受け継いだ刀
窓から差し込む暖かな朝陽が、静まり返った家の中を満たし始めた。けれど、その光はオレの心にある重い影を晴らしてはくれない。
ダイニングの椅子に腰かけたまま、一本の刀と、その横に置かれた一通の手紙を、もうどれくらい見つめ続けているだろう。
父さんは昨夜、本当に久しぶりにこの家に帰ってきた。最後に顔を合わせたのがいつだったか、もう思い出せないほどに。
でも、昔のように「ただいま」の一言もなく、ましてや笑い合うこともなく、ただこの刀をテーブルに突き刺すように置いた。そして、一方的にオレに言葉を投げた後、一度も目を合わせる事なく、まるでオレの存在そのものが重荷であるかのように、奥の部屋へ消えていった。
そして夜が明ける前に、父さんはこの手紙を残して、また姿を消していた。
まるで、忌まわしい何かから逃げるように。
手紙には、震えるような筆跡でこう書かれていた。
『俺はもうこの家には戻らない。今まで伏せていた事を伝えよう。お前は、ある種族の血を引いている。リーベン島へ行け。その春雪が、お前と島を繋いでくれるはずだ』
リーベン島。そして『春雪』。
父さんが若い頃に使っていたというこの刀は、闇を溶かし込んだような艶のある黒い鞘に収まっている。そっと引き抜くと、朝陽を冷たく反射して、直刃の刃紋が静かに浮かび上がった。
まるで、持ち主の心を映すかのように、それはただ美しく、そしてどこまでも冷徹だった。
ある種族の血を引いている……?
馬鹿な、おとぎ話じゃあるまいし。オレはただ、狩猟者協同組合で日銭を稼ぐしがない狩猟者だ。特別な血なんて流れているはずがない。
ふと、脳裏に一つの物語が浮かび上がる。
本棚に並んだ、一冊の古びた絵本。小さい頃、毎晩のように母さんが優しい声で読み聞かせてくれた物語。その声が、今でも耳の奥にこびりついて離れない。
有名な物語の始まりの一節が、まるで呪いのように口をついて出た。
昔々の物語
四つの種族の物語
人がまだ生まれぬ遥か昔
世界を分けた四人の王
『鬼王』は猛り
『仙王』は憂い
『魔王』は企み
『龍王』は嘆く
それぞれの国を守るため
生まれし我が子を戦わせ
憎しみ合っては命を散らす
これは悲しいこの世の理。
『始祖四王』の物語
「ある種族の血……か」
乾いた笑いが口から漏れた。
まさか、父さんは始祖四王に連なる種族だっていうのか?
優しい父さんと、明るい母さんとの思い出が詰まったこの家に、オレはとうとう一人で残された。
父さんはどこへ消えたのか。
オレの血に隠された秘密とは何なのか。
そして、あの悲劇の日に……母さんは一体何からオレを守ったのか。
全ての答えは、その島にあるんだろうか。
オレは『春雪』を腰に差し、静かに立ち上がる。
ただの狩猟者として生きてきたオレの日常は、今、音を立てて崩れ去った。
新しい旅が、夜明けとともに始まる。




