表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

02:[His Side]

ネガティブ風味があるので、そういう話が苦手な方は、閲覧注意願います

今夜も訪れる、静寂の刻。

一緒にソファに座っている彼女との会話が途切れ、リビングがしんと静まり返る。


ぼーん・・・


聞きなれた柱時計の音が、現在の時刻を告げる。

もう夜の10時か・・・。


ふと、肩に何かが当たった。

彼女の頭だ。

・・・眠いのだろうか?疲れているのだろうか?


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


私と彼女は、ひとつ屋根の下で暮らしている。

でも、恋仲という訳ではない。

我ながら奇妙な関係だと思う。


でも、自分の心情に変化が現れてきた。


私はとても不器用な人間だ。

彼女は何故か私の側にいてくれ、あまり細かい所に気の回らない私に変わって、身の回りの世話をしてくれている。

本当に、不思議な女性ひとだ。

こんな人間に接しようとするなんて・・・。


"・・・どうかなさいましたか?"

迷った挙句、私は彼女に声をかける。

「・・・いいえ」

"お疲れなのでしたら、もうお休みになられた方がいいでしょう"

「・・・そうですね。そういたしますわ」

"おやすみなさい。良い夢を"

「はい。おやすみなさい・・・」

彼女は、少し残念そうにしていた。


いつもの光景。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


私の人物像を簡単に言ってしまえば、「人間不信」「嫌世感の塊」のふたつで片付く。

現に、既にもう「死」を見据えている。

ポーカーフェイスのせいで、思考が読めないらしく、何を考えてるのかわからないらしい。

そのおかげで、カードは負けたことがないのが唯一の自慢だったりもするのだが・・・。


孤独を愛するが、何故か寂しがりやでもある。

これは彼女を住まわせたひとつの理由でもある。

「他人を巻き込みたくない」と言う思いから・・・

いや、「他人に頼った所で何になる」という思いがあって、他人に頼る事もしない。


そして、

一番恐れているのは、「自分の言動で他人を傷つけてしまう」事だった。


一度、私の仕打ちが原因で、昔の恋人を失ったことがあった。

それから、「自分の一挙一動で相手を傷つけてしまうのではないか」という恐れに付きまとわれるようになった。

だから、私は他人も自分も信じることができない。

矛盾した思考に苦しさを感じると共に、この苦しさが私をこの世から解放してくれるのではないかと言う淡い期待を込めていた。


そんな時に、私は「彼女」と出会った。

最初は私に接してきた「彼女」を恐れていたが、私に親身になってくれる彼女に徐々に心を開くようになった。


・・・正直に言おう。

私は、彼女を愛している。


「一緒に住みませんか?」

私の提案に、彼女は驚きつつも承諾してくれたのだった。

だが、生まれついての不器用さを本領発揮。彼女の心情がつかめず、また好意をうまく伝えられずに日々悩んでいる。

彼女もまた困惑しているようで、表情が曇ることが度々あった。


そして、現在に至る。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


そっと彼女の寝室に入る。

彼女の寝顔は本当に可愛らしい。

そっと、頬に触れる。


何度これを繰り返しただろう。

ここから先に踏み出す勇気が、私にはない。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


「全てを捨てて、私は孤独な終焉を迎えるつもりです」

私ははぽつりと、そんな事を漏らした。

ラジオから流れてきた音楽が発端だった。

一瞬「しまった」と思ったが

"そんな事おっしゃらないで下さい"

彼女は苦笑しながら返す。

どうやら冗談だと思ってくれたらしい。

ホッとしつつも、私は抱えている苦しさをとどめておく事ができなかった。

「『人知れず、この世からいなくなる事』これが私の望みであり、願いなんです」


まただ。またあの時と同じだ。

昔の恋人の時と一緒だ。


"そんな・・・"

彼女は更に苦笑する。

取り繕うように、私は彼女に聞いた。

"では、あなたの願いは、何なのですか・・・?"

「それは・・・」



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


深夜。

寝室兼書斎で読書をしていた時、唐突に頭を掠めた。

彼女と出会って間もない時の事だった。


あの時見せた彼女の表情が、昔の恋人の浮かべた表情と酷似していた。

眠っていたはずの苦しさが、ぶり返してきた。


それも、何倍にも膨れ上がって。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


ある日の事。

苦しさが臨界点を突破した。

これ以上、こんな苦しさに縛られるのは嫌だった。

もう、疲れた。


"ここであなたとはお別れかもしれません"

突然のことに、彼女は驚きの表情を浮かべた

旅に出ると、突然言いだしたのだから、無理もない事だった。

「私も、ご一緒してもよろしいでしょうか?」


彼女の問いに、私は首を左右に降った。

私は自ら命を絶つつもりでいる。

そんな所を彼女に見られたくなかった。


トランクを持ち上げ、玄関に差しかったとき。


「わた・・・は・・・で・・・ら・・・」

「・・・?」

彼女の呟きに、私は足を止めた。

瞬間。

彼女は私の背中にしがみついてきた。

「あなたを必要としている者は、あなたの目の前にいます」


え・・・?


「お願いですから、死んでしまいたいほど苦しいのなら、悲鳴をあげて下さい」

私は振り向いた。

彼女の頬に涙が伝っていた。

「弱気なことを言って笑う者など、ここにはいません」


彼女の表情が、昔の恋人の表情とオーバーラップした。

嫌だ・・・嫌だ・・・見たくない!


