クラック -2-
その後、フィールドの入り口付近で休み休み戦闘をくり返した結果、アヤノとダンテもどうにかG型とやり合えるようになってきた。
「アヤ、どう?」
「………………うん」
「そっか。もうちょっと慣らした方がよさそうだね」
そうこうするうちにダンテが離脱する時間になった。それでなし崩しに休憩をとることになる。
さっきと同じ舳先近くに陣取り、徐々に減っていくプレイヤーを眺めていると、不意にショウが口を開いた。
「自分の話、聞いてみてどうだった、アヤ?」
ダンテがあちらへ戻る前、ショウの叔父からまた連絡が来た。内容は“新庄綺乃”に関すること。ちなみにどうやって調べたかは教えてくれなかった。
内容としては、新庄家がそこそこの金持ちであること、“綺乃”がその一人娘であること。そして綺乃が『急病』の名目で入院しているらしいことだ。
「どう……かな。やっぱり、よくわからないかも」
「ご両親とお手伝いさんがいっしょに住んでるそうだけど、その人達のことも?」
「お手伝いさんとかいんのかよ……カンペキお嬢じゃねぇか……」
アルの表情が微妙に引きつる。アヤノはふるふると首を振った。覚えていないという返答でもあり、そんな風に思われるのはいやだという意思表示でもあった。
「やっぱりダメか――」
「でも、ひとつだけある。覚えてること」
ショウが残念そうに息を吐くので、急ぎつけ足した。ぱっと顔を上げたショウに自身をもってうなずいてみせる。
「たぶんだけど。鳥、飼ってた。黄色い鳥」
だからアヤノは、自分の瞳をその色に合わせた。間違いない。黄色への思い入れをつきつめて考えたら、そんなイメージが固まったのだ。
と、ショウの青眼が和んだ。――喜んでくれているのだろうか。
「名前は?」
「リート」
「そうやって覚えてるくらいだから、好きだったんだろうね」
こくりとうなずく。ただそれも、好きだったことと黄色い羽根しか記憶にないのだけど。
「リートは『歌』って意味かな? それで黄色だったら、カナリアか何かだったのかも?」
「鳥かー。オレんとこはアパートだから動物って飼ったことねーな」
「……ふーん?」
ふとユーリが鼻を鳴らした。馬鹿にしているというほどではないが表情は冷めている。
「家族のことよりペットが先なのねぇ? アヤちゃんちってそういう複雑な家? それとも、アヤちゃんがそういうヒトなの?」
「!」
とっさに言い返せなかった。
そうかもしれない、と思ってしまった。
不安感がちくりと胸を刺す。自身のことも家族のことも思い出したくないような自分は、一体どんな人間だというのか。
努力して思い出さなければならないような、
そんな、価値のある人間なのだろうか――
「アヤ。アヤ、大丈夫?」
「おい! アヤ!」
ショウとアルの声にはっとする。背筋の冷さに身を縮めると、ショウが肩をたたいてくれた。それで少し体温が戻ってきた。
「焦りすぎた、かな。ごめんね」
眉尻を下げるショウに、アヤノは弱く首を振る。ショウがこちらを思ってやってくれていることはわかる。その期待に応えられないのが情けないだけだ。
けれど同時に、ほんのちょっと、放っておいてほしいと思わないこともなかった。
……困ったな……
ショウは内心でつぶやいた。
決して忘れていたわけではない。が、甘く見ていたところはあるかもしれない。人によっては、現実での記憶を取り戻すことが苦痛になりかねないということを。
自分にも――そんな心当たりはあったはずなのに。
とにかく今のやり方を無理に進めるべきではなさそうだ。少なくともアヤノに対しては。このままだと、思い出させようとする働きかけが逆効果になりかねない。
それは困る。アヤノを元の世界に帰せなくなってしまう。
「……アル。動物飼ったことないの」
そこで助け船になったのはアヤノの問いかけだった。
何か意図したのかどうかまでは、わからない。
「ん、ああ。飼えるんなら犬とか飼ってみてーんだけどな」
「犬」
「でけーのがいいな! カッコイイよな!」
「大型犬は知り合いが飼ってたけど、世話するの大変よぉ? 第一その体格じゃあ散歩するとき引きずられるわよ」
「うっ……うるせーな、いいだろ夢見るくらい!」
「ショウは?」
アヤノの黄金色がこちらを見た。ショウは、ほっとしつつも若干複雑な気分で首を振った。
「僕も、ペットは特に。たぶんこれからも飼うことはないと思う」
「そうなの?」
言い切ったからだろうか、アヤノが小さく首を傾けた。ショウは曖昧に微笑を返し、いつしか睨み合いを始めているアルとユーリの間に割って入った。
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