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デスサイズ  作者: LALA
Episode5 連鎖
20/118

連鎖5

 


 翌日


 如月高校 2年A組 教室内




 全校集会で、小野寺 詩織が自害したことが知らされた。


 さすがに詳しい死因は伝えられなかったが、教師の死に生徒達は驚きを隠せない。



 だが、鈴には更にショックが大きい出来事があった。



 今朝のニュースで取り上げられていた、麻薬の接種による心臓発作で亡くなった女性。


 その死亡した女性は、昨日伸也と一緒に居た恋人だった。


 しかも、遺体が発見された場所は伸也と共に入って行ったラブホテル。



 鈴はどうしても女性の死に、伸也が関与していると思えて仕方なかった。




「…………橘? 大丈夫か?」



 考えに耽(ふけ)っていた鈴だったが、黒斗が声をかけてきた為に思考を中断させられた。



「あっ……どないしたんクロちゃん」


「……疑ってるんだろ、竹長の兄貴を」



 考えを見透かされ、鈴が黙ってうつむく。


「……そないなこと、あらへん。あの優しい伸也さんが……まさか……」


「……だけど、裏では何をやってるか分かったもんじゃない……って?」



 昨日、大神が言っていた言葉を黒斗が紡いだ。


 ちなみに当の本人は、今日は欠席である。




「……ウチ、今日の放課後に伸也さんと会おうかなって。直接会って話をして、本当に……伸也さんが関わっているかを確かめよう思って……」


「……やめておけ。伸也が関わってるとしたら、根掘り葉掘り聞いてくるお前に危害を加えてくるかもしれない」



 “危害”という言葉に鈴の肩がビクリと強張った。




「……………………」


 泣きそうな表情の鈴。




 伸也への信頼と疑惑。


 安心感と恐怖。




 2つの矛盾(むじゅん)する気持ちに精神が疲弊(ひへい)しているようだった。




 ───信じたい。



 ───だけど、信じられない。




 そんな感情が心の中で堂々巡(どうどうめぐ)りして、終わらない。



 今の泣きそうな顔を見られたくなくて、唇をキュッと噛み締めてうつむく鈴。



 すると、頭に手を乗せられる感触がした。


 チラリ、と上目で黒斗を見ると予想通り、彼の手が鈴に乗せられていた。




「……前も言ったが、お前は純粋で優しすぎるんだ。だから人一倍悩んで、傷ついてしまう」



 ゆっくりと動かされた手のひらが、鈴の頭を優しく撫でていく。


 女性のように細く色白な手なのに所々がゴツゴツしていて、やっぱり男の子の手やなあ、と鈴は思った。



「……あまり気負うな。そんなんじゃ、疲れるばかりだぞ」


「……うん」




 強張っていた肩がほぐれ、噛み締めていた唇を戻す。


 頭を撫でる手は冷たいけれど心地よくて、とても安心するものだった。



「だああああーー!!」



 奇声をあげながら、黒斗と鈴の間に割って入ってきた男が1人。


 鈴に好意を寄せる内河だ。




「なにっ! やってんだよっ! ナデナデなんか、やっちゃって! イーヤらしーいっ!!」



 興奮状態の内河は、顔を真っ赤にしながら黒斗に詰め寄った。



「お前みたいな変態紳士は、金輪際(こんりんざい)橘に触るんじゃなーいっ!! 橘に変な病気が移ったら責任とれるのか!? とれないだろーがー!!」



 頭を両手で抱えて上を向きながら、内河は叫ぶ。


 そんな彼を周りの生徒達がクスクス笑いながら見つめているが、内河は気づいていない。



「橘の綺麗な髪が月影の変態菌で汚れてしまったじゃないかっ! 今すぐ洗い落とさないと……むしろ、俺が洗い落としてやりたいっ! ……ん、つまり橘とお風呂……? ブボッ!」



 しまいには変態じみた心の声を叫びつつ、いかがわしい妄想をして鼻血を出す始末である。


 これが美青年だったら“残念なイケメン”で通っただろうが、内河は顔も残念だから救いようがない。



 鼻血を流しながら絶叫し続ける内河を、黒斗は冷めたような目で見つめ、鈴は苦笑いする。



「……本物の変態に変態と呼ばれたくはないな」


「アハハ……」



 雰囲気をぶち壊され、すっかり萎(な)えてしまった2人は授業の準備を始める。




「……クロちゃん、気遣ってくれておおきにな」


「…………ああ」




 心地よかった黒斗の手の感触を名残惜しく思いながらも、鈴は笑顔で礼を述べるのだった。




******




 午後23時4分




(……そろそろ、約束の時間か)




