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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第6ステージ:船舶
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マギア -2-


 迷路様のオレンジの壁をトカゲが素早く駆けた。それに向けて、アヤノは叫ぶ。


魔法マギア:スピサ!』


 火花が飛んだ。しかし長いしっぽをかすっただけでちょっとしたダメージしか与えられない。

 歯を噛みしめたアヤノのうしろで別の詠唱が聞こえた。


魔法マギア:アネモス』


 風が巻き起こりコウモリをはじき返す。ふり返って見やれば、アルははしゃいで目の上に手のひらをかざした。

「使ってみりゃーこれはこれでおもしれーな!」

「でしょ?」

「……当たらない」

 アヤノはむっつりとつぶやく。我ながら拗ね方があからさまだった。しかも優しく応えてもらえるとわかってのことだからタチが悪い。

 効果範囲の狭い魔法を選んだのは、自分だろうに。

「とにかく、ここを片づけるよ!」

 ショウの剣がトカゲを斬り払う。反射的に地面を蹴って、勢いのまま飛びかかる。壁から落ちたトカゲを両断する勢いで曲刀タルワールを振り下ろすと、その視界の隅で、ユーリの召喚獣が蜘蛛を始末した。

 息を吐いて目を移すと、ショウとアルがこつんと互いの拳を合わせてからこちらへ歩いてきた。

「アヤ」

「ん」

「焦らないで。まだ使い始めたばかりなんだから」

「……うん」

「僕も最初の頃はそんな感じだったし」

「え」

「お前が初心者の頃とか、想像つかねーな!」

 ぱちりと瞬いたところでアルが頓狂な声を上げた。それに対し、ショウは大仰に肩をすくめて見せる。

「新しいことを苦労しないでやれるような天才もいるだろうけど……僕はそんな大したプレイヤーじゃないから。それでも長くやってる分、『経験』ていう武器ならある。アドバイスくらいはできるつもりだよ」

 たのもしく言い切ったのと前後して、新しい敵が出現した。トカゲが2体だ。すぐさま4人とも戦闘態勢に入る。

「アル、ユーリ、1体たのむよ。――アヤ、もう1度魔法でいってみよう!」

 わかったとうなずいて曲刀の切っ先を前へ掲げる。何回かやってみた結果、とりあえずこうやって狙いを定める方が安定する、というところまでは学んだ。


「アヤ、すぐには撃たないで。敵の動きを予測するんだ」


 ショウの声に詠唱を寸前で止める。我慢、と自分に言い聞かせてトカゲを目で追う。

 本当は“照準ロック”という手順もあるらしい。けれどその発声の分だけ発動が遅れる、だから自分は使っていないとショウは言った。アヤノもそれができるようになりたい。思った以上に難しいみたいだけれど。

「今は僕が防御するから、そっちは気にしないで。よく見て……敵が移動する先は、速度は?」

 ショウのおかげで落ち着いてきた。信じて、防御は意識からはずす。

 視線と同じ方へ切っ先を移動させ、軽く息を吸って。


魔法マギア:スピサ!!』


 撃ったと同時にトカゲからも火球が飛んできた。が。


『スピサ!』


 ショウの魔法がぶつかり相殺された。さすがの精度だ。そしてアヤノの魔法も、今度はうまくトカゲの胴をかすめた。

「――おい! ユーリ!」

 ところが。突然アルの焦った声が響いた。

 気を取られた一瞬の間に駆けてきたトカゲを、とっさに斬り払う。返す刀で突き、ひたいを貫かれたトカゲが消える。しっかり確認してからふり返ると、アルも使い慣れた銃の方でもう1体に対処していた。

「……ユーリ?」

 ショウが一瞬眉をひそめ、すぐナイフを投げる。

 それを、ユーリは離れたところで眺めていた。壁に背中を預け、動く気などまるでないといった体で。

 敵の方はすぐ片づいた。そうしてショウが、ユーリに向き直る。

「何してるの」

「もう魔力少なかったからはずれさせてもらったわ。どうせこの辺のステージの敵はひとりでもやれるんでしょぉ?」

「おま、だからって、途中で抜けられたらっ……」

「なによ」

 灰色の眼にじろりと睨まれ、アルがぐっと黙る。そんな2人の間にショウが入った。その表情は怒りではなく、困ったようなものだった。

「どうしたのユーリ。何かあった?」

「別にぃ」

「何かあったとしたって、今みたいのは困るけどね?」

「結果的に倒せたじゃない。問題ないでしょ」

 なにか妙だった。急に非協力的な態度をとるユーリと、変に萎縮してしまっているアルと。本当にどうしたのだろう。何か特別なことがあったような記憶は、アヤノにはないのだが。

「ああはいはい、わかったわよ。第6ステージに戻ったらちゃんと手伝うわ。それでいいでしょ」

「話す気はないってことかな」

「何かあったかしら、話すことなんて」

「……まあ、無理に聞いても仕方ないか……」

 あきらめたようにショウが息を吐き、ユーリは唇を歪めた。

「そ。ありがと」

 その時アヤノは一番の違和感に気がついた。

 それは――視線。

 少し前まで、ユーリは経験値の高いショウをそれなりに立てていたはずだ。なのに、今、ショウに向けられるユーリの視線は、不仲なアルへ向けるそれよりも冷ややかなものだった。




 第6章3節 了

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