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ある女性の願いごと  作者: 篠月珪霞


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2/2

願い

ふと、気が付けば、体が軽い。

いや、軽いというより。


『やっと、死ねたのかしら…』


”落ち人”は同じ時代に複数現れないらしい。

先代の聖女の命が消えた瞬間に、朱音がこの世界に落とされたとは後から知った。

琴音は例外だった。

だからこそ、この世界と縁を作られる前に、彼女をあらゆるものから守れたし、願うことができた。


あの日。

朱音の尊厳が踏みにじられた日からずっと。


ずっとずっと、死にたかった。

元の世界に戻れないのなら、雨龍のもとに帰れないのなら、死なせてほしかった。生きている意味などないと。


けれど、何度試しても、どんな方法でも、死ぬことはできなかった。

この世界は、朱音に、死という安らぎすら許さなかった。


眼下はすべて水に覆われている。

最期の記憶は、器の苦しさだったけれど。


『やっと、死ねたのね…』


この世界に殺される人間はもういなくなるだろう。

琴音がここにいないということは、元の世界に戻れたのだろうか。

辺りに意識を向けると、何やら騒がしいところがある。

肉体の感覚は失われたはずなのに、聴覚があるのは不思議だが。


さて何事だろうかと、遠見してみる。能力もそのままのようだ。










『お前らが! 聖女様にあんな非道な真似をしなければ、こんなことにならなかったんだ!!』


『やめろ! 余を誰だと思っている! 不敬だぞっ』


『ああ? ご立派で英邁な国王陛下様でしたっけ? 聖女様を集団で襲ったごろつきまがいの』


『やめっ! 石を投げるのはやめろ! 処刑するぞ』


『まさか、わたくしの夫がそんなことをしてたなんて、人間の皮をかぶった獣でしたのね』


『私をぶつなど、お前に何の権利があって』


『よく平気な顔で、民衆の前に出られたわね! 人でなし!!』


『この世界を返せ! 聖女様に謝れよ!!』











──どうやら世界が崩壊したときに、わたしの過去が国民全員に共有されたようだ。

国王以下獣数名が、国民全員に非難と批判を浴びながら、石やら泥やら(ここにそんなもの見当たらないのに)投げつけられている。


朱音はどうしても死ねない絶望の中でも、聖女としての役目は果たしていた。というより、そうするしかなかったから。

経緯がどうあれ。


肉体が滅んだ状態でも痛みを感じるようだから、さて、永遠の拷問になるかもしれないわね。

わたしの知ったことではないけれど。















世界は崩壊したというのに、まだここに留まらねばならないのだろうか。

いや、まだ朱音として存在しなければならないのだろうか。

元の世界に、帰りたい。

魂だけだとしても、せめて。

わたしがいた、世界に。

それだけを願っていたとき。


『朱音』


声が、聞こえた。


忘れるはずもない声。

この世界に落とされてからも、片時も、忘れられなかった、声。


朱音が聞きたかった、ただひとりの声。





震えながら、振り返る。


在りし日の姿の、求めていたひとの姿を捉えて。


──朱音は走り出す。


会いたかった。

ずっと、ずっと、ずっと。





『雨龍…!!』


大きな体に飛びついた。

抱き留め、抱き締められる。


『雨龍、雨龍、雨龍…!』


会いたかった、会いたかった、逢いたかった!!


『遅くなって、ごめん』


泣きながら、首を振る。

だって、ちゃんと迎えに来てくれたもの…!














──琴音は意識が切り替わったかのように、元の場所にいた。

蔵の中の巻物がすべて焼け焦げたようになっている。

それより、なにより。

どんなに探してもいなかった祖父が、いた。


「……おじいちゃん…」


倒れた祖父に、朱音の身体が重なっている。

その顔は、幸せそうに微笑んでいて。



2人とも、息をしていなかった。











祖父の結末だけは、決まってました。

ちなみに、これは作者が見た夢。

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― 新着の感想 ―
朱音が戻った後は守る力も無くなっているので崩壊した世界で生き残る人(留まる魂)はいないと思うのですがどうやって拷問を?
身体が帰れた、そして死ねたという事は 魂も戻れたのでしょうか。 生きていた方が良かったのかな… だけど行方不明だった人が若いままで 生きるのも難しいのかも。 身元不明者をおじいさんと一緒に埋葬は 難…
帰って来れて良かった、良かったんだけれども! 中学生に、この後を、どーすれば良いの?異世界に連れ去られてからの時間経過は? 雨龍お祖父ちゃんはもともと独居老人だから、亡くなってても琴音ちゃんに疑いは…
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