 自室で横になっていた伸也は身体を起こし、パジャマから外出着へ着替えると部屋を出て、忍び足で廊下を歩いた。




「兄ちゃん」



 背後から恵太郎に声をかけられ、伸也の心臓が一瞬跳ねた。



 トイレに起きたところを出くわしたのか、物音を聞きつけたのか――どちらにしろ最悪だ。



「……出掛けんの? 今日、仕事休みじゃなかった?」


「ちょっと、用事があってね」


「……そっか」



 振り返らずに伸也が言うと、恵太郎はそれ以上追求してはこなかった。



「兄ちゃん……幸せになれよ」


「えっ? うん?」



 恵太郎の言葉の意味が理解出来なかったが、とりあえず伸也は頷き、逃げるようにその場から去って行った。




(……これでいいんだ。兄ちゃん、相手を大切にしろよ……)




 遠い目をしながら、恵太郎は心の中で伸也にエールを送った。




******




 とあるラブホテル内――




 伸也はメールで指定された部屋の前に立つと、控えめにノックした。



「どうぞ~」


 部屋に入るよう言われ、伸也はゆっくりとドアノブを回して扉を開く。




「こ~んば~んわぁ~。伸さん、お疲れさまぁ」


 芽衣は椅子に腰掛けながら缶ビールを飲んでいた。


 テーブルの上には3個ほどビールの空き缶が散らかっており、芽衣は長いこと部屋に居て飲んでいたことが分かった。



「おやおや、ご機嫌だね。ちょっと飲みすぎじゃない?」


「だいじょーぶ! 芽衣はお酒に強いんだからあ!」


 嗜(たしな)める伸也だったが、芽衣は手にしていた缶ビールを一気に飲み干した。


 グビ、グビと良い音を鳴らしながらビールは芽衣の喉を通っていく。



「プッハアア! さ~いこ~!」


 空になった缶を床に投げ捨てゲラゲラと芽衣が笑う。



「もう……全部終わったからってはしゃぎすぎだよ」


「別にいいじゃなーい! 伸さんも飲んで飲んで! 乾杯しよっ!」


「はいはい」



 伸也は笑いながら、部屋に備え付けてある冷蔵庫に向かった。



(……今日でアンタにブリッ子しなくて済むんだから、はしゃがないでいられるかっての!)


 冷蔵庫の中を漁る伸也の背中を笑いながら眺める芽衣。



(……あとは、コレをどーやって入れるかね……)



 ミニドレスの腰辺りに付いているポケットを手で擦(さす)り、中に入っている小瓶の感触を確かめる。


 小瓶の中身は小野寺と光が命を落とす原因となった麻薬であり、成人男性の致死量分が入っていた。



(……とりあえず、アイツを先にシャワーでも浴びさせて、その間に飲み物にでも入れておこっと)


 伸也から聞いた、小野寺の時の犯行手順を参考に芽衣は作戦を決める。



 ニヤニヤしながら伸也の方を見ると、彼は笑いながら2本の缶ビールを手にしてこちらへ歩み寄ってきていた。



(何も知らずにノコノコと……今日がアンタの命日よ!)


 爆笑を堪えつつ、芽衣は伸也から缶ビールを受け取る。



「開けておいたから」


「さっすが伸さん、気がきくう! それじゃあ……かんぱ~い!」



 缶を当てて、2人は祝杯をあげ始めた。



 ハイテンションの芽衣は缶に口をつけると、そのまま首と手を上げて、また一気飲みをした。



「プハアア!」


「一気は身体に悪いんだよ?」


 酒飲みのオヤジのごとき豪快な芽衣の飲みっぷりに、さすがの伸也も引きぎみだ。



「いーの、いーの! ほらあ、伸さんも一気しなよお!」


 さっさと飲ませてシャワーを浴びさせようと、芽衣は伸也を急(せ)かす。


 いつもより不自然な芽衣の態度だが、伸也は気にせず「仕方ないなあ」と苦笑を浮かべて、ビールを一気に飲み干した。



「わー! ごうかーい!」


 軽く拍手を送る芽衣。



「じゃあ伸さん、さっそくヤろっ! 先にシャワー浴びてきて!」


「え、もう? まだ早すぎないかい?」


 いつもなら芽衣の言う通りに従う伸也だが、今日に限ってヤるにはまだ早いと、腕時計を見ながら言い出した。



「え~、そんなことないよ~ヤろ~よ」


 ブーブーと不満を露にするが、やはり伸也は首を縦には振らない。


「まだ気分がのらないんだ、ごめんね。……あ、そうだ! 山根の最期を聞きたくないかい?」


「あ、うん! 聞きた~い」


「やっぱり? じゃあ詳しく教えてあげるね!」



 今回の手口を我ながら上手くやったと思っているのか、光を始末した時の状況を生き生きと事細かに語り始めた。


 芽衣としてはさっさと伸也を始末したい所だったが、あまり急かしては怪しまれると思い、渋々話を聞く。



(…………めんどくさっ!! 別に興味ないっての!)


