オラクル Ver. アルテミス -2-
ショウの指示を受け、ダンテが怪訝そうに眉根を寄せた。
「待て。アヤノもアルも近接戦闘タイプだろう。それでは不利だと以前に――」
「第3ステージのボスは動きが早いのよ。近くから攻撃しようとすると大変よ? ショウ君も知ってるんじゃない?」
ユーリもしなを作って首を傾けた。ただ、こちらは興味深そうに目を輝かせている。ほんの少し目を細めながらショウはうなずいた。
「もちろん知ってる。だけど、考えがあるんだ」
「うふん……興味あるわねぇ」
「とにかく、行こうか」
先ほど言っていた、敵3体が出現している辺りまであと数メートル。熊は比較的動きが遅い。協力して1体ずつ倒せばそれほど怖くないはずだ。花はリーチが長いので、むしろそちらに注意すべきなのかもしれない。
「――ねぇ。せっかくだから、先制攻撃、かけておきましょうか?」
ふとユーリが言い出した。上目遣いに見られたショウが、大げさに驚いた表情を見せる。
「できるの?」
「もちろんよぉ。“召喚士”の特性のひとつよ?」
「あーそうか。魔法と違って、召喚獣はある程度自律で動くからか」
「あら、アルちゃん意外とわかってるじゃない」
というか、きっとショウもわかっていたと、思う。アルも同じ事を考えたのだろう、頬を掻きながらちらりとショウを窺った。
ユーリ自身はどこまで気がついているのか。ユーリとショウのやりとりは、見ているとちょっとばかり背筋が寒い。
「お願いするよ、ユーリ」
「おっけ。任せてちょうだぁい」
鮮やかなウインク。そして白銀の錫杖を上げる。
『使役獣召喚:ヒドラ!』
目の前の空間がゆらりと歪んだ。敵が現れるときのような――しかし黒ではなく、白い陽炎が立ちのぼって形を取る。
姿を現したのは巨大な蛇だった。首をもたげればアヤノの身長と変わらない。金属が擦れるような啼き声を上げ、それはするすると先へ這っていった。
「花にターゲットを置いたわ。一度じゃ倒せないけど、ショウ君ならもう一発くらいで倒せるんじゃないかしら」
「その後で熊を1体ずつ。いけそうだね」
「ただ、ヒドラはまだ最大でツーアクションよ。すぐに消えちゃうわ」
ルートの向こうで悲鳴のような声が上がった。あれはたぶん“花”のものだ。ヒドラが攻撃を仕掛けたのだろう。
「みんな。先に行って花を片づけるから、僕が出たら3つ数えて援護に来て。まずはダンテ。魔法で先手を取ってほしい。それから手近な方の熊を集中攻撃。それでいいかな?」
それぞれが承諾を示した。それを確認したショウは、うなずくなり駆けだした。すかさずアルがカウントを始める。
「ひとつ。ふたつ。――みっつ!」
「行くぞ」
先陣を任されたダンテが飛び出した。アヤノ達も後に続く。
『魔法:ディニ』
『魔法:ソーク!』
ダンテとユーリの詠唱が重なった。水と風の柱が、手近にいた熊を襲う。すかさずアルが撃ち、アヤノも斬りかかった。
『魔法:スィエラ!』
ダンテが重ねて魔法を放つと、最初の熊はすぐに力尽きた。アヤノは視線を奥へと投げる。花はすでになく、ショウはもう1体の熊と対峙し様子を窺っている。
「ショウっ」
アルが駆け寄っていった。その時、熊が両手を振り下ろしたが、ショウはひらりとかわして顔だけ見返る。
「大丈夫だよ」
「ショウ君! 加勢するわよぉ、この2人が!」
その場に留まったままユーリが叫び、横を通り抜けたダンテのなんともいえない表情がアヤノの視界をかすめた。
それでも熊1体なら4人で充分だ。アヤノは跳躍し、一気に距離を詰めた。
「アルは回り込んで! アヤ、そのまままっすぐ!」
「了解」
「いっくぜー!」
銃声。魔法詠唱。そこへ鋭い呼気をかぶせて斬りに行く。胴体を払って返す刀でもう一度。すぐに後ろへ飛んで距離を取る。
そこへ更に、ダンテが宝剣で斬った。熊は長く吼えてのけぞり、そのまま形を崩していった。
「あれ……こんな簡単だったっけ」
拍子抜けしてつぶやいたアヤノにショウが笑う。
「順調みたいだね。この調子で“オラクル”もがんばってみようか」
すれ違いざまぽんと肩をたたかれる。褒められたらしい。
と同時に、ユーリが歌うような声を上げた。
「この先にも敵がいるわよぉ。猿1、熊1」
「それなら猿優先かな。行こう」
ショウが動き出し、4人が続く。と、再びユーリが告げた。
「熊がもう1体。少し離れてるけど移動してこられる距離よ。気をつけてねぇ」
ふわふわとしてつかみづらいが索敵役としてはたのもしい。
“オラクル”が終わった後、ショウはユーリをどうするのだろう。……自分は、もう少し一緒にいてみたいけれど。
そんなことを思いつつ、アヤノは走った。
* * * * *




