オラクル Ver. アルテミス -1-
珍しく最後にやってきたショウはかなりあわてた様子だった。すでに集まって雑談をしていた4人を見ると、ほっとしたように息を吐く。
「ごめん。遅刻した」
「気にすんな。ユーリも今来たとこだ」
「ショウ君! 同じタイミングで入ってくるなんて、気が合うじゃないのぉ!」
「ただの偶然じゃないかな?」
ユーリに向けるショウの笑顔がやけに冷たい。なんとなくらしくないような気がしてアヤノは瞬いた。
何か気に入らないのなら連れていかなければいいのにとも思うが、そういえば『約束』があったのだった。第3ステージの“オラクル”までなら同行すると、確かショウは言っていた。それにしてもこの調子では、言葉通り、クリアと同時にさよならなのかもしれない。
「アヤもだいぶレベルを上げたね。そろそろ“オラクル”に挑戦してみようか?」
聞かれたアヤノは迷わずうなずく。
「行く」
「ダンテもここのオラクルは初めてかな?」
「ああ」
「私は2回目よ。ここのボスって第1、第2ステージまでとちょーっと傾向が違うのよねぇ。近距離専門はしんどいわよ?」
「遠距離攻撃のできる者をメインにすべきということか」
「そゆこと。でもまずは森を抜けなくちゃねぇ。うふふ……実は私、ここのステージにぴったりのイイモノ、持ってるのよ?」
ユーリが楽しげに笑いながら錫杖を手にした。1歩、セーフティエリアから出たところでそれを掲げる。
『使役獣召喚:グライアイ!』
目の前にぽっと光が灯った。それがあっという間に形を取り、何か――やけにグロテスクなものに、なった。
「……なにこれ」
「なんだこれは」
「うげ。目玉に虫の手足と羽って……妖怪か!」
アヤノ達がそろって顔をしかめる中、ショウだけが驚いた顔でそれをのぞきこんだ。
「これは……すごいな、レアものだ。どこで手に入れたの。買った?」
「やぁだ買えるわけないでしょ? モンスターを倒したときにドロップしたのよ。すっっっっっごくまれにしか出ないらしいから、あたしの運ってなかなかのものよねぇ」
あなたならわかってくれると思った、言いながら懲りずにショウにすり寄ろうとするユーリと、目玉おばけを見比べて、アヤノは首をかしげた。
「でもこれ、戦えるの、ユーリ」
どう考えても攻撃手段を持っていそうに見えない。というアヤノの見立てはどうやら正しいようだった。
「そ、コレは戦えないわ。だけどこういう便利な使い方ができるワケ」
軽く錫杖を振れば“グライアイ”がぱっと羽を広げ、飛んだ。
その姿が木々の向こうに見えなくなったところで、ユーリはメニュー画面を開く。
『グライアイ:“目”』
「……あ」
ユーリの画面に変化が起きた。森の中を移動しているような画面が映る。これは。
「もうわかるわよね? アレの見てる画像がここに転送されてくるの。通常画面じゃ発生数しかわからない敵も、これで種類までわかって、事前に対策が立てられるってわけ」
「すごい」
「へー、そりゃ便利だな」
「どう? アルちゃんにもこの凄さ、わかった?」
ふふんと胸を張ったユーリに、ショウがふと笑顔を向けた。それもまた、作り物の笑顔のようだった。
「それじゃユーリ、もう一区画先までグライアイを進めてくれる? 今3頭分の反応があるみたいなんだ。確認、お願いできるかな?」
「やぁーん、あなたのたのみなら喜んでぇー!」
くねくねと体をくねらせるユーリから少し距離を置いたショウが、どことなく悪い顔をする。アヤノは黙ってアル、ダンテと目を見交わした。
――ここは何も言わないでおこう。
言葉はなくとも全員一致で意見がまとまった。
「ええとねぇ、熊が2頭いるみたいよ。あとは、花ね」
「花。第1ステージのと違う?」
「基本動作は同じ。もう少し強いけどね。そろそろアヤにも倒せるんじゃないかな?」
ショウが前に立って歩き出した。歩きながらユーリをふり返る。
「攻撃用の召喚獣は?」
「メインは“ヒドラ”。レベル2よ。防御は“プロヴァート”のレベル3」
「ありがとう、傾向は大体わかった」
ショウは他の3人にも順に視線を送った。このメンバーならどんな戦い方ができるかを考えているのだ、たぶん。こうやって事前に分析しておくから、いつでも的確な指示を出せるのだろう。
「……オラクルエリアを抜けるまでは、基本的にいつも通り。だけど今回のボス戦は僕が中心になって攻めようと思う」
「まー妥当だろ。他は?」
アルが他の3人を見る。間をおかずにショウが口を開いた。
「援護は、アヤとアル。ダンテとユーリには、追い込みをお願いしたいな」




