「その理由は、信念の齟齬、ですかね」
23回目投稿です。話を二つに分けて間に数行挟み投稿。
漸く話が進みます。
「私の一族が、というと語弊がありますか。私の同胞の一部が、ビルギンスの制圧と大精霊の開放をその目的に、行軍しています。」
数人の依頼者を前にフードを脱ぎ、認識疎外の効果を無にしたアルタは、その驚きが冷めぬうちに、それを些末な事だ、と思わせる事を口走った。
が、その驚きに思考を硬直させたのは、コルタクだけであった。
部外者であるにも関わらず、心細いと頼まれたコルタクは」、アルタの要望で、盗み聞きのされない場所へ依頼者たちに案内されたのだ。
思わぬ事に静止したコルタクは、固まったままの頭で周囲を見、気づいた。
誰一人として呆けた顔を晒さず、アルタの言葉に納得の表情を浮かべ頷いていた。
「やっぱり、ですかあ」
「んまあ、そうなるわな」
「だがしかしわたがし、全体像が一向に見えないというのは」
「果ての岩壁の上を渡ってるわけは無いだろうから人の少ない時期を狙って森の奥を進んでる、て言うのが一番妥当なとこか」
「イロノアは鉱山で囲まれてるから、こちらで把握し切れてない道もある。荒野からサディアも地形の凹凸が激しいしな。隠れやすいのは隠れやすいか」
「わたがしはスルーか。嫌でも軍、って言う位だ。少数はあり得ないだろう?そんな大勢で動ける程見渡し悪かないぞ。なあ、えっとアルタさんだっけか、どうなってる」
「ええ、恐らく術者の周りにいれば存在感を薄めるような魔法を使用しているのでは、と。このローブを仕立てた小鬼も行軍に加わっているはずですから」
「魔法か、その発想は無かった。サディア付近まで来れる、なら、サディアからカンセドへは大きな森が多い。カンセドに近づくのに難は無いか。カンセド・ビルギンス間で稀に見かけるのはやはり偵察か」
「草原が主で、果ての岩壁まで続いてたりするし、盆地と平地、あとは小さい森、むしろ大きな木立ちだな数十メートル四方くらいしかない。大勢が隠れられる場所は殆ど無い。ルート探索が目的なのかね」
「沸いて出るわけは無いから何処かに集まっているのかとは思っていたが、どんぴしゃか」
「予想通り、カンセド近くの森の奥か」
「そこまでは私も分からないのです。なにせ私は彼らとは離別して動いておりますので」
「そいや、アルタさんはなんでこの事を伝えに?わざわざ依頼まで受けて、あとそこのコルタクさんも」
「え、あっ僕は」
急に話を振られ、動揺しながら聞き流していた話を遡り答えを探す。
「えっと、僕はアルタさんに偶然会ってここに流れでいる感じかな」
「ええ、彼には心細さを補うために付いてきてもらってるだけで、事情は詳しくないと思っています。人が良すぎる気もしますけど」
そう言うと、アルタの笑いに釣られるように周りが笑う。
コルタクだけは失笑を零したが、同じ目をした学士達は話を進める。
「プレイヤーの話でカンセドの学術ギルドから小鬼についての情報、と言う依頼があると盗み聞いて此処まで来たんですよ。仲間には偵察と言ったきり離反したので、まあ、この接触が知られると裏切者判定されてしまうでしょう」
「…仲間を裏切ってまで、ここへ来た理由はなんですか?」
プレイヤー側の一人が警戒の目つきでアルタを見る。
裏切者の汚名を着てまで、イロノアからの旅路を超えた。そこまでの事をする必要が果たして彼にはあるのか。人間の味方をしようと、彼に益は無く、彼の言う言葉も一笑に伏せられる確率の方が高かったのだ。
小鬼の偵察、と疑うには目立ちすぎ、しかし、純粋な味方と捕えるには打算が無さすぎる。
どちらとも、判断の付けれていない彼らにアルタは当然の問いだ、と言った。
「その理由は、信念の齟齬、ですかね」
表情が読みにくい彼からは、それでも後悔と落胆、決意が感じとれる。その彼が出した答えに全員がその続きを促す様に、押し黙る。
