#17 夏の割と長い一日の僕と君
なんとか茶シバを確保した真恋と一息つくために、飲み物を買って近くのベンチで座ることにした。
「いや〜…まさか15回もかかるとは…」
「結局コンプして、一番最後が茶シバだったな」
「ガチャの怖さですねえ」
自分が持ちっぱなしになっていたカプセルの入った袋を広げて、中身を確認してみる。
一つ一つはそこまでの大きさではないけれど、流石に15個もあると結構な物量だ。
「何個かダブっちゃったんですよねえ…この黒シバちゃんとか3つありますよ」
「ダブってるのは貰おうか?ちゃんと金も出すぞ」
「お金はいりませんから、ダブりはもらってくださいな。そのとりあえずお金出そうとするの、だめな癖ですよ?」
「ぐ、すまん。じゃあ貰うな」
「よろしい。はい、黒シバちゃんです。今バッグに着けてください」
「え、今か?」
「はい。もちろん今しかないでしょう」
淡々と、だが妙な圧力のある眼力で迫られ、普段使いしているショルダーバッグにストラップとして付けさせられてしまった。
(学校用のバッグじゃないのが救いだな…)
「ほい、着けたぞ」
「はい。私も付け終わりました」
そう言って、いつも持っているポーチに付けているシバを見せてくるのだが、
「……なんで黒シバなんだ?」
「茶シバちゃんは一つしかありませんし、黒シバちゃんは3つ被ってましたので」
茶シバちゃんは飾ります。とのことだが、他にもダブってたのはあっただろう!
……と言いたくなるが、ポーチに着けた黒シバを見ては微笑んでいる真恋を見ると、なにも言えなくなる。
「俺も腑抜けたなあ」
「たぶん多少腑抜けているくらいが、人付き合い良くなりますよ。知りませんけど」
こいつ…なんか今日はやけに肩の力が抜けているというか、思ったことをそのまま喋っている気がするな。
「さあ、お目当ても回収しましたし、ちょっとお店見て回りませんか?」
「構わんけど、何買いに行くんだ?」
「買うというか見る、ですよ。ここ来たらいっつもゲームコーナーだったので、たまには普通に服とかをウィンドウショッピングしたくって」
「いや、俺がいる時点でそりゃゲームになるだろうよ。というか、そういうのは俺だと役に立たんぞ」
何が似合うとかトレンドだとか、全くわかんないぞ。自分の服も適当なのに。
「じゃあ役立たずにいてください。いてくれるだけでOKとしておきます」
ニマぁっと笑い、ベンチから立って、手を差し出してくる真恋に、俺はその手を取る選択肢しか残されてはいなかった。
そして、俺たちは先ほどまでガチャと格闘していた書店に戻ってきていた。
「せっかく書店に来てたのに、ガチャガチャだけってのも寂しいですからね」
「そうだなあ、俺もすっかり電子書籍ばっかになっちゃって紙の買ってないな」
「分かります。参考書とかは紙で買うんですけど、漫画は電子が多いですね」
参考書かあ、買ったことがないな。ていうか。
「漫画とか、多いと言えるくらいには読むんだな。なんとなくそんな読まないかと」
「私、割とサブカル女ですよ?外行くの面倒な時も多いのでネットにはよくお世話になります」
そういえば、ソシャゲも軽くやってるみたいに言ってたっけか。
「漫画もこう見てると持ってるやつも紙で揃えたくなるんだよなあ。これとか特典ついてるし」
「そうですね。私はもっぱら少女漫画ですけど、紙だけプラの栞付きとかあって困ります」
「そうなんだよ。おまけマンガとかなら後で配信あったりするんだけどなー」
そう言いながら、既に電子で持っている漫画の特典アクスタ付き版を手に取る。
「あら、買うので?」
「電子で持ってるんだけどな。これしかもちょっと割高なんだけどな。このキャラ好きなんだよな」
「どれどれ?あら可愛い。あなたって大体のゲームおじさんみたいなキャラ使ってるから、ああいうキャラが好きなんだと思ってました」
「ゲームは単純に使いやすいキャラ選んだら、おじさんになってっただけだ!」
おじさんキャラも渋くて好きだけど、好きの置き方が違うだろう!
しかし最新刊の出たラブコメ漫画、アニメ化記念で特装版が出ていたのは知っていたが、まさか真恋の前で買うことになるとは。
でも仕方ないんだ。あと一冊しか無かったのが目に入っちゃったから……
「これラブコメですか。面白いんですか?」
「めっちゃ面白いかと言われたら、どうだろう?話に大きい起伏はないな」
「ああ、少女漫画にも結構あるタイプですかね」
「少女漫画に詳しくないからアレだが、一対一ラブコメってやつだな。勝者が決まってるから、安心して読めるっていうか…」
「心が弱めの方用の漫画ですか?」
「最大限悪意のある言い方、やめてくれるか?」
実際そうな気はするけどね?