"私は・・・そんな事・・・"

私は彼女を離し、トランクを手にした。


彼女はそれでも私の後を追ってきた。

慌ただしい靴音が何よりの証拠だ。


「もう二度と会えないのでしたら!」

私の足が止まる。


「一度だけでもいいですから・・・これっきりでいいですから・・・」


「お願いです・・・私を名前で呼んで下さい・・・・・・・」


私は息を飲む。

昔の恋人の願いと、同じ事を彼女は言った。

昔の恋人を失った、最大の理由・・・

それは、恋人を名前で呼ばなかった事。


「これが私の、一番の願いなのです・・・」


動揺を抑えながら、私は振り返った。

彼女は号泣していた。

しゃくりあげる彼女を見て、私は困惑した。


でも

こんな人間でも、必要としてくれている。

"あの人と、同じ思いをさせたくない!"

自分でも信じられないほどの、感情の奔流だった。

そして

私は強く、強く、彼女を抱きしめていた。

「****さん・・・」

彼女の名を呼ぶ事は、私にとって「彼女に一歩近づきたい」という願いでもあった。


突然の事に、彼女は驚いていた。

当然だろう。いきなりこんな事をされれば。

でも、彼女は私の胸に顔を埋めてきた。

それが とても 愛しい。


「ごめんなさい。私は****さんの気持ちを知っていたのに・・・こんな事を・・・」

負の感情を向けてしまった申し訳なさと、私と同じ気持ちだったという嬉しさとがないまぜになって、胸が詰まりそうになる。


しばらく、私達は抱き合っていた。


時計の針がひと目盛り動いて・・・

私は彼女を解放した。

彼女もそっと私から離れた。


"もう、行ってしまわれるのですか?"

彼女は聞いた。

殉教者のような、諦めを含んだ穏やかな微笑みだった。

ここまで私を思ってくれている人を、捨てられるわけがない。

捨てられない。

私は首を横に降った。


彼女は驚き、しばらくしてからこう聞いてきた。

「これからも、私をあなたの側に置いて下さいますか?」

彼女の問いに、私は微笑む。


"あなたと私が出会ってから、今まで過ごしてきた時間が、私の答えです"


そして、改めて

"私の 側に いてください"

私は彼女にお願いした。


彼女の目からは新しい涙がこぼれてくる。

涙を拭おうとして・・・私が彼女の涙を拭った。

彼女は少し驚き、そして、はっきりと肯いたのだった。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


数年後

あのときから少しずつだが、本音を小出しにするようになっていった。

時々トンチンカンな事を言ってしまう事もあるが・・・彼女は笑ってくれる。

少しズレているかもしれないが、それでも私は嬉しかった。


ふと、肩に何かが当たった。

彼女の頭だ。

何も考えず、私は彼女の頭をそっと抱き寄せる。


私の、愛しくて大好きな時間。


fin...


「近くて、遠くで・・・[His case]」

最後までお読み頂き、ありがとうございました。



前回で、「全て補完する」と宣言しましたが・・・。

最大限努力しましたが・・・補完されてます?

ご不明な点がございましたら、コメントして頂ければと思います。



*登場人物設定


31歳・男性。

一人称は「私」

天涯孤独で、率直に言ってしまえば(文章中にもあるのですが)人間不信・嫌世感の塊。

プラス、彼女に言わせれば「世捨て人」。

「泉の森」と呼ばれる森の奥深くにある家で、独り暮らしをしていた。


本人は意識していないが、ポーカーフェイス。

その為、カードでは負け知らずという裏設定があります。

(さらに語るのであれば、ノーペアにも関わらずチップを上乗せし、相手を降参させたという設定です)


・孤独であることを好むが、寂しがり屋。

・「他人に頼っても無駄」という思いから、何もかも自分で背負い込んでしまう。

・過去の体験から、「自分の言動で相手を傷つける」と事を極度に恐れている。

 このトラウマから、自分も他人も信じることができずにいる。


矛盾した性格、そして歪んだ優しさと強さの持ち主。


そんな自分に接してきた「彼女」を恐れていたが、徐々に心を開いていくようになる。

最初は昔の恋人の面影を「彼女」に見出していたが、だんだん「彼女」として愛するようになっていく。

だが天性の不器用さが災いし、うまく「彼女」の心情を読み取れず、また自分の好意をうまく伝えられずに悩む毎日を送っている。




*彼女(****)

29歳・女性。

一人称は「私」。

たまたま「彼」の家の敷地内に迷い込んだ事から「彼」と知りあった。

面倒見がよく、気配り上手で忍耐強い性格のため、「彼」の身の回りの世話を引き受ける事となる。

事実上、彼と対等な立場にありながらも、彼のメイドに近いポジションにある。


最初は不気味に思っていた(初対面で「彼」を幽霊と間違えたほど)「彼」だったが、「ある出来事」がきっかけで「彼」に想いを寄せるようになる。

「彼」の言動に困惑しながらも、そっと見守りながら一途に「彼」を想い続けている。


「彼」の微笑んだ顔が大好き。



こんな感じです。


女性目線で、独りよがりな男性を慕う感じにしたかったので、少々男性の方の設定を細かくしました。

「女性にそう思わせる男性像って、どんな性格なんだろう?」


考えた結果、このような性格になっていました。


*補足

このお話は、歩の別作品と微妙にかすり程度にリンクしています。

さて、何でしょう?w


ヒント:登場人物設定


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