「そこは水じゃないんですね」
あけましておめでとうございます。もう一か月ほど経ちますがっ
お気に入り100件突破致しました。これからもよろしくお願いいたします。
さて、魔力と言うものは、ただ動作をなぞり脳内で詠唱するだけで発動する技とは違い、魔力そのものの動きを自分で決めなければいけない。
今回、習得しようとしたのは魔法縄に魔力を満たし伸縮させると言ったものだ。
凄い物で魔力の感覚はすぐに掴めた。
いったいどんな感覚か。と言われてもVR-sistem内での体験は、現実世界では比較的はっきりした夢のような記憶なので的確に例えられないが、空気を操っているような感覚だった、と言えるだろうか。
手っ取り早いのは実際にプレイしてもらう事だろう。
ともあれ、魔力の特訓も無事終わり、数回縄の長さが数ミリにまで縮み、その上見失ってしまい、落したコンタクトを探すような状況に陥ったりもしたが、無事終わり、実戦で実践してみよう、と考えたわけだ。
――――――――ライフスタイルオンライン、タナカ出張レビューページより
コルタクは一人、草原に来ていた。と言っても街の結界からほんの少し離れているだけの場所だが、疎らに魔物がいる。
装備は野狼の革を鎧に仕立ててもらった物を新調している。
百眼大蛇の姿が見えたので、試しに投擲してみる事にする。
百眼大蛇は、その実目を持たない。その名前は鋭い嗅覚と赤外線探知によって、周囲を死角なく警戒する事と、その全身の斑点模様が元になっている。
が、赤外線探知機であるピット器官は前向きにしか付いていない。後ろから近付けば簡単にその「目」は避けられる。
しかし、その身体的弱点を補う様に風下に頭を向ける。という特性がある。
つまり、前方は赤外線によって、後方は嗅覚で視覚無く監視できる。
コルタクは、風下を向いて首を振り警戒する百眼大蛇の斜め後ろから構えを取っていた。
近づけば確実に察知されるが完全な風上でなく、頭を振れる範囲から外れた斜め後ろからだとある程度近づける。
「せい…よっ!」
練習中に会得した「狙撃」を発動させながら、縄を長くしていく。
打ち出したナイフは過たず蛇の頭部に突き刺さった。と、同時にコルタクに気付いた百眼大蛇がその眼の無い頭を向けてきた。在るべき眼孔は鱗に覆われていて、正面を見ると気味が悪い。
移動の早いこの魔物は、敵、獲物を発見すると素早く這い寄って来る。ダイクから聴いた情報を脳で反芻させつつ、腕を引き、縄の長さを急速に縮めナイフを回収する。
右手にナイフが納まった頃には草を掻き分けつつ近づいた百眼大蛇は身を縮め跳躍の体制を取っていた。
地面がら弾くように飛び出した大蛇はその大顎を開き噛みついてきた。
「おっうわっ!」
慌てて、一歩下がり咄嗟にナイフを斬り上げる。刃が立っておらず平たい部分で顎を打ち上げるとその勢いのまま大蛇は、腰が引けて屈んだコルタクの頭上を通り過ぎて行った。
「怖いなあ…」
口にずらりと並んだ鋭い歯列が目前に迫った感想を率直に言うと、激しく威嚇する大蛇に向き合う。
その時、視界の端にウィンドウが浮かび、新しいスキルの会得を知らせた。
「腹打ち:武器の面積が大きく、本来攻撃に用いる部分で敵を攻撃することで発動。自らに向けられる敵愾心の増加、…ワルク君がやってた奴かな」
流し読みをし、ワルクが大剣の腹で叩いていたのを思い出す。
「おぅわっ…っ横薙ぎっ!」
二度目、跳びかかってきた大蛇に、落ち着いてナイフを構え、「横薙ぎ」を繰り出す。
動作としては横に振るだけの簡単な技だが、範囲と威力が増加する。
口を裂かれ胴半ばを割られた大蛇はコルタクの横を過ぎ、草地の上に斃れた。
「一撃…だったのは投擲のお陰かな」
急所に当たりやすくなる狙撃を使用した投擲で頭部に深い傷を与えていたのが効いたようだ。
