オラクル Ver. アルテミス -3-
無事にフィールドを抜け神殿へ。
今度も女神だ。膝より短い丈の動きやすそうな服装で、手には弓、背には矢筒。淡い金髪をきっちり結い上げ、銀色の眼をこちらへ向ける。ショウがアヤノに耳打ちした。
「守護神アルテミス。月と狩猟のシンボルで、次のステージの守護神……アポロンの妹だ」
『――試練を望む者達ですね。
では、わたしの庭へ行きなさい。ならず者の狼藉に頭を痛めていたところです。
わたしの憂いを除いてくれたなら、あなた方に報賞を授けましょう』
よく通る澄んだ声が告げ、指さした先にまっ白な扉が現れる。5人そろって“それ”に歩み寄り、ショウの合図で一斉に飛んだ。
光をくぐってオラクルエリアに出れば、曇ったような白い空の下により深い緑が広がっていた。うっかり道を間違えたら――システム上、道を踏み外すことはないのだろうが――迷って二度と出られないのではと思えるほどだ。
「多少手ごわくはなるけど、基本的な戦い方は今までと同じだね。ユーリ、引き続き索敵をお願いしてもいいかな?」
「もっちろんよぉ」
ユーリが体をくねらせた。と同時に目玉のおばけ、“グライアイ”が飛んでいく。ルートの向こうの様子が視覚的にわかるのはかなり楽だ。
「この先、花1と猿3よ。さすがオラクルエリアはキビシイわよねぇ」
ユーリの報告を聞いたショウが歩き出しながらふり返る。
「ダンテに花をお願いしたいな。猿はそこそこ動きが速いから、あとは全員が手の届く範囲のものを攻撃。“相手をしていない”敵の遠距離攻撃に気をつけて」
「おーう」
「了解した」
深い緑の下を用心深く進んでいくと、すぐにモンスターの声が聞こえてきた。それぞれの配置も把握済みだ。
アルとアヤノが先に飛び込み、手前にいた花をかわしてそれぞれ攻撃をかけた。後方でショウが援護の体勢をとったのが見える。そのさらに後ろでは、ダンテが攻撃魔法を放った。
「その調子よー! みんながんばってぇー!」
離れたところで声援が聞こえ、アヤノはちらりとそちらを見た。少し前からユーリだけはほとんど戦闘に参加していない。しかしショウは何も言わないし、最初文句を言っていたアルも、途中でそれをやめたようだ。
なぜだろうと考えて、ふと“グライアイ”に目を留めた。
「ねえ、ショウ」
「うん?」
「召喚獣って、ずっと出しとくと何かの数値消費するの」
「召喚は特殊な魔法って位置づけなんだ。だから魔法ゲージを消費するよ。召喚の時にまとめて削られて、出しっぱなしならその間中ちょっとずつ減ってく」
「……ふーん」
つまり今も消費は続いていて、下手に攻撃に加わると使い尽くしてしまうわけだ。
なるほどとうなずきながら、猿にとどめの一撃をたたきこんだ。見回すと他もすでに終わっていた。
「さ、次に行きましょうか? あなた達レベルの割りにうまいわねぇ。私が前に参加したパーティとは比べものにならないわ」
「おだてても何も出ないよ」
冗談めかしてショウが言うと、ユーリは意外にもまじめな顔で肩をすくめた。
「前に参加したの、大幅に実力を超えたのモノ持って調子に乗っちゃったグループでねぇ。せっかく地道にレベル稼いできたのに、あやうく死にかけたわ」
「あーオレもあったあった。いっぺん課金勢のパーティに誘われたんだけど、気ぃ合いやしなくて途中でケンカ別れしたっけ……」
同意したアルが、何を思い出したのか渋い表情をする。その横でショウが複雑そうに微笑した。
「お金をかけるかけないの判断は、価値観や相性にも関わってきたりするからね」
「ま、無課金勢でも気の合わねーヤツはいるけどな」
「うん……そういうこと」
「あら?」
ひょいと画面に目を落としたユーリが、きょろきょろと辺りを見回した。アヤノもつられて視線を巡らせる。が、特に何か見えるわけではない。
「どうしたの」
「今……あら、消えたわ?」
「なにが?」
「この近く、っていうかこのスペースに、新しく敵の反応があった気がしたのよ。これってあれね……さっき修正されたはずのバグに似てるわね?」
ショウがぴくりと反応し、ユーリの手元をのぞきこんだ。
「本当に?」
「一瞬だったし、見間違いかもしれないけどぉ」
ぽんっ
絶妙のタイミングで鳴り響いた音に、アヤノはびくりと肩を揺らした。ユーリがぱちぱちとまばたきをする。
「え、なに? メッセージ着信よね?」
「また……あれかな」
アヤノはおそるおそる画面を開いた。それは案の定、差出人不明のものだった。
『近くにいる 気をつけて』




