冒険の始まり
幾重にも重なる野鳥の鳴き声が、旅立ちを彩るファンファーレのように耳を楽しませる。
ゴルドホークは、18年過ごした故郷だ。でも、未練は特に無い。むしろ、信頼する仲間との冒険の始まりに、逸る気持ちを抑えられないでいる。
レトルコメルスまでは徒歩でおよそ一週間の道のりだ。
貴族なんかは、飼い慣らしたスレイプニルで移動するらしいけど、ゴルドホークの様な田舎町では、レース用のスレイプニル以外見た事がない。馬での移動も考えたが、餌の事もあるうえに、魔物に食い殺される事もある。
荷物はエミリーの空間魔法があるので荷馬も要らない。オレたちは徒歩で移動する事にした。
不揃いの石畳で舗装された街道は、馬車が行き違っても余裕がある程に広い。行き交う人々は商人や狩猟者。街道沿いでも魔物は出るし、盗賊の類もいる為、商人は狩猟者を雇って町を移動するのが普通だ。
「トーマスはここに来て三年だったっけ? 『ノースライン』出身だったよな?」
オレは歩きながらトーマスに問いかけた。
「うん、この町に着いて少ししてユーゴと出会ったんだよね」
ノースラインは、ウェザブール王国の最北端の町らしい。ゴルドホークの北にある。さっきトーマスに教わったところだ。
「エミリーは? そういや聞いたことなかったな」
オレはエミリーの方に顔を向けた。
「私は四年くらいになるかな。過去は……あんまり話したくないかな……」
いつも明るいエミリーが、珍しく顔を曇らせて俯いた。栗色の髪が揺れる。
「あ……いや、無理に話す必要ないよ。ごめん」
オレは急いで話題を変えるため、昔の話を切り出した。
「Bランクの試験も三人で受けたんだよな。懐かしいな、二人と出会えて良かったよ」
昔話をしながら、真っ直ぐに伸びる街道を進む。歩を進めるにつれ、エミリーはいつもの笑顔を取り戻し、オレとトーマスはホッと胸を撫で下ろした。
日が暮れる前に、野営の準備をしなければならない。まだ日が高いうちにちょうどいい河原を見つけた。
川のせせらぎが耳に心地よい。川で汗も流せるし、衣類も食器も洗える。水辺は野営に最適な環境だ。
「オレ、薪になるような物見てくる。トレントがいれば良いけどな。晩飯も良いのがいたらゲットしてくる!」
オレが言うと、エミリーが杖を握り締めながら飛び跳ねた。
「私も行くよ! 薪と食料運びするよ!」
「じゃあ、僕はテント張って準備しとくかな」
トーマスは盾役だけど、オレと出会う前は一人でも依頼をこなしていた。片手剣で攻撃するし、魔法も使える。街道の魔物くらいなら一人でも問題ない。
オレはエミリーと森に入った。割と歩いたが、獲物はいない。迷わないように気をつけて進む。
ガサッと何かが動いた。オレは刀の柄に手をかけた。周りを注意深く見渡すと、周りの樹木とは少し違う低い木を見つけた。
Dランクの木の魔物、トレントだ。周りの木に同化して、近づいて来た獲物を襲う。ただ、すこぶる弱い。わざわざ薪を持ってきてくれるとは、手間が省けていい。
「私に任せてよ! 新しい杖試したいし」
エミリーは自信満々に杖を構えた。
「よし任せた、間違っても火魔法ぶっ放すなよ」
「そこまで馬鹿じゃないし!」
エミリーは回復補助役に回っているが、魔法アタッカーとしても優秀だ。
『火魔ほ……』
「ぅおーい!!」
「いらないこと言うから釣られちゃったじゃん!」
エミリーは頬を膨らませた後、息をフゥと吐き出し、気を取り直して杖を構える。彼女の目が真剣な光を帯びた。
『風魔法 |殺戮の斬風《ウインド オブ スレイ》!』
無数の風刃が、風切り音と共にトレントを襲う。あっという間に薪サイズに切り刻まれた。
「Dランクに対してえげつない魔法使うんだな……」
オレが呆れていると、エミリーが遠くを指差した。
「あっ! あっちにイノシシいるよ!」
エミリーは即座に杖を振り抜く。
『風魔法 風の矢!』
細く鋭い風の矢がイノシシの頭を貫通し、少し走ってから倒れた。
「うん、威力も精度も上がってる!」
「オレ何もしてねーよ……」
トレントの薪とイノシシをエミリーが異空間に収納し、オレたちは傷を付けた木を頼りに慎重に引き返した。




