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亡域の勇者~魂の恩寵を手に入れた少年は、滅びた村の人を蘇らせるために魔王の秘術を求めて戦う~  作者: キノコのほうし
序章 村の少年

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第一話 リアン

「ねぇ、ねぇリアン。はやくっ」


 シアが顔を近づけて小声で言った。


「ちょっと、待って」


   そう言って僕は右手で握りこぶしを作り、意識を集中する。


 すると、全身を駆け巡る魔力が右手へと集まってくる。


 ——インベル・ルーシス


 僕は口に出さず、心の中で唱えた。


 そして、手を開くと光の玉が1つ、宙へと浮かびあがった。


 それを2人して目で追っていく。


 光の玉は木の葉に当たると弾けた。


「くるよ」


 光が無数の粒となって、雪のように僕らの頭上に舞い落ちる。


 薄暗かった茂みが淡い光で照らされていく。


「うわぁ...すごい...」


 シアが隣で声を漏らす。


 大きく見開かれた彼女の目には、たくさんの光が映りこみ、夜空のように輝いていた。


 ——あぁ、やっぱり好きだなぁ


 僕の魔法なんて飽きるほど見ているのに、シアはいつも新鮮な反応をしてくれる。


 そのせいで、駄目だとはわかっているのに何度も魔法を使ってしまう...。


 僕はいつからこんなに意志の弱い人間になってしまったのだろうか。


 何度も繰り返してきた反省と後悔をしながら、僕はシアへと目を向けた。


 彼女は手で皿を作り、落ちてくる光を受け止めようとしている。


 僕の気も知らないで、本当に呑気なやつだ。


 そして、光の粒がシアの手に触れるとポロっと消えた。


「あっ...」


 するとシアは小さく声を漏らし、悲し気な表情を浮かべた。



「はぁ...」



 気づけば、僕は右手に魔力を集めていた。


 ——ははっ


 我ながら呆れる。


 あとは心の中で唱えるだけで魔法が完成する。


 ――ヴェラーム・ネブレ


 僕は一切の躊躇いもなく唱えた。


 すると霧が発生し、僕らの視界は瞬く間に白く染め上げられた。


 霧は舞っている光の粒と混ざり合っていく。


「わぁ...きれい...」


 霧が薄く光を引き伸ばし、七色へと変化していた。


 シアは恐る恐る七色の霧へと手を伸ばす。


 しかし手はすり抜け、空を切った。


「ねぇリアン、なにこれっ! こんなの初めて見たっ!」


 シアは危険がないとわかったのか、腕をブンブンと振ってはしゃぎ始めた。


「やっぱり、リアンは凄いねっ! こんな魔法、村の大人でも使えないよ!」


 そう言ってシアは満面の笑みで、金色の長い髪を揺らしながら飛び跳ねている。


「だろうね...」


 その“魔法”を使えるのが問題だと、この子は理解しているのだろうか。


 魔法は神様の奇跡を借り受けたものだ。


 15歳の洗礼の儀式で神様に祝福という名の許しを得ないと、人は魔法を使うことができない。


 しかし、僕は八歳のころから魔法が使えていた。


「—アン」


 神様の祝福なしに魔法が使えるのは、魔王に連なる魔を冠する種族だけだ。


 魔族・魔物、そして魔王。


 もちろん僕は人間だし、そんな化け物と関わりなんか一切ない。


「――ねぇ、——アン」


 けど、魔法が使えると村の人に知れたら、僕は魔として処刑される。


 だから、絶対に村の人にバレるわけにはいかない。


 なのに、シアのせいで...。


「ねぇ、リアンっ!!」


「...えぇ?」


「パパが来てるっ」


 ——おい! 2人ともどこだぁー!!


 直後、少し離れたところから声が聞こえた。


「やばっ」


「ねぇ、この霧って消せるの...? パパすぐ来ちゃうよっ」


 シアは手で近くの霧を晴らそうとする。


 しかし手はすり抜け、霧は漂い続ける。


「どうしようリアン、パパが来ちゃう」


 ――おーい!! どこだー!!


 木々の隙間からおじさんが近づいてくるのが見えた。


「大丈夫だよ」


 僕は努めて冷静に言った。


 こういう時こそ焦ってはいけない。


 僕は目をつむって、周囲へ意識を集中させる。


 落ち着いて魔法を組み立てれば間に合う。


「ふぅー」


 息を吐き、周囲と同化する自分を想像する。


 だんだんと、身体から魔力が抜けて、周囲の魔力と溶け合っていく。


 そして目を開き、唱えた。


 ——ウェントゥス・レーニス


「うわっ」


 シアが突風でなびく髪を抑えながら、声を上げた。


 木々は枝を揺らし、木の葉を舞わせる。


 茂みの草が吹き荒れザワザワと音を立てる。


 そして風が、光の粒もろとも霧を晴らした。


 ――ガサっ


 直後、茂みが勢いよくかき分けられた。


「こんなところにいたのか!」


「あ、パパ...も、もうお仕事はいいの...?」


 シアはあくまで何事もなかったかのように取り繕って見せるが、明らかに目が泳いで動揺している。


「あぁ...すぐに帰るぞ。早くしなさい」


 おじさんは言うや否やシアの手をとり、腕を引っ張った。


「え、ちょっとパパっ」


 いつになく、慌てた様子だ。


 どうしたんだろ。


「リアン君も早く来るんだ」


 僕が考えて居ると、おじさんは僕の腕も引っ張った。


「えっ...あっ」


 そうして、おじさんは有無も言わさず僕らを森から連れ出した。

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