オラクル Ver. ヘルメス -1-
――君にはまだ届かない
――僕の声が 届かない
――どうしたらいいだろう
――どうしたら届くんだろう
――プレイヤー、ダンテ
――アヤノ、ユリウス
――君達となら……そろそろ会えるだろうか……?
* * * * *
「……どうした。何かあったのか」
こちらへ戻ってくるなり、ダンテは先ほどのショウと同じ事を言った。それくらいに嫌な空気なのはショウ自身も感じていた。
原因というか発端はわかっていて、どうしても意識が――視線がそちらへ向かう。
黒い眼は正確にそれを追い、すぐユーリに行き着いた。と思うや興味を失ったように戻っていく。ダンテの表情は「彼については諦めた」とでも言いたげだった。
「アヤノとアルの魔法はどうだ」
「なんとなく様になってきたってところかな」
「実戦に足る習熟度ではなさそうだな」
「でも、僕もうっかりしてたけど、どっちにしろまだ乱発はできなかったよね……まだランク上げてないしゲージも少ないし。ま、基本はいざというときの非常手段でいいと思うんだ。特に対モザイクの」
ダンテはしばしの沈黙の後、「そうだったな」とうなずいた。非難するように渋く眉根を寄せ、腕を組む。
「運営はまだあれの対策をとっていないのか」
「……出現頻度も低くて、なかなかサンプルが採れなかったんだ。それに、途中で僕がコレだし」
「ショウ」
「ごめん。僕にはこれ以上のことはなんとも言えない」
ショウは“困ったような”顔をして見せる。はぐらかしているのはすぐにわかったろう。しかし追求はそこまでだった。察してくれるのは本当に助かる。
その代わりというわけではないだろうが、ダンテは画面を開きながら手招きした。
「何かメッセージ?」
「そうだ。今回はだいぶ短いが。――これだ」
『ショウ。お前の様子は今のところ変わりない。最近はいろいろと噂が飛び交っているようだから、掲示板もまめにチェックしておくといい。 リョウジ』
ショウは叔父からのメッセージにさっと目を通した。それからもう1度、後半部分だけ目でなぞる。
――了解だよ。おじさん。
内心でつぶやいて、すぐアヤノ達に向き直る。
「新しい情報はないみたいだ。こっちはこっちでそろそろ進めていこうか」
瞬間、アヤノとダンテがそれぞれ目を泳がせた。気持ちはわかる。しかしいつまでも保留というわけにいかないのだ。
「第6ステージに戻るんだな!」
「うん。行けそうなら“オラクル”まで」
「……この上は、さっさと駆け抜けるのが逆に吉なのかもしれない」
ダンテが唸った。ショウは思わず笑って、ダンテとアヤノの肩を順にたたいた。
「大丈夫。なんとかなるよ」
「うん……」
「ああ……」
あいかわらず自信はなさそうな2人だが、目は前を向いている。この様子なら行けるはず。というか、そう信じるほかない。
ショウはセーフティエリアの方を、その中央にある“扉”を透かすように見据えた。つられたように他の視線もそちらへ向かう。ひとり、ユーリを除いて。
ふと灰色と目が合うと、妙にきつく睨み返されてしまった。
「なあに」
「いや?」
「そ」
「……ねえ、ユーリ」
どうにも様子がおかしいので、ショウは試しに尋ねてみる。
「次に自分の話をしてもらうのは誰がいいかと思ってたんだけど。君はどう?」
「別にいいわよ」
即答だった。それはいいんだと首を傾けたところで、ユーリは唇の端を上げた。
嘲笑、のように見えた。
「だけど大したことしゃべらないわよ? プライバシーはしっかり守らないといけないし、ねぇ?」
「うん。それはもちろん」
ユーリはそれきり口を閉じた。
そんな彼からは、まるで目の敵にされているような空気を感じる。――慣れた感覚だ。何があったかはまだわからないが、自分にとっては大きな問題ではない。
指示にさえ従ってくれるなら。無事に現実世界へ戻ってくれるなら、嫌われようと憎まれようと、どうでもいいことだった。
* * * * *




