#4 ご機嫌の君と僕の財布の中
あの後、メッセで予定を擦り合わせ3日後にまた会うのを決めた。同じ待ち時間、同じ待ち合わせ場所。
同じ俺の服装…これは単に俺のレパートリーが無いだけ、そして前と同じく1時間前に到着して待つ。
「あっやっぱりこの時間にもう来てる」
てててっと俺の隣に立ち、また早く着いちゃいますねと笑う。
そう言いながら自分も1時間前に来ている姫路さんは、前回の白ワンピ清楚夏休みスペシャルとはまた違うオシャレ。
シンプルなTシャツに細身のジーンズ、装具を隠そうともしない組み合わせだけど、キマっている。
「うーんやっぱりオシャレな人にはバトル仕掛けるもんじゃないな、勝ち目がない」
「へへへっ。私はもう進藤くんと言えばそのカッコって認識になってきましたよ」
「なんてこった、同じやつを3セット買い足さなきゃ」
ちなみに今は2セットある。と嘯きながら大仰なジェスチャーをする。
「あっはは!なんでですか!もっと色々な服装を見せてくださいよ?」
少しばかりバカなことを言い合ったあとに、今日の予定を確認する。
「姫路さん、今日は何しようか」
言いたくてたまらない、という顔をしている姫路さんに苦笑しつつ聞いてみる。
「今日はなんと!プライズゲームを案内してもらおうかな、と!」
ババーン!という効果音が聞こえてきそうなほどに、自信満々に告げられる予想通りの予定。
「そこまで前と同じなのか」
「前はその、私のせいでかなり早くお開きになっちゃったので、リベンジしたいんですよ」
少しバツの悪そうな言い方をしてきたので、空気を変えるついでに、こちらの事情も言うことにする。
「隊長、問題があります」
ビシッと敬礼をしてまっすぐ姫路隊長を見据える。我が方の問題は重大だ。
「なんでしょうか進藤隊員」
「お金がそんなにありません」
こづかいもそれなりに貰ってるし、無いわけではない程度にはあるが連日プライズとなると不安が残る。
「なんと進藤隊員、私もそこまでありません」
「マジかよ、バイト代入るまでも少しあるんだよなぁ」
うちの高校は親の許可があり申請すればバイトが出来るので特に珍しくもないが、
「え、バイトしてるんですか?」
「あれ?ラブから聞いてないのか?休日だけコンビニでアルバイトしてるんよ」
「どこで!?どこで!!??」
姫路さんが急に体を乗り出してまでこちらの勤労場所を聞こうとしてくる。
あまりにも食いつきが良すぎる、なにがそんなに琴線に触れたんだ。
「二駅向こうの〜」
と言いかけて、
「いややっぱ教えない」
「なんでですか!こんなにお願いしてるのに!」
「その目はシフトも割り出して乗り込んでくるタイプの目です。危険分子には教えられません」
「ケチンボだ!いいですよ〜だ。後でラブちゃんに聞きます」
(後でキツく言い含めとくか…)
罪のない(わけでもないが)ラブがとばっちりを受ける予定が立ったところで、前と同じルートでフードコートまで来た。
「何も言わずここまで来ちゃったけど、先に飯で良かったか?」
「はい。今度は、ハンバーガーにしようかな〜と」
悩む様子なくメニューを決めると、期待した目でこちらを見てくる。
「じゃあ俺はたこ焼きにするか、普通のやつ」
そう言うと姫路さんの目がランランと輝き、分かってんじゃんと肘打ちまでしてくる。
「真似っこさんですね」
「見たら食いたくなるよな」
メニューも決まって、あとは買ってくるだけ…と思ったけど問題が発生していた。
「他のとこは人の数、前よりマシだったから油断してたな」
「まさかフードコートが完全に埋まってるとは…」
ざっと見渡した程度だがテーブルは2人用含め全て埋まっている。11時前くらいに着いたというのにこれが田舎のオアシスか。
「あ、あそこ良さそうですよ!」
「え、空いてるか?」
「そこのカウンター席、隣り合いで空いてます」
