ダウト -1-
『ワープ!』
“はじまりの扉”から次のステージへ、飛ぶ。ショウも未経験というこのステージ以降は完全に未知の領域だ。アヤノは緊張半分、期待半分に、移動中閉じていた目をゆっくりと開いた。
途端に、視界は白く染まった。
「第7ステージは“氷原”。見てのとおり、雪と氷のステージだよ」
「おおおおおお雪だ雪だああああああ」
セーフティエリア内も見事な雪化粧だ。さっそくアルがはしゃいで駆けだした。アヤノはそこに立ったまま、空に手をかざしてみる。ひらひらと落ちた雪の結晶は、に触れるなりほろりと消えた。冷たくはなかった。
「よくできているな」
「この効果、担当がすごくこだわったみたいでね」
「ふふ。こういうの嫌いじゃないわぁ」
ユーリまで楽しげに目を細め、若干ほのぼのとした空気が漂う。が、ショウだけは顔色が冴えなかった。
「第7からは、急に敵が強くなってるはずなんだよね。今まで以上にレベル上げはしっかりやっていこう」
「そうか。時間がかかりそうだな」
ダンテがちらりと渋い表情を見せ、ショウが苦笑する。
「念のため言っておくけど、あまり背負い込みすぎないようにね」
「俺は最大限、俺にできることをするだけだ」
「それと無茶をすることとは違うからね?」
「わかっている」
「ほんとかな」
「……それより……」
ふとダンテが長身を折り、ショウの耳元に顔を近づけた。何か言ったようだがアヤノには聞こえず、ただ、ショウが驚いたようにダンテを見上げた。
「……うん。まあ一応」
「それならいい」
「そう言ってもらえると助かるよ」
なんの話だろうと思う暇もなくショウが町並みの向こうを指さす。
「まずは肩慣らしからだね。セーフティエリアの近くで1回戦闘してみよう」
「お、出るのか?」
気配を察したらしいアルが駆け戻ってくる。もう肩に銃を担いで、すぐにも撃てる体勢だ。まるで小型の猟犬がしっぽを振っているようだった。
「出るんだな!」
「うん。アイテムは足りてるよね?」
「ったりめーだろ!」
アルはそのまま自分が先頭に立って走っていった。ショウが慌てて後に続き、さらにダンテが、肩をすくめたユーリが追いかける。アヤノも最後についていった。
その間も目は自然とショウを追っていた。たぶんショウも気がついているだろう。とりあえず何も聞かれなかったけれど。
けれど、“ファントム”が言っていたことは気になって、
……それでも、ショウを疑うのは……
「アヤ!」
急に呼ばれてびくりとする。もうバトルフィールドが目の前だった。
さくさくと雪を踏む感触をやっと認識する。――集中、しなければ。
「っし! さっそくお出ましだぜ!」
わき出た黒い陽炎はふたつ。むくむくと膨れ、次々に遠吠えをした。
「へー、オオカミか!」
「あら大きい」
「これはまだ相手したことはないから、加減がよくわからないけど」
大剣を掲げたショウが笑いながら目を細めた。こういう時は、瞳の青色が深くなっているような気がする。
「とりあえず基本形でいってみようか。アヤとアルで先制、ダンテは防御、ユーリは僕とサポート! くれぐれも無理はしないように!」
『魔法:カタラクティス』
言い終える前にダンテが防御魔法を放った。さっそく突っ込んできた1体を水の壁が阻み、その壁を内から弾丸が貫いた。間髪入れずにアヤノが突っ込んでいく。2人の思いきりの良さといったら、時に冷や冷やさせられるほどだ。
「ほんと、アルはテンション高いなぁ。元々なのかな……?」
ショウは小さくつぶやいた。
それから敵への注意を切らないようにしつつ、さりげなくダンテの様子を窺った。
――掲示板を使うのなら、もう少し言葉をひねる方がいいだろう――
さっき耳打ちされたのはそんなことだった。
叔父とショウとの新しい連絡手段をもう見抜いていたとはさすがだ。油断ならない。現状メッセージ機能が使えないことはわかっているが、掲示板ならばショウ達でも閲覧できるようだ。それを用いるのは苦肉の策だった。何しろやりとりが他のプレイヤーの目にも触れるため、直接的な情報のやりとりができない。身内が知っているのならなおのこと、言葉選びには気をつけなければ。
「そっち行ったぞショウ!」
『魔法:スピサ!』
急な襲来にも慌てることなく、ショウは突進してくるオオカミに火球を放った。スピサは弱攻撃とはいえ強化してある。それなりに効くようで、これなら問題なさそうだ。
と、ユーリが間延びした調子で声を上げた。
「新手が出そうよぉ」
「3体目か……もう少しがんばれそう?」
当たり前だ、と向こうでアルが怒鳴った。と同時に、アヤノの一閃が1体目を屠った。
「やった」
「アヤに先越されたか……こりゃ負けらんねー!」
「元気ねぇ2人とも」
アルもアヤノもまだまだやる気と見受けられた。ショウは微笑して剣を握り直す。
ともかく今は援護だ。雑念を振り切り、ざくりと、強く雪を踏んだ。
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