アラート -1-
――気付いて
早く気付いて、アヤノ
今のままじゃ……あぶないよ……――
* * * * *
「……ねえ、アル」
セーフティエリアでのアイテム補充中に、ショウと別れたところを狙って、アヤノはアルの肩をつついた。
「あん?」
「さっき言ってたこと」
「さっきっていつだよ」
「ショウがわざと嫌われてるって」
「あーそれか」
「なんで」
「なんで?」
「そう思ったの。何か知ってるの」
「……んー」
アルは頭の後ろで両手を組んだ。今は不仲なユーリも近くにいないせいか、のんびりリラックスムードで空を見上げる。
「知ってるってか……前から思ってたことと、最近気付いたことがあって、だな」
「?」
「だって、まずおかしいだろうがよ。初心者指導とか普通にやりゃいいのに、なんだってわざわざ『あとは勝手にやれ』だの言わなきゃなんねんだ。ショウがその気ならもっとうまくやれるに決まってる」
それは確かに。アヤノはうなずいた。アルはしばし黙って思案顔をし、難しい顔で再び口を開く。
「けど、普通しねーじゃん、そんなこと、理由もなしに。なんでだろうってずっと思ってて、ちょっと前にピンときたことがあった……ような気がして」
「ような、気」
「頭じゃわかってんの! 説明すんのが苦手なんだよ!」
不機嫌に眉根が寄った。一生懸命考えているのはよくわかったので、アヤノはひとまず黙って待ってみる。
「なんてーか、ほら……“鍵”! ショウの鍵があれなんだよ!」
「……。ごめん」
「謝ってんじゃねーよっ」
自棄気味に、低く吐き捨ててから、アルははーっと長い息を吐いた。そうして顔を上げれば自分はすっきりしたような表情でいる。
「まーとにかくさ! オレはショウを信じる! もうこの先、誰がなんと言おうとだ!」
「前もそんなこと、言ってなかったっけ」
アヤノは微笑ましい気分で、もう1度うなずいた。
「わたしも。信じる」
と、なぜかアルが目を見開いた。アヤノも瞬いて赤い眼を見返す。
少しの間があってから、アルはにかっと笑った。
「だよな」
「ん」
「でもって、目標達成! 何が何でも13ステージを制覇する!」
「うんっ」
「あらぁなぁに? ふたりでイチャイチャしちゃってぇ」
不意に向こうから声が聞こえ、瞬間、アルの笑顔が固まった。
こちらへ歩いてくるユーリはにこにこして、やけに楽しげな様子だ。よからぬ意図があることはアヤノにも容易に想像できた。
「いっ、イチャイチャってなんだよ!」
「違うのぉ? まるっきりデート中みたいだったわよぉ?」
「ちっっげーよっ!!」
ユーリが意味ありげに含み笑ったところでショウも合流した。ショウはショウで――もしかして疲れているのか――言い争う2人を見ると、不思議そうに目を開いた。
「あれ。急にずいぶん仲が良くなったね?」
「おまどこ見てそれ言ってやがんだショウ――っ!!」
アルの叫びにショウは「ごめんごめん」と両手を上げて笑った。
――あれ……?
アヤノはふと違和感を覚える。
その場に立ったまま視線を落とし、いろいろと考えてみる。が、わからない。何も思い浮かばない。
なにか……どこかおかしいような気がしたのに。
考えようとしても、頭の中に、霧がかかったようで。
「まあ、それはひとまず置いといて。買い物終わった?」
ショウの声で我にかえる。こくりとうなずいた横でアルが軽くため息をついた。
「こんだけ金稼いでも、回復系そろえてっとすぐなくなっちまうよな」
「できたらもうそろそろ、アヤノに威力の高い防具がほしいね。防御にはまるで数値を振ってないから……」
「なによぉ。うじうじ言うくらいだったら手っ取り早い方法使っちゃえばいいじゃなぁい」
ユーリがくすくすと忍び笑った。
『手っ取り早い方法』が指すものはわかる。課金だ。お金を出せば“金”も買えた、と思う。確か。しかしショウをはじめ、このメンバーは課金に頼らない主義だ。
それに。
「ユーリも……してないのに」
思わず口にしていた。いつだったか、ユーリが『苦労して経験値を稼いで……』と言っていたような記憶があるからだ。それを聞いたユーリの目が一瞬大きくなったので、きっと間違いではないと思う。
「ああ。そうだったんだ、やっぱり」
「――私のことは、今どうでもいいでしょぉ」
「そう? じゃあそういうことにしておこうか」
「なあなあ! 金が多く獲れるようになる“紋章”ってなかったっけか?」
「あるけど、第9ステージだね。まだまだ先の話」
ちぇ、と口を尖らせるアルを横目に、アヤノは小さくうなずいた。
逆に考えれば、第9ステージに到達したときに獲れるということだ。それまでがんばればいいだけの話。どうせ途中で必ず通るのだ。
第13ステージ――幻のステージを『攻略』する、その通過点として。
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