1人用の少し広めのカウンター席、確かに2席空いていた
「隣合いか…まあ仕方ないか、荷物見といてくれな」
「任されました」
満面の笑みの姫路さんに少し怖さを感じつつも、自分の場所取り用にハンカチを広げて置き、お金を預かる。
あとは食べ物を持ってくるだけだ。トレーにたこ焼きとチーズバーガー、ここまでも前と全く同じ。
だけど一つ違うところが用意されていた。
「やっぱりそうなるよな」
予想できたことではあったのだが。
「そりゃあこうしますよ」
席の真ん中に設置されていたはずの椅子が、境界ぎりぎり同士に詰められている。
無言で椅子を真ん中に戻そうとするが、
「あ!何してるんですか!この前約束したんだから諦めなさい!」
「そんな約束したっけ…?まあ、しょうがないか」
何言っても聞かなそうな姫路さんに、俺はすぐに折れて2人の真ん中にトレーを置き食べ始めるが、視界にチラチラと姫路さんが入ってくるたびに、近さに慄いてしまう。
どうにかして距離感を保たねば…と考えていると。
「ふふっ、おんなじチーズバーガーセットだ」
「えっ…あっ何バーガーか聞かずに買いに行っちゃったか。すまん」
チーズが苦手な人もいるだろうについ自分がいつこ頼むものを買ってしまった
「いいんですよ、チーズ好きだし。それにわざと言わなかったので。……きっと同じにしてくれると、思ってたから」
少し肩を寄せてくる姫路さんに合わせて、同じ角度に身体を傾ける。
「そこは肩当てさせてくれるところじゃないですか?」
「俺にそんな甲斐性求めないでおくれよ」
ひたすら触れないように身構える俺に、姫路さんはずっと笑顔で距離を詰めてくる。
普通ならば憧れたような青春の一幕、実際お腹以外のところも満たされていくのを確かに感じる。……口の中がたこ焼きに蹂躙されたのを除けば。
食事も終え、本題のプライズリベンジにゲームセンターへ向かう。
「でも欲しいやつは前に取っちゃったんだよな」
「まあ色々見てみましょう?プライズのウインドウショッピングってやつですよ」
確かにここは普段行くゲーセンよりプライズコーナーが広い。色々置いてあるのを見るだけでも楽しそうだ。
見回すとフィギュアやぬいぐるみの他にお菓子におもちゃ、中には変わり種もある。
「こういう釣り竿って、ホントに使えるんですか?」
「親父が釣り好きだから、たまに行くけどこの大きさのは使ったことないなぁ。ルアー用だと思うけどね」
ルアーはやらないんだよな、と筐体を通り過ぎると、姫路さんは俺の発言に少し興味が湧いたらしい。
「あ、釣りもするんですか、多趣味ですねぇ」
「広く浅くってやつだよ。でも釣りはウキを浮かべて水面を何時間も見つめるのが、心地よくてなあ。うん、好きだな」
釣りは一応趣味としているが、正直釣果はあんまり上がらない。
ウキを眺めに行っているようなものだ。
そんなことを思いつつ姫路さんの顔を見ると、少し赤いような。
「好き、かぁ…今度、一緒に釣り行ってみたいですねえ」
「良いけど、何にも釣れないことも多いよ」
酷いときなんて、5時間浮きを眺めるだけなんてときある。友人と行くと暇で暴動を起こされかねない。
「はい。君と話しながら、海を眺めたいですね」
純粋に行きたいと感じていることが分かる言い方に、今度は俺がドキッとする番だった。
きっと実際に行ったらさすがの姫路さんでも暇で不満を漏らすかもしれない。でもそれも楽しいかもな。
と思ったところで自分のチョロさに呆れ果てる。
「あっ!このお菓子落とすやつ、やってみますね!」
姫路さんが空気を変えるように、お菓子タワーを崩すゲームにコインを入れる。
流れるお菓子をできるだけ多く掬って、タワーに当てるタイプだ。
「んーここ!」
「おっ、いい感じ」
4個くらいのお菓子が、シャベルに乗って上がってくる。
「これを台が引いてるときに、落とすんですよね…」