「じゃあちょっと買いますね。はい全巻買ってみました」
「え、早い。待って、話が0秒で進んでてついて行けてない」
真恋はスマホを取り出したかと思えば、俺のお気に入りのラブコメを全巻購入した履歴を俺に見せてくる。こわい。
「ちょうど読む漫画増やしたかったタイミングでしたから」
「ええ……」
「といっても書店で電書買って何も買わないのもなんかマナー違反な気がしますので、参考書見ても良いですか?」
「あ、俺も見てみたい。数学のできるだけ優しいやつで予習できるやつ、教えてくれないか?」
「ふふ、お任せあれ」
そのまま俺はラブコメと数学の参考書を、真恋は古文の参考書を購入して、書店を後にした。
そして、ファッション関係の店が多くあるエリアへとやって来た。
このへんはたまに親と来るが、自分は本当に興味がないのでベンチにいることが多い。
「このお店とかたまに覗くんですよね。今なら秋物とか入ってきてるかな」
「そういうものと知ってはいるが、この暑さで秋物とか見てるだけで暑そうだ」
「なんなら冬物ももう出てる時期ですよ」
なるほど…季節が来る前に対処しないといけないのは、そりゃあそうだなあ。
「大作ゲー出る前にPCパーツ買うようなもんかな…?」
「うーん、違う気がします。それはどっちかと言うと、ブランド品が出る前に痩せるとかそういう話ですかね」
「ああ、そっちだわ」
納得していると、真恋はストールを2枚持ってきていた。
「これとこれ、どっちがいいと思いますか」
ベージュのシックなものと、青い少し柄の入ったもの。
「どっちも暑そう」
「真面目に」
怒られてしまった…真面目に考えるか。
「ベージュの方は真恋の今の服装の雰囲気には合ってるな。清楚目な服装でそれつけてると、ご令嬢感が増してそれだけで絵画みたいになりそうだ」
正直、今着てるワンピースのような白い眩しさに、このストールでカーテンをされたら直視できなくなりそうだ。言わんが。
「青い方は、落ち着きの中にある派手さって感じでちょうどよく見える。可憐さがプラスされる感じでどの服装にも合いそう」
たまに着てる動きやすい格好で、これを纏われたりしたら一気に雰囲気が変わるんだろうな。
「うーん、どっちも普通に似合うと思うが、普段使いしやすそうなのは青かな。個人的にはベージュもいいな」
そこまで言い切ると、真恋はポカンとしつつこちらを見ていた。お前が言えって言ったんだろう。
「いやぁ、ここまでちゃんと見てくれるとは思っていなくて……ありがとうございます」
そういうと、真恋はベージュの方を俺が持っている買い物かごに入れる。
「そっちで良いのか?青のほうが使いやすそうだけど」
「個人的にはベージュ、なんでしょう?」
「いやまあ、そうは言ったけどな…ていうか普通に買ってちゃウィンドウショッピングでも何でもないな」
「それは確かに」
そのまま店内を回りだすと、店員さんがこちらへやってきた。
「何かお困りのことありましたら、すぐにお声がけください」
ああ、俺が介添えっぽくいるとはいえ、一応声かけることになってんのかな。
「全然大丈夫ですよ。付き添いもいますし」
「失礼しました。ご兄妹でしょうか、ごゆっくりどうぞ」
ご兄妹、と言われた瞬間、真恋の整った鼻筋がピクンとしたのが見えた。
「彼は、友人です」
「ああ!大変失礼いたしました!申し訳ございませんでした」
真恋の眼光鋭い言葉に謝罪を二つ重ねにした店員さんがスススと引いてったのを見送り、真恋に声をかける。
「なあ、真恋」
「ほんとにちょっと失礼でしたね。あの方」
「なあ、俺の服装ってそんな幼く見えるか?」
「へ?」
「いや、普通に俺いまこんなオシャレな店で、謎英語Tに縒れたシャツジャケットだから弟に見られても仕方ないかと……」
ずっと気にはしていたのだけど、この店に入る服じゃない気がしてならなかったんだ。
まさに服屋に着ていく服がない。
「ふふっ、あははは!どんなとこ気にしてるんですか」
「笑うことないじゃんかよお」
「気にしなくても大丈夫ですよ。あなたの服装は似合ってます。お姉ちゃんが保証しますよ」
「おま、馬鹿にしてんな」
「ふふ、じゃああとでメンズの服も見に行きますか」
「頼むよ。俺だけじゃ全くわからないから」
そのままストールを購入し次の店へと向かうことにする。
レジに行く途中でさきほどの店員さんが先輩らしき人に注意されているのが見えて、なんか悪いことをした気分になってしまった。
(すみません、ダサくて…)
その後、メンズも多くおいてある服屋で、真恋の気が済むまでファッションショーされた。
「ちょっと持ち合わせあんまり無かったから、今度買うけど参考になったわ。ありがとな」
「いえ、私もメンズってあんまりちゃんと見る機会なかったので楽しかったです」
「時間的にはまだもうちょい余裕あるなあ」
「そうですね。あとはカフェとかでお話とかでも全然構いませんが」
今で大体16時、高校生が遊び終わるには些か早いか?
