ディスコード -4-
向こうのパーティの1人がこちらを見た。赤い巻き髪の少女戦士は、あっという表情の後に、安堵の色をのぞかせて手を上げる。
「すいません!」
「どうする?」
「犬を片方お願いします!」
返答よりも早くショウが放ったナイフは、続けざまにジャッカルのひたいを貫いた。その間に気を取り直したのか、小柄な術士の少年がキッとして杖を上げた。
『魔法:ティフォナス!』
巨大な竜巻が生じた。3体まとめて巻き込んで、中空に放り出す。ショウが狙った方の敵はすでにだいぶ削られていたらしく、地面に落ちると痙攣しながら消えた。
アヤノはちょっと首を傾ける。見たところけっこう強力な魔法だ。あれを最初から使えば良かったのに。
「ダンテ!」
サソリが尾を上げたところでショウがふり向いた。ダンテが数歩前へ出る。
『魔法:アンベロス』
蔓に絡め取られたサソリの前で、戦士の短髪少女がしりもちをつく。そこへ飛びかかろうとしたもう1体のジャッカルを、ショウが剣柄ではたき落とした。
「あーもー、見てらんねーなぁ」
横でアルが赤毛をかき回している。さらにその向こうでは、ユーリが退屈そうな半眼で口元を隠した。
「あんなの放っておけばいいのにねぇ」
「……ゲームオーバー、レベルふたつ落とされるんでしょ」
「経験不足のまま来たのは自己責任じゃないの。私達には関係ないわ」
少女戦士があわてふためきながら立ち上がり、倒れたジャッカルにおっかなびっくり向かっていく。
ユーリの言には同意できる部分もあった。ここはもう第5ステージで、これまでの戦闘の機会は少なくなかったはず。なのに4人が4人とも、戦い慣れているとはとても思えない動きなのだ。
「ショウ君の運営の立場だって同じくらい関係ないことでしょ。ちょっと他人を甘やかしすぎなんじゃないかしら。彼ら、ここまでは運良く上がってこられたのかもしれないけど、どのみちこの先で苦労することになるでしょ。ここで助けとく必要ってあったかしらねぇ」
アヤノはユーリから視線をはずした。ショウとダンテの手助けもあり、どうやらあとはサソリを残すのみのようだ。
そこでふと、思ったことがあった。それをそのまま口にする。
「助けてもらったら、嬉しいから?」
「……は?」
案の定ユーリが怪訝な声を上げた。これでは説明不足と思い再度口を開きかけ。
次の瞬間、ぞくりとする気配に剣を抜き放った。
半ばカンで刃を振り抜く。ギャ、と短く悲鳴を上げジャッカルが飛び離れた。改めて身構えた背後では、アルの銃がガチャリと鳴った。
「アヤ、後ろはサソリだ! 気ぃつけろ!」
「わかった」
サソリはまだ相手をしたことがない。しかし、どんなものかと様子を窺う余裕はなかった。まだジャッカルの攻略もできていないのだ。一方に集中しておいた方がいいだろう。
「!」
相手がぐっと身を沈めた。アヤノはとっさに跳んだ。逃げるのではなく、逆にジャッカルに向かって。
相手の速さは。次の動きは。
たぶん――このまままっすぐ走る。
正面へ向けた切っ先に、狙い通り、ジャッカルは自分から飛び込んできた。
「っく!」
予想以上の重さに奥歯を噛んだものの。クリティカルが出た。口の中に刃を呑んだまま、黒い体は霧散した。
アル達の方はとふり返れば、隙のない連続攻撃でほどなく撃退した。それを見て、ふっと息を吐き剣を下ろしたところで、ショウとダンテが小走りにこちらへ来るのが見えた。
「3人とも、大丈夫だった?」
そう言いつつショウは安堵したように微笑するショウは、こちらが危なければ助けにきてくれたはずだ。きっと。
「平気」
「こっちも問題ねーぜ」
「――すいません! 助けていただいてありがとうございました!」
例の4人組からも、1人がこちらへ向かってきていた。最初に助けを求めてきた戦士の少女だ。ばつが悪そうな、しかしどことなく嬉しそうな表情でショウに歩み寄る。
ただ、彼女の仲間達は複雑そうな表情でこちらの様子を遠巻きに見ていた。
「邪魔じゃなかった?」
「邪魔なんて、そんな」
可愛らしい巻き髪と共に勢いよく首を振ったあと、彼女は上目がちにまだ何か言い足そうにした。しかしショウはあっさりと遮り、向こうを指さした。
「待ってるみたいだよ。早く行った方がいいんじゃない」
「あ、……は、はい」
「あとね。進むのが難しそうだと思ったら、一度前のステージに戻って経験を積んでくるのもひとつの道だよ。これはちょっと余計なお世話かもしれないけど」
「! はい! ご指導ありがとうございました!」
少女の顔にぱあっと笑顔が広がった。深く頭を下げ仲間達の元へ駆けて戻っていく、その様子をショウはじっと見送っていた。
「知り合いだった?」
尋ねると、青い眼が一瞬遠くなる。
「まあ。初心者の頃にちょっと」
「話したそうだった」
「……わかってる」
つぶやくなりきびすを返した。そうして背にした彼女の方は、メンバーに何事か言い募られて困ったようにしていた。
「残念ながら僕は嫌われ者だからね。今のメンバーとやっていくなら、僕とは切れてることにしておいた方がいい」
ショウはふり返りもせず歩き出した。アヤノ達も、それぞればらばらとそれに続く。
そうして不意に、アルが口を開いた。
「お前さ。わざと嫌われるようにしてね?」
「どうして? わざとなんて、そんなに器用じゃないよ」
即答で笑い飛ばされ、アルは顔をしかめてそのまま黙ってしまう。――しかし。
わざと……?
その問いかけはアヤノの中で引っかかった。その場で聞き返せなかったこともあり、いっそトゲが刺さったように、消えずに残った。
第5章1節 了