「そうそう、まあある程度は落ちるから、適当でも大丈夫だと思うけど」
と、ゲームにのめり込んで喋っていると、筐体のカバーに反射した自分の顔と姫路さんの顔に気づく。
いつの間にか、頬が触れそうなくらいに近くに寄っていた。
「…近すぎた!ごめん」
すぐに筐体を覗き込んでいた身体を離す。
「あっ……はい、気づいてなかったし…大丈夫。」
もにょもにょした感情のわかりにくい表情で答えてくる。失敗した…気をつけよう。
気を取り直して何回か挑戦するも、お菓子タワーは崩れず何個かのチョコレートだけがぽつぽつと落ちた。
その後も何個かの筐体に数クレ入れてみては、諦めて笑い合う。
「なかなか難しいな」
「そうだねぇ、息抜きにこれ食べましょう?」
姫路さんから貰ったチョコレートを食べながら歩くと、有名なモンスター育成ゲームのぬいぐるみがあった。
少し茶色の強い小さなネズミのモンスターがちょこんと真ん中にいて、少し姫路さんにも見える。
「この子、私このゲームで一番好きなキャラなんですよね」
「へえ」
考えるよりもすぐにコインを入れて挑戦し始める。
「……え?やるんですか?」
急にコインを入れた俺に少し驚きながらも、期待を込めた目でぬいぐるみへと視線を向けている。
「うん、取れたらやるわ」
これだけのことを言うだけなのに、息を整えて。
「取れるまで、やる」
「……ふぇ?」
ふいに来た間抜けな声に吹き出しそうになりながらも、揺れるアームをぬいぐるみに合わせていく。
カチャンカチャンと挑戦回数を重ねて位置を整えていき、アームのクセを読んで、
ポトンッ
「よし取れた!」
思ったより少ないクレ数で取れたが、財布の中身は随分と軽くなった。
ちょっとした犠牲の上で手に入れた、小さなネズミを渡す。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして、やっぱり似合ってるな」
「あっ、またネズミ扱いしてませんか!?」
少し怒ったあと、ネズミで顔を隠す。そんな仕草さえ小動物みを感じさせて、もっとからかいたくなるな。
「まあ、今回はいいです。この子可愛いですから」
そういって声だけ呆れたふうに、こちらを許してくれた。
(さすがに、これはしょうがないだろ…)
釣りの話から揺れっぱなしの俺の心の折り合いは、まだ取れていない。
対する姫路さんも、不意打ちを食らってそこそこダメージを負っているようで、何かを言っているがもごもごと要領を得ない。
そして何かを思い出したのか息を整え喋り出す。
「あ、あ!そういえばコインゲームコーナー抜けた先に、格ゲーあるの知ってます?」
「え……あ、あるんだ」
知らなかったが、思えばここは格ゲーの開発会社の名前のゲーセンだし、そりゃあるか。
「ふふ、少しやってから帰りましょ?私練習してきましたから」
「俺も練習したからボコボコにしてやるよ」
2人笑いあってプライズコーナーを後にする。
少しだけ、二人の隙間は狭くなっていた。
――――――――真恋の部屋
あまり物のない私の部屋に、最近になって物が増えていく。
フィギュアに、ぬいぐるみ、どちらも私の宝物になった。
「まだ8月のシフト出してないから、少し減らしとくわ」
何の気なしに言ったはずの彼の言葉を、思い出す。
バイトを減らしてでも会ってくれるのであれば、少しは好感を抱いてくれているのかな。
そんなことを思いながら、彼とのやり取りが移るスマホの画面をそっと指で撫でる。
「あー私って、ものすごいチョロかったんだなあ」
あのゲーセンで対戦をしてから、あの人のことをさらに知りたくてたまらない。まだ出会ってすぐだというのに私って、こんなに単純だったんだろうか。
私の心も、彼の心も、今はまだ揺れて流れてどこに行くのか、分からない。だからまだまだ確かめないと。
私の夏は、まだ始まったばかりだ。
田舎過ぎてモールが強すぎる




