オラクル Ver. アレース -2-
「念のため確認するよ。オラクルエリアに着くまではダンテの経験値獲得を優先。オラクルエリア内では、余計なことは考えないで、全員全力で当たること」
しばしの休息を取った後で、5人はさっそくセーフティエリアを出発した。
全員が初めて経験するオラクル、かと思いきや、割合あっさりとショウは続けた。
「僕も一応、第5ステージのオラクルまではクリアしてるけどね。油断せずにいこう」
「……。今なんと言った?」
ダンテが問い返し、ショウの腰に下がっている“鍵”を指さす。
第5ステージの“オラクル”をクリアしているなら、第6ステージを開くものも持っているはずだ。それなのに、鍵の数は5つしかない。
ショウは少しの間押し黙った。そうして、少し言いづらそうに口を開く。
「1度、やり直してるんだ」
「やり直し?」
「“テオス・クレイス”から、離れた時期があった。その時に、レベルもなにも全部リセットしちゃってたから、再開して、1からやり直し」
アヤノもまたショウの鍵に関する違和感はずっと持っていた。たぶん、アルとユーリも。それがこんなに簡単に解消するとは思わなかった。
「なるほど、ざっと今のレベルの倍くらいはやってるってことね。どうりで強いわけよねぇ」
「けどよ。せっかく第6ステージまで進んどいて中断したのって……」
「いろいろあったんだよ。あの時は」
アルがまだ先を聞きたそうだったが、ショウの方でひとつ肩をすくめて切り上げてしまった。
「行こう」
ショウがフィールドへと出ていく。アヤノ達もあわてて後を追いかけた。
待ってましたとばかりに湧いて出る敵を蹴散らしつつ、守護神の待つ神殿を目指す。途中何度か他のパーティと接触しそうになったが、申し合わせたとおり、相手側に手柄を譲る形をとった。最終目的までの道のりは長い。通常フィールドでなら余計な力を使わない方がいい。
『魔法:スピサ!』
正面に陣取っていたサソリをショウの炎が焼き払う。と、目の前に神殿への道が開いた。気負うこともなく奥へ進めば、出迎えたのは燃えるような赤髪の男神だった。
『貴様ら! オレの城に土足で踏み込むとは、ずいぶんと良い度胸だな!』
「!?」
ほとんど怒鳴りつけるような声が飛んで、アヤノは思わず首をすくめた。上目に見やった声の主はアテナと同じく鎧を纏い、長大な槍を軽々ともてあそんでいる。名は確か――“アレース”。
「同じ戦神でも、戦略的な戦女神のアテナとはちょっと違うよね。こっちは戦場の狂乱を表す側面が強いんだ。それで、こういう感じ」
ショウが苦笑混じりに解説を入れ、アレースに向かって「オラクルを」と宣言した。途端にアレースがぱっと喜色を浮かべる。これほど表情豊かな守護神は、ここまでで初めてだ。
『オレのオラクルに挑もうとは良い度胸だ!
そういうことなら行って来い! 今、オレの大事な庭を荒らしてやがる奴がいる!
うまいこと倒してきたなら、ちょっとした褒美をくれてやるぞ!』
「なんか暑苦しいっつーか……鬱陶しーな……」
「こればっかりはアルちゃんに同感だわ」
「顔はいいのに」
アヤノの率直な感想は、男性陣からあまり同意を得られなかったようだった。微妙な視線が集まったことにたじろいでいると、その間に、アレースの槍が光を放った。
赤い扉が現れる。皆もう慣れたものだ。揃って歩み寄り、扉に触れる。
飛ぶ。
「っしゃあー!! オラクルエリア!!」
アルが気合い充分に叫んだ横で、アヤノはぐるりと周囲を見渡した。
赤みがかった空の下、どこまでも広がる赤茶の大地に砂塵が舞う。その中ではすでに、黒い陽炎が揺れ始めていた。
アヤノは曲刀の柄をを握り、視界の端をちらりと確認する。
敵残数――50。
「だいぶ厳しくなってきたな」
ダンテの独白にショウがふり向いた。そうしてやわらかく微笑する。
「やれるよ。大丈夫」
はっきり言ってのけた直後、ハゲタカの鋭い鳴き声が響き渡った。




