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THEOS KLEIS ‐テオス・クレイス‐  作者: 高砂イサミ
第6ステージ:船舶
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クラック -2-


 その後、フィールドの入り口付近で休み休み戦闘をくり返した結果、アヤノとダンテもどうにかG型とやり合えるようになってきた。

「アヤ、どう?」

「………………うん」

「そっか。もうちょっと慣らした方がよさそうだね」

 そうこうするうちにダンテが離脱する時間になった。それでなし崩しに休憩をとることになる。

 さっきと同じ舳先近くに陣取り、徐々に減っていくプレイヤーを眺めていると、不意にショウが口を開いた。

「自分の話、聞いてみてどうだった、アヤ?」

 ダンテがあちらへ戻る前、ショウの叔父からまた連絡が来た。内容は“新庄綺乃”に関すること。ちなみにどうやって調べたかは教えてくれなかった。

 内容としては、新庄家がそこそこの金持ちであること、“綺乃”がその一人娘であること。そして綺乃が『急病』の名目で入院しているらしいことだ。

「どう……かな。やっぱり、よくわからないかも」

「ご両親とお手伝いさんがいっしょに住んでるそうだけど、その人達のことも?」

「お手伝いさんとかいんのかよ……カンペキお嬢じゃねぇか……」

 アルの表情が微妙に引きつる。アヤノはふるふると首を振った。覚えていないという返答でもあり、そんな風に思われるのはいやだという意思表示でもあった。

「やっぱりダメか――」

「でも、ひとつだけある。覚えてること」

 ショウが残念そうに息を吐くので、急ぎつけ足した。ぱっと顔を上げたショウに自身をもってうなずいてみせる。

「たぶんだけど。鳥、飼ってた。黄色い鳥」

 だからアヤノは、自分の瞳をその色に合わせた。間違いない。黄色への思い入れをつきつめて考えたら、そんなイメージが固まったのだ。

 と、ショウの青眼が和んだ。――喜んでくれているのだろうか。

「名前は?」

「リート」

「そうやって覚えてるくらいだから、好きだったんだろうね」

 こくりとうなずく。ただそれも、好きだったことと黄色い羽根しか記憶にないのだけど。

「リートは『歌』って意味かな? それで黄色だったら、カナリアか何かだったのかも?」

「鳥かー。オレんとこはアパートだから動物って飼ったことねーな」

「……ふーん?」

 ふとユーリが鼻を鳴らした。馬鹿にしているというほどではないが表情は冷めている。

「家族のことよりペットが先なのねぇ? アヤちゃんちってそういう複雑なウチ? それとも、アヤちゃんがそういうヒトなの?」

「!」

 とっさに言い返せなかった。

 そうかもしれない、と思ってしまった。

 不安感がちくりと胸を刺す。自身のことも家族のことも思い出したくないような自分は、一体どんな人間だというのか。

 努力して思い出さなければならないような、

 そんな、価値のある人間なのだろうか――

「アヤ。アヤ、大丈夫?」

「おい! アヤ!」

 ショウとアルの声にはっとする。背筋の冷さに身を縮めると、ショウが肩をたたいてくれた。それで少し体温が戻ってきた。

「焦りすぎた、かな。ごめんね」

 眉尻を下げるショウに、アヤノは弱く首を振る。ショウがこちらを思ってやってくれていることはわかる。その期待に応えられないのが情けないだけだ。

 けれど同時に、ほんのちょっと、放っておいてほしいと思わないこともなかった。


 ……困ったな……


 ショウは内心でつぶやいた。

 決して忘れていたわけではない。が、甘く見ていたところはあるかもしれない。人によっては、現実での記憶を取り戻すことが苦痛になりかねないということを。

 自分にも――そんな心当たりはあったはずなのに。

 とにかく今のやり方を無理に進めるべきではなさそうだ。少なくともアヤノに対しては。このままだと、思い出させようとする働きかけが逆効果になりかねない。

 それは困る。アヤノを元の世界に帰せなくなってしまう。


「……アル。動物飼ったことないの」


 そこで助け船になったのはアヤノの問いかけだった。

 何か意図したのかどうかまでは、わからない。

「ん、ああ。飼えるんなら犬とか飼ってみてーんだけどな」

「犬」

「でけーのがいいな! カッコイイよな!」

「大型犬は知り合いが飼ってたけど、世話するの大変よぉ? 第一その体格じゃあ散歩するとき引きずられるわよ」

「うっ……うるせーな、いいだろ夢見るくらい!」

「ショウは?」

 アヤノの黄金色がこちらを見た。ショウは、ほっとしつつも若干複雑な気分で首を振った。

「僕も、ペットは特に。たぶんこれからも飼うことはないと思う」

「そうなの?」

 言い切ったからだろうか、アヤノが小さく首を傾けた。ショウは曖昧に微笑を返し、いつしか睨み合いを始めているアルとユーリの間に割って入った。




            * * * * *




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