ。ピンとくるのがいなかったわ」

「『いなかった』ってことは、やっぱり」

 ユーリがちらりと見やった奥の画面には、召喚獣のひとつ、サソリの姿があった。

「最初のは仕方ないから能力のバランスが良さそうなのを選んだんだけどねぇ。もっとカッコイイのがほしいのよぉ」

 珍しく素直な――と思われる――ことをぶつぶつ言いながら口を尖らせるユーリに、ショウはもう少しで笑い声を立てそうになった。

「見栄えのいいのは高いからね」

「もうちょっとなんとかならないのぉ?」

「僕にはその辺の権限ないから。ごめんね」

「ま、しょうがないわね」

 しつこく食い下がることはせず、ユーリはすたすたと出口の方へ歩いていった。

 その背中を見ながら、ショウはふと思い返す。先ほどのユーリの話、それに対するアヤノとアルの話。

 実を言えば、もうひとつ、そこから推測できることがあった。あくまでも想像の域ではあるが。


 3人が失った部分の記憶。

 それぞれ家のこと、家以外のこと、自分の顔とばらばらなわけだが。


 それらはそのまま、彼らが『思い出したくなかったこと』なのではないか――?


「しょーなにぼーっとしてんだよしょー」

「アル。呼び方変」

「――はいはい。今行くよ」

 再度呼ばれて苦笑する。

 いずれはあれこれの謎が解明されるだろうか。もし何もわからなかったとしても、やることは変わらないのだが。


「絶対、守るから……今度こそ……」


「ショウ君何か言ったぁ?」

 1番近くにいたユーリが首をかしげた。「なんでもないよ」と返事して、ショウは胸にこみ上げた苦さをねじ伏せた。

「ダンテが来たら、第7ステージに移動だ。それまで各自休憩」

 にっこり笑って指示を伝える。

 今度こそ、今度こそと、何度も自分に言い聞かせながら。



 その『前』には考え及ばず、忘れたことに気づかないままで。




第7章1節 了

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