 舌打ちをしたくなる衝動を抑えつつ、笑顔を張り付けて伸也の話を聞き続ける。



 話をしている最中、伸也は腕時計を何度もチラ見しており、その仕草が芽衣を更にイラつかせた。




「……と、言う訳だよ」


 話を終えた伸也が一息つく。


 一方、芽衣はハアハアと荒い呼吸をしており顔色も青い。



 今まで話に夢中で気づかなかったのか、ようやく伸也は芽衣の異常に察し、席を立って近づいた。




「どうしたの!? 真っ青じゃないか、具合が悪いのかい!?」


「……んーん。だいじょーぶ……多分、飲みすぎ…………頭が痛いし重いし……気持ち悪いし……」


 片手で目元を覆う芽衣。




 大丈夫だと口では言っているが、まるでメリーゴーランドに乗っているように視界はグルグル回り、吐きたいのに吐けない気分の悪さだった。


 実は伸也の話を聞いている途中から気分が悪くなっていたのだが、ただ酔いがまわっただけだと思い気にしていなかった。


 その結果が体調の更なる悪化である。




「……病院に行った方が良いんじゃないかな」


 心配そうに呟かれた言葉を、芽衣は首を振って拒否する。


「へいき、だってば。少し横になれば治るから……」


「でも……」



 痺れを切らし、芽衣は立ち上がって伸也をシャワールームに向けて押し始めた。




「いーから、伸さんは早くシャワー浴びてきて! 芽衣はその間に休んでるから!」


 なされるがままに扉の前まで押された伸也は、仕方ないと言う風に溜め息を吐いた。



「……分かったよ。でも、本当に具合が悪かったら言ってね」



 伸也はそう言うと、シャワールームへ入って行った。


 水が流れ落ちる音を確認すると、芽衣はフラつきながら冷蔵庫に向かう。




(はやく、はやく、アイツが戻る前に……!)



 缶ビールのプルタブを開けようとするも、震える指に力が入らず上手くいかない。


 急がなければならないのにプルタブすら満足に開けられない自分に苛立ち、余計に手間取ってしまう。




「……っぐ!」



 胃の中の物が逆流してくる感覚と同時に芽衣が口を押さえる。


 何とか喉元で止まり、吐き出さずに済むが具合は悪化していく一方だ。


 目眩の激しさはメリーゴーランドからジェットコースターに変わり、空気もロクに吸い込めない。




「はーっ……ハッ、ハアハア…………」


 冷や汗が顔を伝い、ポタポタと床についている膝に落ちていく。



 プシュッ



 ようやく缶ビールを開け、ポケットから小瓶を取りだす。



 だが――




「ハッ、ハッ…………あっ!」


 ガタガタ震える指から小瓶が滑り落ち、床へと落下してしまったのだ。



 パリンという嫌な音と共に、脆(もろ)い小瓶が粉々に砕けて中の粉が散らばった。




「ウソっ! ウソウソ、そんなあ!!」


 思わず絶叫してしまう芽衣。


 散った粉を寄せ集めようとするが、ベットリと床に付いていて取れない。



「ろうしよう、ろうしよう。これがなきゃ、アイツがっ、くろせないよおっ」


「そんなに叫んでどうしたの?」



 穏やかな声が耳に届き、身体の芯から冷え込んでいく感覚がした。


 おそるおそる振り向くと、伸也が芽衣を見下ろしていた。




「じ、んざんっ……!」


 慌てて床の瓶の破片と粉を身体で隠す芽衣。


 呂律(ろれつ)がまわらないのは、動揺しているせいだろうか。



「お、なえり……あやかっだ、ね……!」


 平常(へいじょう)を装うとするが、舌は動かず唇が動く度に唾液が零れる。




「今、アイツが殺せないって言った? もしかして、アイツって僕のこと?」


「ち、ちがうよおぉ!」


「その麻薬を缶ビールにでも混ぜようとしたんでしょ? 僕が言ってた小野寺に麻薬を混ぜた方法を元に考えたんだろ」



 淀(よど)みなくスラスラと紡がれた伸也の言葉に芽衣は絶句した。




 ───バレている。



 ───どうして? いつから?




 疑問だけが芽衣の脳内に浮かぶ。


 心臓がドクンドクンとやかましく鳴り響く。




「……プッ」


 不意に吊り上がる伸也の口角。




 ───まさか。




「クックック……」


 爆笑を堪えるように片手で顔を覆う。




 ───最初から?




「アッハハ……ハッハッハ、アーッハッハッ!」


 何がそんなに可笑しいのかと思う程、伸也は大声で笑いだした。



「あー……もう限界っ……そんな絶望的な顔で見つめてくるとか反則だよー……ククッ……おっかしー」


 目尻の涙を拭いながら、伸也は別人のような不気味な笑みを浮かべた。



「本当に……相変わらずのバカだねえ! 僕を操っていたつもりで、逆に僕の手のひらの上で踊らされていたことに気づかなかったなんてさっ!!」

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