三日目:上流作家のしろばんばさん
三日目。
三人目のなろう作家しろばんばさんは、なんと今、高校を下校途中なんだって。
高校生のなろう作家さん。一体、どんな人なんだろう。
駅で待ち合わせる。
あ、来た。
「すいません、遅くなりました」
いえいえ大丈夫です。
「じゃあ、歩きながら……」
しろばんばさんの家までついて行こう。
しろばんばさんがなろうに投稿したきっかけは?
「友達と、ゲーム感覚で始めました。どっちが高評価を叩き出せるかって」
えっ。そんな感じで?
「なろうはゲーム性があります。よくあるテンプレをカスタマイズして行く感じから始めました二年前に」
へー、高校一年から書いてるんだ。
しろばんばさんの家に着いた。あっ、お母様どうもすみせん、上がらせていただきます。
しろばんばさんの作品を見せてもらう。
うわぁ、多作ですね!56作品?
「そうでもないですよ」
今連載中のは、ハイファンタジー。〝【連載版】穀潰しだとギルドから追放された多言語マスターの俺、最強呪文の発現方法を記すエルフの古代文書を解読完了。今更戻って来いと言われても、エルフの村でスローライフしているのでもう遅い〟?凄い、3万ptあって、ランキング20位!
「一度短編で様子見して、評判が良かったから連載化しました」
そんな方法もあるんですね。
「見て貰えないとしょうがないですから。時間もないし」
ん?このランキング、〝もう遅い〟だらけですね。
「最近流行りのワードなんですよ」
中身も似ているのかな?
「基本構造は一緒ですよ。自分を侮った相手を後悔させるっていう流れです」
同じものばかり並んでて、読者はつまらなくないのかな?
「んー、その考え方は、僕はしません。今は昔みたいに、コンテンツを一方から押しつけられるってことがないんです。みんな、検索を上手く使って、いいと思ったものしか見ない。ランキングはその連続ですから、〝もう遅い〟がランキングを占めるのにも理由があります。みんながそれを探しているから、こうなっているわけです」
そっか。誰かが探した結果が、ランキングなんだね。
「ランキング批判してる人って、誰かにどうにかしてもらいたいって言うばかりで、自分から動こうとしない。本当にランキングを憂うなら、自分で書いて別のムーブメント作るとか、別の評価サイト立ち上げたりするはずですよ。何なら運営に文句言ったっていいんです。ホットワード使ったランキングだけ、一時的に作ろうよ、とか。前に異世界転生転移を分けたようにね」
確かにランキング批判したところでブームは変わらないですもんね。
「タピオカが流行ったからって、怒ったり憂いたりしてる人います?お前タピオカ量産すんなよ、とか」
あはは、いないです。
「タピオカよりもっとウメーもん流行らせようぜとか、タピオカよりウメーもん紹介するぜ!という話なら分かりますが……ま、そんな感じで僕ら、タピオカ量産中なわけです」
〝もう遅い〟はタピオカですね。
「タピオカも大概〝もう遅い〟ですけどね」
今の作品は、そろそろ完結ですか?
「そうですね。毎日更新を続けてて、来週には終わりますよ」
完結させると、喜びもひとしおでしょう。
「んー、でもこれは、書籍化の声が掛からなそうだから完結させちゃいますという、後ろ向きな完結ですね」
どういうことですか?
「一度総合日間5位まで来たんですが、そこからひと月経っても書籍化の声が掛からなかったんですよ」
ひと月?
「爆発的に評価が上がってからひと月が目安なんです。そこで声が掛からなかったら、ダメなんだなーと。だからこれ以上やってもランキング落ちるだけなんで、完結させます」
書籍化が目標なんですね?
「そうですけど、これがなかなか」
道のりは長いですね。
「何だかんだ、〝もう遅い〟は見限られてます。ざまぁものって、ストーリーを引き伸ばせないのが難点なんですよ。でも復讐とかまで重くすると、見て貰えない……さくっと、読者を気持ちよくさせないと」
見て貰う、努力。
「本当にそれだけですね。なろうは、それ以外ないですよ」
そのために、しろばんばさんは何をしてるんですか?
「研究です。流れを見て、ランキングからホットワードを探し出して、それをタイトルに組み込む。もはや難易度の高いクロスワードパズルです。それを短編にして、まずはタイトルの引きを見ます」
何だか小説を書くと言うより、マーケティングみたい。
「そうですね。でも僕は、短編は、きちんと完結させますよ。序章だけ載せるのは、絶対やらない」
あれ?短編って、完結しているものを言うのでは……?
「みんな時間がなさ過ぎて、短編すら終わりまで書きません」
凄いですね!
「速さが重要です。流行を速く捉えて、速く書く。なろうは書くスピードが速ければ速いほどいい。ランキングに留まり続けられますから」
でもそうなると、文章の質が落ちませんか?
「文章ってそんな重要ですか?文学的な文章書くより、分かりやすい文章書いた方が読まれますよ。大体、小説が売れないのって、何かと高尚にし過ぎたからじゃないですか。ブンガクの何がそんなに偉いんだって感じですよ。正直、ムラカミ読んだって僕らちんぷんかんぷんですよ。メタファーに次ぐメタファー、例え話に入れ子構造。着いて行ける読者の方が本来稀でしょ」
そうかもしれないね。
「文章は、もっと手軽に消費されていい。それを教えてくれたのが、なろうなんです」
そっか、文章を手軽に消費出来るのが、なろうのいいところなんだね。
「これからも、流行りものを量産し続けますよ。そこでファンがついたら、自分がムーブメントを作る側に行きたいですね」
それ、前に別のなろう作家さんもおっしゃってました。
「みんなそう思うんじゃないですか?ブーム作れるのも、なろうの醍醐味ですもんね」
確かにお金をかけずにブーム作るのって、凄いことかも。
「なろうにしか出来ないことがあるから、ここで書いているんです」
なるほど。
お話聞かせてくれて、ありがとう。
「いいえ」
そうか。見られるための努力って、つまり読者に楽しんでもらいたいってことなんだ。
なろう作家にしか出来ない楽しみって、いっぱいあるんだなぁ。
♪〜END〜♪