一瞬の重い沈黙に、アルタは軽い口調で続けた。
「と言っても、私と同じ考えを持つものも数人いました。コルタクさんには話したのですが、私たち小鬼族の中に稀に頭の良い個体が生まれます。ギフトと呼ばれる物に起因するのですが、「ギフト」は御存じでしょうか」
問いかけに二人が首を捻り、三人が、知っている。と頷き簡単に説明をする。
「では、ギフトについては省略させて頂きます。ギフトによって知能の高い小鬼の事を私たちは単純に「集い」と呼んでおりました。基本的に集いの小鬼は他の小鬼とは接触しない生活を送っていたのですが、ある時、数か月前の事ですが、近くの集落の小鬼を統括し始めました。」
「統括と言うと、支配、と言う事ではないのか」
「そうですね、支配では無いです」
アルタはその問いに答えて、言葉を探した。
「いうなれば、支持を集めたのです」
「支持?小鬼の生態、と言うのも本人を前に変な話だけども、それに倣うなら力の強い物に従う。強尊弱卑の社会だったはずだが」
「ええ、しかし力による支配ではなく、彼は小鬼の同胞に矜持を持たせたのです。曰く」
我々は、人よりも上位の存在である。と。
「人よりも上?」
「ええ、正しくは、人が更に進化した生物なのですが、彼は単純に集落の小鬼らを集め、支持を得たのです。
人は我らより弱く、我らは人よりも強い。ならば、我らは奴らを虐げるのだ。と
これだけでは我々の支持を得る事は無かったでしょうが、しかし、彼もギフトを持った小鬼でした。魅力のギフト、生まれ持ったカリスマ性とも言えるそれを彼は存分に発揮し、そして「集い」の小鬼を、イロノアの小鬼を纏め上げたのです」
「さっき、言っていたアルタさんの考えって言うのは?それとその賛同していた人は今どこに…」
アルタは、その白銀の眼をその質問者に重ねると、安心させるように口を開く。
「大丈夫です。多少傷は負いましたが、私と一緒に逃げ、今は各地で隠れています。彼らも特別なギフトを持つもの達、そう簡単に見つかりはしないでしょう。
信条の齟齬、といいましたね。私の考え、と言うのは、我々は人と同等に生きるべきだ、と言う物です」
決して魔物、と呼ばれ狩られるのでなく、交易し、手を取り合うべきなのだ、とアルタは告げる。戦乱を求めず、しかし、革新は求め、力でなく意識での改革。行軍している、と言う彼の同胞以上に困難な事を、彼は実質ひとりで叶えようとしている。
ただ少し頭の良い、という理由だけでは成そうと思わないだろう決意に煌々と光る白銀の眼は、獲物として小鬼を認識していた事に揺らぐプレイヤーの眼を確りと捕えていた。
「人が更に進化した、と言うのは…?」
その眼に追われていた彼は、その視線から逃げる様に、語尾を震わせながら、問いかけた。
そして、アルタはそれこそ、伝えたかったのだ、と言わんばかりに、そうです、と声を強め、その言葉を繰り返す。
「我々小鬼族と言う物は、人間が進化して生まれた種、進化の過程で人間を逸脱しただけの人間なんですよ」
同じ人間なんです。彼はそう主張した。
夜が迫っている。
草原に落ちる太陽は、赤く燃え、来る夜に温もりを残さんと光を投げかける。
ビルギンスの噴水広場、老人がベンチに座り、子供が駆ける様子を目を細めて眺めていた。
もうすぐ街の壁に遮られ、開けた場所にあってどうにか建物の影を避けていた、老人の座るベンチに当たる温もりも消え去ってしまうのだろう。
走り回っていた子供は目に見えて動く影を目で追い、楽しげに足を止めている。遠くで誰かを呼ぶ声に、子供がそれでもどこかにあった寂しさが消え去ったような、澄み切った笑顔を其方に向けた。
母を呼ぶ声が聞こえる。
老人はその声を聴きながら、消える光を楽しげに見ていた。
夜が迫っている。




