表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
- Mixed blood -  作者: Dave-show
序章
1/25

受け継いだ刀


 窓から差し込む暖かな朝陽が、静まり返った家の中を満たし始めた。けれど、その光はオレの心にある重い影を晴らしてはくれない。

 

 ダイニングの椅子に腰かけたまま、一本の刀と、その横に置かれた一通の手紙を、もうどれくらい見つめ続けているだろう。

 

 父さんは昨夜、本当に久しぶりにこの家に帰ってきた。最後に顔を合わせたのがいつだったか、もう思い出せないほどに。

 でも、昔のように「ただいま」の一言もなく、ましてや笑い合うこともなく、ただこの刀をテーブルに突き刺すように置いた。そして、一方的にオレに言葉を投げた後、一度も目を合わせる事なく、まるでオレの存在そのものが重荷であるかのように、奥の部屋へ消えていった。

 

 そして夜が明ける前に、父さんはこの手紙を残して、また姿を消していた。

 まるで、忌まわしい何かから逃げるように。


 手紙には、震えるような筆跡でこう書かれていた。


『俺はもうこの家には戻らない。今まで伏せていた事を伝えよう。お前は、ある種族の血を引いている。リーベン島へ行け。その春雪が、お前と島を繋いでくれるはずだ』

 

 リーベン島。そして『春雪(しゅんせつ)』。

 父さんが若い頃に使っていたというこの刀は、闇を溶かし込んだような艶のある黒い鞘に収まっている。そっと引き抜くと、朝陽を冷たく反射して、直刃(すぐは)の刃紋が静かに浮かび上がった。

 まるで、持ち主の心を映すかのように、それはただ美しく、そしてどこまでも冷徹だった。

 

 ある種族の血を引いている……?

 馬鹿な、おとぎ話じゃあるまいし。オレはただ、狩猟者協同組合(ハンターギルド)で日銭を稼ぐしがない狩猟者(ハンター)だ。特別な血なんて流れているはずがない。

 

 ふと、脳裏に一つの物語が浮かび上がる。

 本棚に並んだ、一冊の古びた絵本。小さい頃、毎晩のように母さんが優しい声で読み聞かせてくれた物語。その声が、今でも耳の奥にこびりついて離れない。

 有名な物語の始まりの一節が、まるで呪いのように口をついて出た。



  昔々の物語

  四つの種族の物語

  人がまだ生まれぬ遥か昔

  世界を分けた四人の王


  『鬼王(きおう)』は猛り

  『仙王(せんおう)』は憂い

  『魔王(まおう)』は企み

  『龍王(りゅうおう)』は嘆く

 

  それぞれの国を守るため

  生まれし我が子を戦わせ

  憎しみ合っては命を散らす

 

  これは悲しいこの世の(ことわり)

  『始祖四王(しそよんおう)』の物語



 

「ある種族の血……か」

 

 乾いた笑いが口から漏れた。

 まさか、父さんは始祖四王(しそよんおう)に連なる種族だっていうのか?

 

 優しい父さんと、明るい母さんとの思い出が詰まったこの家に、オレはとうとう一人で残された。

 

 父さんはどこへ消えたのか。

 オレの血に隠された秘密とは何なのか。

 そして、あの悲劇の日に……母さんは一体何からオレを守ったのか。

 

 全ての答えは、その島にあるんだろうか。

 オレは『春雪』を腰に差し、静かに立ち上がる。

 

 ただの狩猟者(ハンター)として生きてきたオレの日常は、今、音を立てて崩れ去った。

 新しい旅が、夜明けとともに始まる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