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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第6ステージ:船舶
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オラクル Ver. ヘルメス -2-


 ようやく、戻ってくることができた。自分たちが進むべき道へと――

 という感傷に浸れればよかったのだろうが、コレを相手にそんな余裕があるはずもなかった。

「だあああもおおおお気色わりぃなあああああああ」

 耐えかねたように叫んだのはアルだった。平気と言っていたはずだが、犬ほど大きな黒光りが3匹も4匹もいてそれに囲まれればいい気分はしないだろう。とてもよくわかるというかアヤノにしてみればよくその程度で我慢できるなというところだ。

 自分は叫ぶ余裕もなく黙々と戦うだけ。精神的に余裕のあるショウとアルができるだけ引き受けてくれるのが救いだった。

「アヤ、ダンテ!」

「平気っ」

「問題ない」

 ショウが定期的に声をかけてくれるので、それには答える。気が散らないわけではないが、オーバーヒートしそうな頭を冷やすきっかけにもなった。

 また陽炎が湧いて出た。思わず目を細めながら確認すると、その姿はネズミの方だ。あれなら何も気にせず攻められる。そう思った次の瞬間、床の木目を強く踏んだ。

 矯めて、跳ぶ。下段から曲刀を振り上げる。

 ネズミの胴を払い、片足を軸に回転をかけて追撃する。

 と――

「うしろだアヤ!! キノコが!!」

 単語に身体が反応した。

 肩越しに黒い陽炎がちらりと見えるなり、即座にもう1本の剣を手元に呼び寄せ投擲した。ショウの投げナイフほどうまく飛ばないが、剣は顔を出したばかりのキノコの傘をえぐった。

 キノコ本体の生命力は低いらしく、大きくないダメージですぐに消える。しかし、消える前に少しでも胞子を出してしまったら、一定時間はこちらがダメージを受け続けることになるらしい。まだ実際に体験はしていないが、厄介そうだと想像はついた。

「ショウ! 片づけた!」

「オーケー。もう少しで神殿の入り口だよ!」

「!」

 ショウがさりげなく誘導してくれていたのだろう。無心で進むうちにもうこんなところまで来ていた。

「走って!」

 鋭い声を合図に5人は扉へ向けて走った。アルが最後尾につき、時折銃を撃って威嚇する。

 そうしている間に、ショウが素早く全員を見回した。

「アヤ、少しやられた?」

「かすり傷」

「ダンテ、魔力がだいぶ減ってるけど」

「回復アイテムがある」

「それなら大丈夫だね。僕も多めに持ってきたからなんとかなりそうだ」

 ショウはそこで言葉を切り、いたずらっぽく含み笑った。

「それともまた今度にする? そうしたらもう1度、ここを通って来ることになるけどね?」

「やだっ」

「それは!」

 見事にアヤノとダンテの声が重なった。ユーリの呆れ気味のため息と、アルが派手に噴きだしたのが聞こえ、それを遮ってショウが扉を指さした。

「それじゃあもう少しだけ、がんばろう! 前のステージで鍛えてきた分レベルは足りてるはずだから――」

 最後にほんの少し言い淀んだのは、ダンテが今も遅れをとっているからだろう。2人の間に微妙な空気が流れるのを感じた。どちらも、そんなことは一言も漏らさないが。

「行くのだろう」

「……そうだね」

「扉を開くぞ」

「わかった」

「おーいお前ら! 行くなら早くしてくれー!」

 アルが撃ち続けながら下がってきた。押し切られてはまずい。ダンテが勢いよく押し開けた扉の奥に揃って駆け込む。

 船の中というのに、扉の奥は他のステージと同じく大理石と石膏の広間だった。待ちかまえていたのは簡素な服装の男神だ。見た目には若そう、というかほとんど少年の域で、短い裾からすらりと伸びた脚がやけに目に付く。しかも素足にサンダルを履いている。なんというか、“神”らしくないような気もした。

「あれは知性の神ヘルメス。神々の伝令役でもあるから、ああいう動きやすい格好なんだけど」

「動きやすい」

 というより露出が高いだけではという一言を呑み込んだアヤノは、また“ヘルメス”に目を移した。その横からショウが前へ出る。


「ヘルメス、オラクルを!」


『試練を臨む者たちだね。それなら頼みたいことがある。

 僕のこの船に、勝手に棲みついたものがあってね。

 それを退治してくれたなら、君たちに報賞をあげよう』


 お決まりの宣言と共に扉が現れた。

 あの向こうにもアレがいる――というのは頭を振ってうち消した。しっかりとした足取りのショウを見て自分を落ち着かせながら、アヤノも“オラクル”の待つ扉へと歩いていった。




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