「ほらー、弓子チャン、やっぱり居たでしょ」
「貴方の勘って当たるんですね、常田さん。」
「うぐぇ、この声って……」
おお、真恋が珍しい声出してる……というか、俺にも都合悪い声がしたな?
ゆっくり顔をフードコート方面へと向けると、そこには真恋の親友である常田さんと、見かけたことはある黒髪長髪の女性が居た。
「亜季ちゃん、弓ちゃん、……何故ここに?」
「んーたまたま?それでもしかしたら、昨日上機嫌なメッセ出してた人がここに来てるかもねーって」
「本当にいるとは思いませんでしたけども。」
真恋が顔を赤くしつつワナワナという擬音が聞こえてきそうな状態になっている。
「あ、初対面、ですよね。わたくし、建山弓子と申します。お噂はかねがね……。」
「あ、ハイ。進藤才人と申します。姫路さんにはお世話になっております」
「オセワになってるってなんかやらしーね、弓子チャン」
「だまりなさい、亜季」
「うお、真恋こわ」
「わたくしたちは、本当にたまたま映画見に来て、終わったので軽食を摂ったところでした。」
ざっと二人を見る限り嘘ではなさそうだ。
亜季さんの頬にはソースが付いているし、建山さんはそれをチラチラと確認している…いつ気付くか待ってるのか……?
「というか進藤クン、昨日はごめんね。当たるみたいなことしちゃって」
「あーまあ良いよ。情報欲しさにちょっと煽った部分もあったから、お互い様で」
「ちょーっと気になる言い方だけど…そうしてもらえると助かるなあ」
「しかしお揃いのキーホルダー付けてるくらいには、仲良くなっているのですね。お熱いことです。」
!!!なんで気づいたんだ?俺のバッグは背中だし、真恋はポーチを前後逆にしてるぞ!?
「ななな、なにを言ってるの弓ちゃん!」
「ああ、本当にそうだったんですね。姫路さん、ポーチの前後逆にして持つなんて絶対ないのに、何故か逆にして手に力も入れてるのでそんなところかな、と。」
なんだと……カマをかけられたのか…
二人して大慌てして答え合わせをしてしまった俺と真恋は一瞬お互いに顔を確認する。
その後真恋は観念したようにポーチを表にする。
それに倣うように、俺も背負っているバッグを表に出す。
「おお〜、可愛いじゃん〜」
「ふふふ、二人ともお似合いですよ。」
真恋は羞恥にまみれ、もはや声も出せずに口をパクパクさせている。
俺は俺で、ほぼほぼ面識のない二人に遊ばれているので、どう対応したらいいのかが、全くわからない。
「私たちをからかうためだけに来たんですか…?」
「ですから、元の目的は映画ですよ。」
「ていうか真恋、荷物多くなってるね。うちらもう帰るし、少し持って帰ろうか?」
「え、あ、じゃあお願いできますか?うちに置いとくか、亜季ちゃんの家でも明日取りに行くから」
「おけ。おばさんに挨拶したいし、真恋の家に置きに行くわ」
「助かります」
「それでは、失礼しますね。」
「あ、ああ、さようなら二人とも…」
なんというか、激動だった…真恋の友人間での扱いって、あんな感じなんだな。
「言っときますけど、あの二人が悪ノリひどいのは元からですが、今日はとびきりでした」
「あ、やっぱりそうなんだ。テンションすごかったな」
「本当にもう。私たちもここを出ましょうか」
「うん、そうしようか」
そうして、俺たちもモールを後にして、気づけば俺が帰るための駅に来たのだけど、
「ん、駅の中まで来るの珍しいな」
「そうですねえ」
真恋が何故か駅の中まで着いてきていた。
駅ナカのパン屋とかに用でもあるのだろうか?
やっと汽車に乗れた。今日も楽しかったけど疲れたなあ。
「今日は疲れましたねえ、普段より歩いたからでしょうか」
「まあ結構歩いたな、脚は平気か」
「もちろん。そこまでヤワではないですよ」
「そうか、俺は割と限界だ」
それで、だ。
「なんで汽車に真恋まで乗ってるんだ?」
「………5駅ほど先で今日お祭りらしいですよ。花火もあるそうです」
「そうか、そういやそんな時期だったかあ」
「なので一緒に行きますよ」
「………………は?」
正直今日はずっと頭に?しか浮かんでないことが多いのだが、ここで一番が来てしまった。
既に腕は押さえられていて、拒否権はもちろん無いらしい。