空かさず、手を蛇の上に掲げ採取を開始する。アイテムボックスに入ったのは、牙、革、肉、骨。だった。
「野狼は肉採取できなかったからなあ」
肉食獣の肉は旨みが少ないらしい。と未だ惜しんでいる自分自身を宥め、次の標的に向かう。巨鶏は見当たらないが、百眼大蛇は見える。
ソルトの依頼とレベルアップスキルアップを兼ねて、狩を続けようと、腰を上げた。
「ふぅ」
飽きてきたな、と草原に腰を下ろした。どれほど、大蛇を狩っただろうか。十四を超えた辺りで二匹に襲われ、何とか撃退した所で完全に止めてしまった。
大体五十程だとは思う。
アイテムボックスに入っている百眼大蛇の肉を眺めつつ、火熾しの道具でも持ってきていれば良かった、と後悔しつつ水筒を取り出し、仰ぐ。
ミントの香りに気分が和らいでいく。魔力回復の効果があるこの飲み物は中々に便利だ。
「す、すみませ…ん」
ミントティの余韻に浸り和んでいると、後ろから切羽詰まる声を掛けられた。
振り返ると、小さな体がいた。というより、倒れていた。
「えちょ、大丈夫ですか!?」
全身ローブ、と言うよりはマントだろうか、で覆い隠したその人物は皮手袋を力が無いように揺れながら伸ばし救いを求めてきた。
「に、肉…を」
「そこは水じゃないんですね」
「水…?」
「あ、いえいえ何でもないです」
切迫している様子の彼、声の調子からして男性のようだ、に蛇の肉を取り出す。
しかし、調理はどうしようかと、手の中の白く長い肉を見つめていると、それを横からかっさらわれた。
横を向くと外套の彼がそれを咀嚼していた。
外套から出した手袋におおわれた両手でがっついていた。
「んっく…申し訳ない見苦しいところを…」
本当に空腹だったのだろう腹部を押さえて、脈動始めた胃の音を慣らしている。人だったとしたら顔を赤らめているのだろう。
「いえいえ、それでどうしたんですか?」
「…やはり怪しいですか」
「まあ、それもありますけど。ほら、町も近いのに行き倒れだなんて、と」
「それは、個人的な事情で町に入るのを躊躇っていて、ですね。貴方なら大丈夫かと」
「…なぜ、そう思ったのですか」
彼はコルタクの質問に深く唸った。どうにも伝えるべきか迷う事情のようだ。
しばし考えたあと、彼は答えた。
「私は、他者の称号と言うものを視覚的に捉える事が出来るのです。観光者を持つ貴方なら、と」
「観光者…」
「持論でしかないのですが、観光者である方は温厚かつ非闘争的であると思っていますので」
まあ、ネットゲームで町で大半を過ごすと言うのは稀有なものかもしれない。
実際コルタクはギルドの依頼も街中の小間走りが中心でフィールド、草原や森へは数えるほどしか赴いていない。
「なるほど、それで、個人的な事情と言うのは、あなたの、その、種族が絡んでいるんでしょうか?」
種族という言葉に彼は体を硬直させた。先刻、生の蛇肉を食べている時、暗いフードの中が少し見えたのだ。
それを薄々相手も感じていたのか、納得したような声色で硬直を解いた。
「…やはり、見えてしまっていましたか」
「ええ、と言ってもあなたの事は何も分かりませんし、その外套じゃあ不意打ちにも向いてないですから」
真っ黒な筒の無い外套は前留めもすべて閉じられていて両腕を咄嗟に使う事が困難な形状だ。
疲労困憊状態でその服装ばらば警戒は少なくていいと、コルタクは断した。
が、それを彼は呆れたように笑った。
「助けていただいたのに言うのも何ですが、警戒心がないですね」
「あれ、そうですかね」
少し恥ずかしげに頭を掻くコルタクに彼は笑い、そしてそのフードを外した。
「私の名前はアルタと申します」
食料を譲った時にフードの中に見えたその顔は、夜の暗闇で見た物に酷似していた。
まるで体の大きな人をそのまま縮めたような体躯。
「お気づきの通り、私は小鬼です」
皺の強く寄った顔でアルタは申し訳無さげに笑った。




